04.Promise
スカーレットの意識が逸れたのを見て、バレット達はクラウドを連れて戦線を離脱。魔導アーマーの標的はユフィ達に移る。「……私くらいになるとね、オバサンと呼ばれたって、もう傷付いたりはしないの。ただひたすら、限りなく、とんでもなく――ムカつくんだよ!」
翼のように生えているロケットエンジンをフル稼働させて、急加速した機体が四人目掛けて突っ込む。
改良したのか、前回よりも動きや装備が良くなっている。とは言え、一度は倒した敵だ。どう戦えばいいのかは分かっている。
「お嬢、前と同じ作戦でいきましょう」
「了解! じゃあアタシは右腕っ!」
ユフィが宣言した部位に攻撃を集中させるのを見て、ティファとエアリスもそれぞれ別の部位に狙いを定め、攻撃を開始。シユウも余った部位を叩く。
「相変わらず、ウータイのお猿さんはセコい戦い方するわねぇ」
「他に良い戦法があるなら教えて貰えますか?」
「それなら、まずは科学部門に入って貰わなきゃ。それから、跪いて靴を舐めて頂戴。話はそれからね」
「なら結構です」
武器を操る左右の腕を壊して攻撃を封じ、飛び回る機体を氷の忍術で足止め。
エアリスが作った障壁が機体をドーム状に包み、中に入ったティファがボールのように跳ね回りながら蹴りを入れる。
「エアリス!」
「はいはーい!」
ティファの合図で、エアリスは閉じていた障壁の上部を開けた。
天高く舞い上がったティファのかかと落としが決まる。
「お見事」
「ちょっと、何するのよ!」
「インガオーホーでしょ! シユウ!」
前と同じく、コア部分の装甲を凍らせて破壊しようと、シユウが氷の術を重ねて、ユフィがその中心に手裏剣を突き立てる。
が、砕けたのは氷だけで、その奥の装甲は攻撃を弾いた。
「おろ?」
「残念。それはもう通用しないわよ」
魔導アーマーは壊れた両腕をドリルへ換装し、狙われたユフィは間一髪のところで攻撃を避ける。
元居た場所が螺旋状に抉られたのを見て、ゾッとしながら一旦退避。
「危なかったねぇ」
「あんなの工事に使うやつじゃん!」
「前回の戦法は対策済みだったみたいですね」
「どうすれば……」
「あら、もう手詰まり? なら、今度はこっちの番ね。イイ声で鳴きなさーーーい!」
再度突進しようと上空で旋回する機体に四人は身構えたが、魔晄溜まりから出てきたウェポンがそれを阻止した。
スカーレットはすぐ近くに迫ったウェポンの姿に目を奪われる。
「なんてヒュージなの……これがウェポン……私の獲物……!」
やはり狙いはウェポンのようだ。
スカーレットはティファ達には興味を失くして、魔晄溜まりに沈んだウェポンを捕まえるべく、近くにあるクレーンを操縦しに向かう。
「コラ待てー!」
「悪いけど、お遊びはもうおしまい」
追いかけてくるユフィを見て、スカーレットはロケットランチャーを取り出した。
放たれたロケットは進行方向にあった柱を破壊し、それが四人目掛けて倒れる。
ティファとシユウは咄嗟に前に避け、エアリスとユフィは後ろに避けた。
そのせいで、二人ずつに分断されてしまう。
「ティファさん、大丈夫ですか?」
「はい。エアリスとユフィは……」
「お嬢! エアリスさん! ご無事ですか?」
「なんとか! そっちは?」
「こっちもなんとか!」
「行って! アイツにだけは、マテリア渡すもんか!」
エアリスとユフィは別のルートを探すと言って、その場を離れた。
スカーレットは魔導アーマーに乗ったまま、器用にクレーンのアームを動かしている。
「二手に分かれましょうか。一人はスカーレットの注意を引いて、一人はあのクレーンを破壊する、っていうのはどうですか?」
「なら、私が囮になります。シユウさんなら、忍術や飛び道具でクレーンを狙えますよね? 私の格闘術だと難しいので……」
「ですが、囮役はかなり危ないですよ? スカーレットが何をしてくるか分かりませんし……」
「大丈夫です。お願いします」
ティファの提案は合理的だが、それでも彼女に囮役を任せる事をシユウは渋った。
その心境を、ティファが汲み取って言う。
「シユウさん。私、アバランチです。もう、民間人じゃありません」
だから、アバランチが犯した罪も、命懸けの戦いに身を投じることも、全て受け入れていかなければならない。
戦う人達の背に隠れて、安穏と過ごしていてはいけない。
ティファの言葉と瞳には、そんな覚悟が宿っているようにシユウは感じた。
その根底には自罰的な感情があるようにも思えたが、無下には出来ない。
「……わかりました。ですが、危ないと思ったらすぐに退いてくださいね。アバランチでもソルジャーでもシノビでも、無理は禁物です」
「はい。シユウさんも、気を付けて」
ティファはスカーレットの居る方へ。シユウはスカーレットに気取られないよう、死角を選んで反対側に回り込む。
ティファは大胆にもスカーレットの足元へ直接ワイヤーガンを撃ち込んだ。当然、スカーレットも彼女に気付く。
危険だが、囮役としては完璧だ。
シユウは今のうちにクレーンを破壊しようと印を結んだが、術が発動する直前にクレーンが向きを変え、何も無い場所に雷が落ちる。
「くそっ」
「今イイところなの!」
スカーレットはアームを振り回して、ティファの足場にぶつけた。
衝撃で足場は崩れ、ティファはワイヤーガンをクレーンに撃ち込んでその場を離れたが、魔晄溜まりの上で宙吊りの状態になってしまう。
「キャハハハハハ! 絶対絶命ね!」
「ティファ!!」
どこからかクラウドの叫びが聞こえた。
瓦礫の山に視界を遮られて姿は見えないが、まだ近くに居るらしい。
ならばティファの方は彼に任せよう。
シユウは動き回ってティファを振り回しているクレーンを止めようとしたが、周囲に浮いていたフィーラーが雪崩のようにスカーレットに殺到したお陰で、スカーレットは退却しクレーンも止まった。
ティファは振り子のように弾みをつけて、近くの足場に無事着地。
スカーレットを追いかけたいが、流石にあの高さは無理だなと、上空で遠ざかっていく魔導アーマーとゲルニカを見上げる。
まあ、何事も無く済んだことを喜ぼう。シユウは皆と合流する為に、まずティファの居る場所にワイヤーガンで接近。
「ティファさん、お疲れ様でした」
「シユウさん……」
ティファは何故か浮かない顔だった。
その理由はすぐに分かった。一段下の足場で、床を這って逃げようとしている神羅兵に、クラウドが剣を突き立てている。
「クラウド、もうやめて!」
ティファの悲痛な叫びで、クラウドは止まった。
が、周囲にはもう誰も残っていない。十数人の神羅兵は、皆息絶えている。
恐らく、先に手を出して来たのは神羅兵だったのだろう。彼は敵を排除しただけだ。
だが、ここまでやるのはクラウドらしくない。
ふらついて膝を着くクラウドに、近くへ降りたティファが駆け寄った。
優しく、「もう大丈夫」と声をかけるティファを、返り血を浴びたクラウドが見る。とても冷ややかな目で。
――――様子がおかしい。
「……傷は無かった。本当はティファじゃない」
虚ろな顔で、クラウドはそう呟いた。
「また傷の話? 傷なら見せたでしょ」
「なかった」
それが何の話なのか、シユウには分からなかったが、ティファは立ち上がって服を捲り上げる。
「ほら、見て!」
シユウは慌てて顔を背けた。
彼らの言っている傷は胸元にあるらしい。クラウドはしっかりと見ている筈だが、変わらず淡々と喋り続ける。
「かつてジェノバは、愛する者、恐れる者の姿で人に近付き、欺いた」
剣が地面を擦る音が聞こえた。
シユウは視線を戻した。剣を手にしたクラウドが、じりじりとティファに迫っている。
ティファは怯えて後ろに下がるが、足場は途切れており、追い詰められていく。
「俺は騙されない」
「クラウド!」
一体何が起こっているのか。
把握出来ないまま、クラウドがティファに剣を振り、避けようとしたティファが遥か下の魔晄溜まりに落ちていくのを見て、シユウは飛び出した。
なんとか空中でティファの手を掴み、ワイヤーガンを近くの鉄骨に絡ませて、再度宙吊りの状態になる。
最下層に集まっていた仲間達も、それを見て状況に気付いた。
「あいつら、何やってんだ?」
「見てあそこ。クラウドも居る」
ぶら下がっているティファとシユウを、クラウドは高みから見下ろしていた。
そして再び剣を振るう。斬られた空気は鎌鼬となり、二人目掛けて飛ぶ。
――――駄目だ、避けられない。
シユウはワイヤーガンから手を離した。
下は魔晄溜まりだ。分かっている。それでも、こうするしかない。
結局こうなるのなら、下手に飛び出さない方が良かったなと若干後悔しつつ、シユウはティファと一緒に魔晄溜まりに落下した。