04.Promise
「アバランチの手配書、全然似てなかったね」「何か狙いがあるんだろう」
「そっちも気になるが、さっきのは何だったんだ? ナナキ、帰りました〜!≠チてよ」
「かわいいよね」
エアリスは元から知っていたのか、動じた様子もなく言った。
点在する見張り番の人々から、ナナキは天文台の方へ向かったと聞かされて、一行もそこへ向かう。
谷を一望出来るほどの高さまで上ったところで、眼下の景色を眺めているナナキに追いついた。
「私はこの美しい谷で生まれ育った。本来なら谷を守る戦士になる筈だったが、不覚にも神羅に捕まり……」
その後は言わずもがな。
嫌な記憶を振り払って、ナナキは皆の方を向く。
「助けて貰った借りは返した。私はここで、本来の道に戻ろうと思う。今まで世話になった。感謝している」
「寂しくなっちゃうな」
「それを言わないでよ〜、別れが辛くなっちゃうよ。でも、この谷を守ることは、オイラの使命なんだ」
こちらの喋り方が素なのだろうか。
あまりのキャラの違いに、シユウは驚きを通り越して感心していた。
バレットも「ずっと騙してやがったな」と悔しげに笑って言う。
「イヌだなんだと、侮る輩が多くてな」
「お〜い! ナナキ!」
どこからか呼ばれて、「じっちゃん!」と返事をしたナナキは、また元気よく駆けて行った。
「勝手に歳上だと思ってましたけど……あの姿を見ると、お嬢と同じくらいに見えますね」
「今のでお別れ?」
「谷に居りゃ、話す機会くらいあんだろ。オレ達がここに来た目的は何だ? 星命学の復習といこうぜ!」
別れを惜しむ間もなく、勤勉なバレットと、「マッテリア、マッテリア〜!」と目的がブレないユフィは、早々にその場を離れた。
エアリスは「探検、行ってみよー!」と拳を振り上げ、ケット・シーは疲れたのか、「暫くボーッとさせてもらいます〜」と、近くの階段に座って居眠りを始める。
協調性が無いなと思いつつ、シユウもクラウド達と別れて街の入口まで一人戻った。
見張り番の男に声をかけて、入ってきた時に見せて貰った手配書を今一度確認。
「何か気になることでも?」
「ああ、いえ。もし見かけたら通報しようと思って」
「そういう事でしたら、一枚どうぞ。何枚か降ってきたので」
と、何も疑うことなく渡してくれた男に礼を言って受け取り、近くの休憩所でじっくりと観察。
アバランチの誰かが、バレット達を助ける為に用意した偽物ではないかと思ったが、「空から降ってきた」と言うからには、これはヘリか何かでばら撒かれた物なのだろう。
シドのように、神羅の目を気にせず自由に空を飛べる者も居るには居るだろうが、アバランチに居るかと言われると怪しい。
そもそも、本物が消えてこれだけが出回っているのもおかしい。
仮に神羅が配ったものだとすれば、何か暗号でも仕込まれているのではないかと思ったが、それらしきものは見つからない。
(誰が何の為にこんな……思惑が分からないのが一番気持ち悪いな……)
それをスッキリさせたくてわざわざ戻ってきたのだが、謎は深まるばかり。
まあいい。手配書は手に入ったのだから、クラウドの所へ戻ろう。
そう思って席を立ったシユウは、酒場にバレットを見つけて方向転換。
「バレットさん? こんな所でどうしたんですか。星命学の復習は?」
「おめーらが誰もついて来ねぇからだろ! オレが一人で復習してどうすんだよ!」
「それはすみませんでした。でもほら、俺達はいつもバレットさんに講義して貰ってますし」
「それ聞いてねーだろ!」
「じゃあ今聞きますよ。はい、どうぞ」
適当にあしらわれたバレットは、「聞き流す気マンマンじゃねぇか」と嘆息する。
「一緒に来たのがあいつらなら良かったのによ……」
「……ジェシーさん達ですか?」
「他に誰が居んだよ」
コスモキャニオンは、セブンスヘブンのメニューの一つでもあった。モンティのレシピ帳にあったものではなく、ティファ達と一緒に考案した、透き通った綺麗な赤色のカクテルだ。
この辺りで採れる岩塩が隠し味になっていて、店の在庫が切れたら買いに行こうと、かつてアバランチの皆と話していたことを思い出す。
「連れて来てやりたかったな……」
「……………………」
「無視かよ」
「いや、なんて言えばいいのか分からなくて」
「そうですね≠ュらい言えんだろ」
「そうですね」
「オウム返しすんな」
「そう言えば、ウェッジさんは? まだエルミナさんの所に居るんですか?」
「……いや、あいつは……あの後、本家の奴らと一緒に神羅ビルに助けに来てくれてよ。オレ達とは別行動だったもんで、連絡が途絶えた後のことはオレ達も知らねぇが……本家の奴らが言うには、作戦の最中、ウェッジはビルから落っこちて……」
そのまま亡くなったのだろう。
バレットの表情を見て、シユウは悟った。
「……そうでしたか。すみません」
「なんで謝んだよ」
「そういう話、あまりしたくないでしょうから」
「そりゃそうだ。でも、お前には知る権利がある」
「……素性を隠してた嘘吐きでも?」
「お前それいつまで根に持ってんだよ」
「実際、一線引いてた部分はあったと思うんです。いつかウータイに戻る事になるだろうからって」
それでも、自分はセブンスヘブンの一員ではあったと思ってはいるが。
本当の意味で仲間になれていたのかどうか、今となっては自信がない。
「……もしあいつらがここに居たらよ、お前を仲間外れにすんなって言うと思うんだ。お前がウータイのシノビでも何でも、それがどうした、セブンスヘブンのバーテンダーだった事には変わりは無い≠チて言ってよ」
「……皆さんは器が大きいですからね」
「悪かったなオレは小さくて。――そういや今晩、ここの広場で星送りっつー祭りがあるらしくてよ。谷に集まった魂を送る儀式なんだと。見に行かねぇか?」
「俺でいいんですか? 俺はそういうの信じてませんよ」
「信じてなくても、死んだ奴らを偲ぶきっかけにはなるだろ」
そういう事ならとシユウは承諾し、日が暮れてから、バレットと一緒に広場に向かった。
他のメンバーも揃っており、谷の住民や観光客など、集まった人々と共に、井桁に組まれた焚き火を囲む。
「死んだ人間が星に還るとかいうやつ、ぜんっぜん、これっぽ〜っちも、信じてないんだよね、アタシ」
左隣に立つユフィが退屈そうに言った。
シユウは他の人には聞こえないようにと諌めつつ、「俺もです」と同意する。
「死んだらぜーんぶ、パァでしょ?」
「どうしてそう思うんだ?」
ユフィを挟む位置に立っているクラウドが聞いた。
ユフィは「理由なんて無いよ」と返す。
「自分で見たことないものは信じない。そんだけ」
「シユウもそうなのか?」
「ええ。でも、星命学の考え方は素敵だと思いますよ。本当にそうならいいですよね」
「そう思ってんなら信じろよ」
右隣に立つバレットが言った。
シユウは、星命学に纏わるエピソードを語り聞かせる人達を見ながら答える。
「今のこれも、星命学も、死者の為じゃなくて、遺された人が楽になる為のものなんじゃないかって思うんですよ」
「別にそれでもいいじゃねぇか」
「他の方はご自由に。でも、俺は嫌です。事実から目を背けてるように感じるので」
「だからって、ずっと直視してたら潰れちまうぞ」
「そうならないようにする為に、抱える人数を抑えてるんですよ」
「……ゴンガガで言ってた話か?」
「そうです」
大切な人を亡くした時の痛み。後悔。絶望感。自責。
星命学でそれらを軽くするのではなく、重さはそのままに、大切な人の数を減らす方法で、彼は自分を守っている。
死との向き合い方は人それぞれだ。
シユウのそれも、本人が望んだことならそれでいいとは思うが。バレットの心にはモヤモヤとしたものが残る。
「その生き方で、お前は幸せになれんのか?」
「さぁ……なれなかったとしても別に、幸せになる為に生きてるわけじゃないですし」
「――――はぁ!?」
「えっ、ちょっと、声大きいですよ」
周囲の人の目が一斉にこちらを向いたので、シユウは笑顔でペコペコと頭を下げた。
バレットも気付いて声のボリュームを落とす。
「だったらお前は何の為に生きてんだよ」
「ウータイのシノビとして戦う為に生きてます」
「それだけかよ」
「それだけですが」
「もっと他になんかねぇのかよ。将来の夢とか、叶えたい願望とかよ」
「とりあえず、ウータイの平和が守れればそれでいいです」
「平和になった後にやりてぇ事とかは?」
シユウはそれを考えて、難しい顔で唸る。
「……特に無いですね」
「マジかよ」
「バレットさんは何かあるんですか?」
「おうよ。ついこの前も、ゴンガガに移住して、畑仕事でもしながらマリンと暮らすのもいいな〜なんて考えてたぜ」
マリンと農業を営むバレットを想像して、今の粗暴さからかけ離れたその姿に、シユウは笑った。なんて微笑ましい。
「素敵ですね」
「だろ? お前もそういうの一つくらい持っとけよ」
「……その時が来たら考えますよ。生きてるかどうかも分かりませんし」
寧ろ、そうなってくれた方がいい。
ウータイのシノビとして生きて、戦いの中で命を落とす。両親も、友人も、皆そうだったのだから、自分もそれでいい。
自分だけが生き残って、平和な世界で幸せになるなんて――――
「わたしは、古代種です。大昔にこの星を開拓した、セトラの末裔です」
いつの間にか、エアリスが皆の前に立っていた。
バレットとシユウは会話を中断して、彼女の話に耳を傾ける。
「この世界に、もう、一人しか居ません。この血のせいで、わたしは……小さい頃から、監視されたり、閉じ込められたり、怖がられたり、たまに無視されたり……いいことなんて、ひとつも無い。どんなに楽しいこと続いても、血のことを思うと……台無し。そんなことが、何度もありました」
全て真実なのだろう。
他の人々は半信半疑な様子だったが、共に旅をしてきたメンバーには、それが分かっていた。クラウドの隣に居るティファは、一際辛そうな顔で聞いている。
「普通の生活なんて出来ないんだって、憧れたり、諦めたり……でも、そんなわたしだからこそ、出会えた仲間がいます。友達がいます」
エアリスは順に仲間の顔を見た。
晴れやかな顔で続ける。
「だから、もう大丈夫。報われました。――我慢してきて、よかった」
聴衆から拍手が上がった。
エアリスの話が終わると、皆、手に持っていたランタンを掲げ、夜空へと離す。
幻想的な風景だった。
ランタンの暖かい光が、星に混じって暗闇を照らす。
「……エアリスは立派だよな。ひでぇ目に遭っても、腐らずに頑張っててよ」
空を見上げながら、バレットが言った。
同じ景色を見ながら、シユウは同意する。
「おめーも色々あんだろうけどよ、自分の人生、諦めて早々に投げ出すなよ」
「投げ出してるつもりは無いんですが……」
「幸せになれなくてもいい≠チてのは、そういう事だろ。父ちゃん母ちゃんが聞いたら泣くぜ」
「……俺の両親が俺に望んでることは、ウータイを守ってくれ≠ニか、神羅を懲らしめてくれ≠ニか、そういうのだと思いますけどね」
「は〜、さっきからそればっかじゃねぇか。ウータイにゃあ、戦以外に何もねぇのか?」
「そんなことは無いですけど、夢や希望に溢れてる、という感じではありませんね。仕方ないですよ。今はそういう情勢なんで」
「でもよ、それじゃつまらねぇだろ。大変な時だからこそ、乗り越える為の楽しみがねぇとよ」
「別に俺は無くても平気ですけどね……そこまで言うなら、バレットさんが何か用意して下さいよ。頑張る俺へのご褒美」
そう言うと、バレットはむむむと考え込んでしまった。
シユウは「そんなに真剣に悩まなくていいですよ」と苦笑したが、バレットはそれでは気が済まないと思案を続ける。
「――まあアレだ。考えといてやる」
「そう言って、永遠に何も出てこないに一票」
「ああ?」
「期待せずに待ってますよ」
「てめぇ……ぜってー泣かしてやるからな」
ご褒美で泣くって何だ。嬉し泣きか?
それこそ想像も出来ないなと、ムキになっているバレットを見ながらシユウは思った。