04.Promise
森チョコボのお陰で、飛行場跡にはさほど苦労することもなく到着出来た。ゴンガガ空港の看板が掲げられているのを見て、ここがそうだと判別はつくが、滑走路はあちこち割れており、その隙間から雑草が伸びている。
「こんなん、離陸も着陸もムリとちゃいます?」
「ええ〜? ここまで来てムダ足?」
「あれ、何かな?」
エアリスが指したのは、滑走路近くにポツンと立っている、パラボラアンテナ付きの小さな箱。
ケット・シーが言うには、共和国時代のテレボックスらしい。
使われなくなって久しいのだろう。あちこち錆びついて穴が空いている。
「動いてなさそうですね」
「御用の方は狼煙を上げてください――ブロンコ空港=v
クラウドが落書きのように書かれている文字を読み上げた。
狼煙に馴染みがないのか、エアリスがキョトンとする。
「火を起こして煙を上げて、遠くにいる人に合図を送るんです」
「ええ〜、知らないの〜? こ〜れだからお嬢様は〜」
「お嬢、こんなことでマウント取っても虚しいですよ」
通信環境が整っているミッドガルでは、狼煙を使う機会などそうそう無いのだろう。馴染みのある自分達の方が田舎者だと言うことだ。
シユウのその発言に、ユフィはむくれて反論。
「なにさ、ミッドガルかぶれめ! どーせシユウも、連絡取るのに機械ばっか使ってたんでしょ! 狼煙の上げ方も忘れたんじゃないの? いざって時に困っても知らないよ〜」
「仰る通り。不甲斐ない俺の為に、是非お手本をお願いします」
「もー、しょうがないなぁ〜。ここはアタシにまっかせなさ〜い!」
「……お前、自分がやるのめんどくせぇからって押し付けただろ」
「しっ」
はりきって作ってくれたユフィお手製の狼煙はすぐに完成し、白い煙はしっかりと青空に昇っていった。
しかし、飛行機は現れない。
「来ないですね……」
「気長に待ちましょう。それよりティファさん、魔晄炉ではすみませんでした。助けるつもりだったんですが、逆に助けられてしまって……有難うございます」
「気にしないで下さい。体調、大丈夫ですか?」
「そういや昨日、不整脈とか言ってたのは治ったのかよ?」
話に割り込んできたバレットと、心配そうな顔で見てくるティファに、シユウは胸に手を当てて「今はなんとも」と返す。
「ティファさんの方こそ、大丈夫ですか?」
身体的な面もそうだが、彼女の場合はクラウドに斬られたという精神的なダメージの方が大きい筈だ。
しかしティファは落ち着いた様子で「大丈夫です」と答える。
「ちゃんと話しましたから」
彼女はそれで納得出来た様だが、シユウの不安は払拭されなかった。
クラウド自身の意思でやった事では無いのだろうが、だから安心、とはならない。
「なぁ、ちょっといいか?」
その心を知ってか知らずか、ティファとバレットから離れたタイミングで、クラウドの方から話しかけてきた。
開口一番、
「悪かった」
と素直に謝られて、シユウは微妙な顔。
「赦せないなら、赦さなくていい」
「なら赦しません」
即答されて、クラウドも微妙な顔。
「だって、コントロール出来てないんでしょう、それ」
「……ああ」
「今後また同じことをする可能性もある訳ですよね」
「……そうだな」
「だったら、俺は警戒しておきますからね。貴方が妙な真似をしないか、見ておきます」
「……わかった。そうしてくれ。もしまた俺がおかしくなったら、その時は殴ってでも止めて欲しい」
「そのつもりですよ。他の皆さんは貴方に甘いですから」
「その分、あんたは厳しいな」
「そういう奴も一人は必要でしょう。嫌ってくれていいですよ」
「実は前から嫌ってる」
「でしょうね」
「……でも、今の俺に必要なのは、あんたみたいな奴なんだろうな」
薄く笑って言うクラウドに、心情を慮ったシユウも軽い調子で返す。
「それ口説いてます?」
「それは絶対に無い」
話はそれだけだと言って、クラウドは暇を持て余しているエアリス達の方へ向かった。
大切な人にまで剣を向けたのだ。
ティファに語っていたように、今の彼は自分の事が分からず、不安で仕方がないのだろう。
その不安に対して自分が取るべき対応は、これで間違ってはいない筈。
そんな思いで、シユウは宣言通りクラウドを監視したり、狼煙を維持する為に木を焼べたりしていたが、待てど暮らせど飛行機は現れず、痺れを切らしたユフィが立ち上がる。
「こうなったら奥の手! さあ、いでよ、ヒコーキ!」
何をするのかと思えば、マーシャラーのように滑走路脇で腕をパタパタと振り始めた。
その奇怪な動きをエアリスが真似する。
「何だありゃ。ニンジャ秘伝の技か? お前もやれよ」
「あれは俺は習ってません」
「あぁっ! やったー!」
ユフィが空を指して飛び跳ねたの見て、一行は同じ方角を仰いだ。
赤い機体の小さな飛行機が一機、こちらへ向かって降りてくる。
「本当に来たぜ!」
「でしょでしょ! どーよ!」
こっちこっち〜! と大きく手を振るユフィの近くに、飛行機は無事着陸。
ドアが開いて、パイロットだろう男が降りてくる。
「ご新規さんだな」
「コスモキャニオンに行きたい」
前に進み出たレッドが伝えて、
「喋った! どういう仕掛けだ、こりゃ」
誰もが一度はするであろうリアクションを男が返した。
「まあ、大空を駆けてりゃ、そゆこともあるわな」
よく分からない理屈で納得した男は、レッドの他に並んでいるメンバーを数える。
「定員オーバーだ」
「あらら」
「でもまあ、乗って乗れねぇこともねえ。オレの指示通り乗り込んでくれ。重量バランスってもんがあるからな」
運賃は先払いとのことで、クラウド達は提示された金額を払って順に乗り込む。
「定員オーバーだってんならよ、お前縮んどいた方がいいんじゃねぇか?」
バレットにそう促されたので、シユウは従ってトンベリに変化した。
タラップを攀じ登るトンベリを、バレットが鷲掴みにして中へ運び込む。
座席が4つしか無いので、溢れたバレットとレッド、ケット・シーは、後方の貨物スペースに詰め込まれた。
バレットに掴まれたままのトンベリは、手でぺちぺちとバレットの指を叩く。
「なんだよ」
「離して欲しいんとちゃいます?」
「今離したら転がって行くだろ。ちょっとガマンしてろよ」
シートベルト代わりらしい。
シドも運転席から皆に振り返って、「しっかり掴まってろよ、落っこちても拾わねえかんな!」と忠告。
そうして、飛行機は少々荒っぽい運転で、滑走路を飛び出して大空へと舞い上がった。
座席から窓の外の景色を見ていたメンバーが歓声を上げる。
「飛んだぁ〜!」
「あったりめえだ! オレを誰だと思ってやがる」
「うん? 誰?」
「ブロンコ航空社長兼パイロット、シド・ハイウインド! 今後ともよろしく!」
飛行機はゴンガガの森を抜け、渓谷沿いにコスモキャニオンを目指す。
機体がアトラクションさながら容赦なく揺れるので、シユウは大人しくバレットの手の中に居ることにした。
しかしこれだけ揺れていてユフィは大丈夫だろうかと心配していると、案の定、離陸から数分で弱々しい声が聞こえてくる。
「うう……ダメだ……」
「なんだ?」
「飛行機は大丈夫だと思ったのに……」
「おい、吐くなら外に吐けよ!」
可哀想にと、何もしてやれないトンベリは合掌した。なるべく早く目的地に着くことを祈るしかない。
「よう、シド」
「なんでい」
「こんな風に飛んでてよ、神羅が来たらどうすんだ?」
「空は誰のモンでもねぇ。神羅なんかクソ食らえってなもんだ!」
「ハハハハハ! あんたイイな! そうこなくちゃよ!」
一方、バレットはシドと意気投合して楽しそうだ。
バレットの他者の評価基準は分かり易い。自分と同じ思想を持った人間は好き、そうでない者は嫌い。
(……でも、それでいくと俺のことは嫌いな筈なんだよな)
実際、これまでは嫌われていたと思うが、いつから嫌いではなくなったのだろう。
そんなことを考えている内に、飛行機は無事コスモキャニオンに到着。
全方位が赤褐色の岩壁に覆われているその風景を、皆は物珍しそうに見渡す。
「オレが案内出来んのはここまでだ。これ以上は近寄れねえから、あとはテキトーに歩け!」
「次に頼む時は、どうすりゃいい?」
「狼煙上げろ。滑走路があれば最善を尽くす」
またのご利用を〜! と笑顔で手を振って、シドは飛行機で飛び立って行った。
それを見送って、案内役を引き受けてくれたレッドに皆ついて行く。
暫く歩いていくと、木造の立派な橋の先に、コスモキャニオンが姿を現した。
元の姿に戻ったシユウが、天高く聳える塔のような街並みを見上げていると、足元をレッドが駆け抜けて行く。
「ただいま〜! ナナキ、帰りました〜!」
元気の良い子供の声がその足取りを追った。
皆はその声が誰のものなのか、一瞬理解出来ずに呆ける。
「ナナキ……! おかえりよ、ナナキ!」
街の入口に立っていた見張り番の男が、飛び込んできたレッドをそう言って迎えた。
思い切り撫で回されたレッド、もといナナキは、嬉しそうに尻尾を振り乱す。
「さあ、ブーゲンハーゲン様にご挨拶をしておいで」
「うん! ――あの人達には、ほんのちょっと世話になったんだ。悪い人達じゃないから、入れてあげてよ」
ナナキは皆を振り返って言って、さっさと先に行ってしまった。
追いかけようとする一行を、見張り番が止める。
「今朝、空から降ってきましてね。ミッドガルの魔晄炉爆破犯らしいですが……」
そう言って、取り出したのは手配書らしき紙。
皆、アンダージュノンやゴールドソーサーでの事を思い出して身構えたが、
「貴方達は関係無さそうですね。ナナキの紹介もあるし、問題ありません」
そう言ってすんなりと通される。
相手が見せてくれた手配書には、クラウド達とは似ても似つかない、別人の顔写真が載っていた。