04.Promise

「それじゃあ、私はこれを届けてくるわね」

後片付けを終え、小鍋に取り分けていた2人前のスープを持って、シスネはフェア夫妻の所へ。
腹ごしらえを終えた他のメンバーは、そのままシスネの家で談笑したり、客室で仮眠を取ったり、改めて外へ出掛けたりと、好きに過ごしている。

シユウはユフィの為の酔い止めがどこかに売っていないか探してみるも、薬局や診療所らしきものは見当たらず、得られたのは、

「酔い止めなぁ。二日酔いに効くやつならあるんだが……」

という酒場の店主からの回答くらいだった。

似た症状だが、流石にそれは乗り物酔いには効かないだろう。
シユウが諦めて外に出ると、バレットと鉢合わせる。

「お前、メシ食った直後に呑んでんのかよ」

「誤解です。酔い止めを探してて」

「酔い止め?」

「お嬢の」

「ああ……」

バギーでの酔いっぷりを見ていたバレットは、「ありゃ大変だな」と同情する。

「見つからなかったんですけどね。バレットさんは何してるんですか?」

「適当にぶらついてるだけだ。魔晄炉の方を見に行こうかとも思ったが、見張りが立っててよ。魔晄炉方面の出入口は、団長の許可が無いと通せねぇんだと」

「団長? ――ああ、シスネさんか」

「そういやお前、元々あいつと知り合いみてぇだが、どういう関係だ? 昔の女か?」

「は? 違います」

「じゃあ何だよ」

「八番街のバーで働いていた時のお客さんってだけですよ。昔の女って……俺のイメージってまだそんな感じなんですか?」

「別に女を取っ替え引っ替えしてるとは思ってねぇけどよ。浮いた話の一つや二つあんだろ?」

「ありませんよ」

「一つも?」

「ええ」

「そりゃあ流石にウソだろ。お前に限ってそれはねぇよ」

「…………まあ、信じられないならもうそれでいいですよ」

必死になって弁解するのも馬鹿らしくて、シユウは溜息で話を終わらせた。
そのウンザリとした顔を見て、はぐらかされているだけだと思っていたバレットは考えを改める。

「マジか?」

「もう好きに解釈して下さい。遊び人でも女好きでも何でも。俺が何度言っても、偏見は無くならないみたいですし」

「悪かったよ。でも、それじゃあ誰とも付き合ったことねぇのか? 今まで一度も?」

「さっきからそう言ってますよ俺は」

「シノビはそういう決まりでもあんのか?」

「そんなものありません」

「じゃあ何でだよ」

「何でって……恋人が居ないとそんなに不思議ですか?」

「別にそれ自体はおかしくねぇけどよ。お前の場合、わざと作らないようにしてなきゃ、そうはならねぇだろ。セブンスヘブンに居た時も、しょっちゅう声掛けられてたしな。告白された事だってあんだろ? それ全部断ったのかよ」

「…………申し訳ないとは思ってますよ、いつも」

「何でそこまでして……」

理解出来ない、と言いたげなバレットに、シユウは間を置いて答える。

「バレットさん、奥さんが亡くなった時、どう思いました?」

「あ? どうって……頭真っ白になってたからよ。ハッキリと覚えてるわけじゃねぇが……怒りとか絶望とか哀しみとかでグチャグチャだったぜ」

「でしょうね。だからですよ。俺はそれを味わうのが嫌なんです」

「はぁ? 何だそりゃ。亡くすのが怖いから、大事な奴を作りたくねぇってことか?」

「そうです。ウータイじゃ、人が死ぬのは珍しいことじゃありませんでした。停戦してる今はともかく、俺が居た頃は毎日死人が出てた。それは家族だったり、友人だったり……恋人や伴侶を亡くして泣いてる人も大勢居ました。そういうのを何度も何度も繰り返してると、嫌になるんですよ。大事な人なんて作るから、こんな傷付く羽目になるんだって。だから俺は……」

シユウは亡くしてきた人達の顔を思い浮かべた。
今でさえ、こんなにも胸が苦しいのに。それ以上など耐えられる筈がない。

「……でもよ、そいつらがお前にくれたもんは、亡くした時の痛みだけじゃ無かっただろ? 相手が死んでも、一緒に過ごした時間や思い出は無くならねぇ。そうだろ?」

「…………思い出せなくなるんですよ。死んだ時の光景で上書きされて、昔のことを思い出そうとしても、辛くなるだけで…………」

と、声に悲しみを滲ませて俯くシユウに、どうしたもんかとバレットは頭を搔く。

「じゃあアレだ。殺しても死ななさそうな奴を好きになれよ」

「……居ませんよそんな人」

「世界中探しゃあ、居るかもしれねぇだろ」

「そこまでして恋人が欲しい訳でもありませんので」

「そうかよ。あーあ、もったいねぇ」

「あれ? あそこに居るのってクラウド君ですかね」

民家の前に彼らしき人物と、エアリスらしき人が見える。
二人で何かを話しているところに、ティファらしき人も加わる。

「……修羅場か?」

「今その辺りの関係性ってどうなってるんですか? クラウド君がティファさんを好きな事は知ってますけど」

「ティファもクラウドのことは好きだろ。エアリスは分かんねぇな。カームでクラウドとデートしたとか言ってたが……」

「へぇ? じゃあエアリスさんもクラウド君が好きなんですかね。だとしたら修羅場ですね」

などと言いながら観察していたが、暫くするとクラウドが一人その場を離れ、残った二人が何やら話し込んでいる。

「うーん……? なんか修羅場って雰囲気じゃなさそうですね」

「だな。それよりクラウドのやつ、なんかまたフラフラしてねぇか?」

「例の発作ですかね。或いは、二股がバレたショックでフラついてるのかも」

「本当にそうなら、今頃ティファに吹っ飛ばされてるだろ」

念の為その足取りを目で追っていたが、クラウドはそのままシスネの家に戻っていった。
仮に体調不良だとしても、あそこなら安心して休めるだろう。

「そうだ、お前ティファなら良いんじゃねぇか? ティファは普通の奴よりはタフな方だろ」

「ティファさんに手を出すと、ただでさえ多い男の敵が倍増するので嫌です」

「ならエアリスは?」

「素敵な方だとは思いますけど、彼女のことはまだよく知りませんし」

「ユフィは?」

「お嬢は恋愛対象外です。今更そういう目では見れませんよ」

「じゃあ誰なら納得すんだよ……」

「だから、無理に好きな人を作ろうとしなくても、俺は一生独身でいいんですよ。バレットさんだって、再婚相手を探してる訳じゃないんでしょう? それと同じですよ」

「オレは一回経験してるからいいんだよ。でも、お前はまともに恋愛したことねぇんだろ? 自分から誰かに告白したり、デートしたり、そういうの一回くらいは経験しとけよ」

「じゃあ今やります。――バレットさん、好きです。デートして下さい」

「そんな棒読みで言われてもよ……ま、他人に言われてやるようなもんでもねぇか」

やっと不毛なやり取りが終わったかと思いつつ、ベンチが並んだ屋根付きの簡易休憩所を見付けたシユウは、ゴールドソーサーの時の事を思い出して、バレットを座らせた。
自分は座らずに、酒場で二人分の飲み物を買って戻ってくる。

「前に奢ってもらったんで、お礼です」

はいどうぞ、とテイクアウトの蓋付きカップを一つ手渡されたバレットは、中に入っている緑の液体を怪訝な顔で見る。

「……これ何が入ってんだ?」

「ジャングリーンって名前の飲み物だそうです。多分グリーンスムージーの類だと思いますけど、名物らしいので気になって」

シユウはバレットの隣に座って、自分の分を一口。バレットもそれに倣う。

「苦ぇ」

「健康的な味がしますね」

「まぁ身体には良いだろうけどよ……普通にコーヒーとかジュースにしとけよ」

「それは何処でも飲めるじゃないですか。ジャングリーンはゴンガガでしか飲めませんよ」

「お前限定品とかに弱いタイプか? それとも緑が好きなのか?」

緑が好きという考察の由来がトンベリにあると一拍遅れて気付いたシユウは、トンベリの良さを改めて説明しようとしたが、突然咆哮のようなものが辺り一帯に響き渡った。

「なんだ!?」

「今の……方角的には魔晄炉の方からでしたよね」

空になったカップを片して、様子を見に慰霊碑のある丘の上まで向かうと、他の仲間達やシスネも集まって来る。

「皆、さっきの聞いた?」

「ああ。ウェポンだな」

「もしかして、あれが貴方達の目的?」

「まあ、そんなとこだ。よく聞こえんのか?」

「何日か前からかな。青年団で調査に向かったんだけど、見たことの無いモンスターが居て、近付けなかった。黒くて、ウジャウジャ飛んでるだけなんだけど、何だか嫌な感じで……ゾッとするの」

「黒いウジャウジャ……そう言えば、七番街スラムで似たようなものに襲われたことがありましたね」

「フィーラーだろうな」

「そのフィーラー言うんは、なんですか?」

「運命の番人。運命を変えようとする者の前に現れ、行動を修正する存在だ」

これまた随分とファンタジックな話だなとシユウは思った。
まあ、その話が事実かどうかはともかく、厄介な魔物には違いない。元より魔晄炉を見るつもりで来たのだから、現地に向かうということで話は纏まる。

「そんじゃ、早く行こう!」

「てめえは留守番だ」

「はあ? なんで、どーして!」

「引っ掻き回されちゃあ、たまんねぇ」

バレットはユフィの首根っこを掴んで連れ戻し、シユウに押し付けた。

「頼んだぜ、お目付け役」

「俺も留守番ですか?」

「何があるか分かんねぇからよ。村にも何人か残ってた方がいいだろ」

というバレットの提案で、魔晄炉へ向かうチームと、村で待機するチームに分かれる事に。
魔晄炉組のクラウド達を、待機組のシユウと女性陣が見送る。

納得がいかず暴れるユフィを皆で宥めながら、村で過ごすこと一時間弱。

「ああ〜もうっ! ガマンの限界! やっぱり、アタシも行く!」

業を煮やしたユフィがそう叫んだところで、魔晄炉の方から爆発音が聞こえた。
音と振動で、村の住民達も続々と家から顔を出し、皆が魔晄炉上空の飛空艇を見る。

「ゲルニカ!? いつの間に……!」

「何ですか、あれ?」

「物資運搬用の神羅の軍用機よ」

「何の為にそんなものを……」

「狙いはウェポンだよきっと! あのでっかいマテリア、神羅も狙ってるんだ!」

「とにかく、行かないと!」

村の守りはシスネと青年団に任せ、ティファ達は魔晄炉へ走った。
袂まで来ると、シスネに借りたワイヤーガンも使って、朽ちた建物を登っていく。

吹き抜けになっている天井部分に到達し、そこから下の様子を窺ってみると、交戦中のバレット達の姿が見えた。
相手はフィーラー、ではなく、シユウとユフィにとっては見覚えのある、深紅の魔導アーマー。

「あ〜っ! あの女!」

「スカーレット……!」

一つ下の足場に飛び移ると、バレット達もティファ達に気付いた。
バレット、ケット・シー、レッドは無事な様だが、クラウドは頭を押えて蹲っている。

「クラウド!」

「キャハハハハ! いいザマね!」

コックピットに乗るスカーレットの高笑いが響いた。
バレット達を狙って放たれたエネルギー弾を、シユウが忍術で打ち消し、ユフィの手裏剣が機体を刻む。

「なに!?」

「お互いしぶといですね。そのアーマーも」

「アタシの顔、忘れたとは言わせないよ? オ・バ・サン!」

ユフィが声高に叫ぶと、バレット達を襲っていた魔導アーマーはピタリと攻撃を止めた。
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