04.Promise
翌朝。魘されることなくゆっくり眠ったシユウは、壁に凭れてぐーすか鼾をかいているバレットを見て笑みを零した。静かにベッドから降りて近くに屈み、耳元でフッと息を吹きかけると、バレットが「んがっ!?」と弾かれたように起きる。
「なんだ!?」
「ははっ。おはようございます」
「おめーかよ! 気色悪ぃ起こし方すんな!」
などと騒いでいると、忙しないノックの後にユフィが入ってくる。
「シユウ起きた!?」
「お嬢。おはようございます」
「具合は!? 魔晄中毒になってない!?」
「大丈夫……だと思います。今のところは」
シユウの両肩を掴んで揺さぶっていたユフィは、それを聞いて脱力。
「良かったぁ〜……もう、心配かけんな!」
「すみませんでした」
申し訳なさそうに、しかしどこか嬉しそうに謝るシユウに、ユフィは怪訝な顔。
「……なんか、妙に機嫌良くない?」
「え? いつも通りですが」
「んん〜?」
「それより、ティファさんの方はどうなりましたか?」
「まだ分かんない。クラウドも出て来ないし、多分まだ寝てると思うけど……ちょっと覗いてみる?」
と言いながら、ユフィはティファの居る部屋に聞き耳を立てに行った。
ケット・シーとシユウがそれに便乗し、「いやお前は止めろよ」とバレットがシユウにツッコむ。
「普段なら諌めますけど、クラウド君は昨日の事がありますから」
「それは大丈夫だって言っただろ」
「安心出来ません」
扉の向こうに耳を澄ませると、微かにクラウドとティファの声がした。
「起きてるじゃん」と呟くユフィに、シユウは「静かに」とジェスチャーで伝える。
「ありがとう。あの日のクラウドは、英雄だったね」
「……そんな資格は無い。あの日は、一緒になって崖から落ちた。昨日は、魔晄炉に突き落とした。……時々、自分がわからなくなる。知っていて当然のことを知らなかったり、知らないはずのことを知っていたり……俺が何人も居るような感じなんだ。どれが本当の俺なのか、わからなくなる」
「……うん」
「ソルジャーは劣化するらしい。俺は劣化しているんだと思う。多分、急速に……」
「クラウドは大丈夫だよ。今度は、私が守るから……」
不安に揺れるクラウドに寄り添う、ティファの優しい声。
静かになった部屋の中の空気を察したシユウは扉から離れたが、張り付いたままのユフィは興奮気味に言う。
「チューするよ、チュー!」
「しぃ〜っ!」
その声で盗み聞きがバレたらしく、ティファが中から扉を開けた。
寄りかかっていたユフィとケット・シーが、雪崩のように倒れる。
「心配かけて、ごめん」
「あ、あはははは……」
「ぼちぼちでんな〜?」
笑って誤魔化しながら、一人と一匹は足早に退散。
ティファは苦笑しながら、クラウドと共に部屋から出て来る。
他のメンバーと一緒にそれを見ていたシユウは、
「だから言っただろ。邪魔してやんなよ」
と呆れ顔のバレットに言われて、返す言葉もなく口を噤んだ。
リビングに集まった皆に、ティファはウェポンに飲み込まれた後、ライフストリームの中を巡っていたのだと話した。
気絶していたせいでその光景を見逃したシユウは、皆と同じように驚く。
「ってことは……ライフストリームの中には、星と、黒いフィーラーの戦いがあって、黒いフィーラーはセフィロスじゃないか、ってことか?」
「うん。私にはそう思えた、って話だけどね」
「星の中の戦い、どっちが優勢?」
甲乙つけ難いのか、ティファはエアリスの問いに暫く悩んでから答える。
「星、ライフストリーム。そう思う」
「そうなんだよ、そういう事なんだよ! 星が戦ってるんだ! 今この瞬間も、命燃やしてよ!」
水を得た魚のように活き活きと、立ち上がったバレットが叫んだ。
耳に手を当て、「ああ……今こそ、星の悲鳴が聞こえるぜ〜」と言う姿を、シユウが白い目で見る。
「バレットさんが言うと、一気に胡散臭くなりますね」
「あぁん!? 事実だろ! セフィロスみたいな、あんな人だか何だかわからない奴と戦うんだ。それには、星の力が必要になる! オレ達は星を助け、助けられ、共に戦う。そうだろ?」
「うん。きっと、そう」
「なんだかとても壮大な話ね」
どこかへ出掛けていたらしい家主のシスネが、玄関から入って来て言った。
「そういう話をするなら、おあつらえ向きの場所があるわよ」
「コスモキャニオンのことか」
「星命学の聖地! そういや、この辺りだったか」
「そこ、マテリアはある? マテリアがあるなら行く! ぜんっぜん行く!」
「太古より、星の力と知識が集まる場所だ。マテリアくらい、幾らでも――」
「オッケー、行く行く!」
大はしゃぎのユフィがレッドに抱き着き、わしゃわしゃと撫で回す。
されるがままのレッドはいつになく笑顔で、その理由をティファに問われると、
「故郷なんだ」
と答えた。
ならば道案内はレッドに任せてもいいだろう。一行は次の目的地をコスモキャニオンに決める。
「コスモキャニオンへ向かうなら、飛行機を使うといいわ。村の近くに国営飛行場跡があって、そこから野良飛行機が出てるの。村の南にあるゲートを出れば、辿り着けるはずよ」
シスネは場所を記した地図をクラウドに渡した。
そこまでの道程は森チョコボを使うといいと、村で飼育されている何匹かを貸してくれることに。
出立の前に、シユウはシスネに改めて礼をする。
「何から何まですみません。本当に有難うございました」
「いいのよ。具合は大丈夫?」
「はい。お陰様で」
「なら良かった。貴方もまだ彼らと一緒に行くのよね?」
「そのつもりです」
「なら――私が頼むようなことじゃないのかもしれないけれど、彼女達のこと、宜しくね」
シスネの目は、エアリスとクラウドの方を向いていた。
知り合いなのかと尋ねると、否定が返ってくる。
「友達の友達、みたいな関係よ。八番街で、一緒に戦ったソルジャーを覚えてる?」
「ああ……あの人ですか。名前までは覚えてませんけど……」
人懐っこい快活な青年の顔を思い出しながら言うと、シスネは少し寂しそうな顔で笑った。
「ザックスよ。彼の名前はザックス……覚えていてあげてね」