04.Promise
「ナナキよ。お前に話さねばならぬことがある。お主らも来てくれんか」星送りの儀が終わり、コスモキャニオンの長老、ブーゲンハーゲンにそう声をかけられた一行は、地下深くにある洞窟へと案内された。
なんでも、ナナキが戦士となる為に必要な試験があるらしい。
ナナキと、見届け人として選ばれたバレット以外の面々は、入口で待機を命じられた。
そろそろ終わるだろうという時間になって、案内人と共に別のルートで洞窟の最奥を目指す。
「皆さんは、ナナキから両親の話は聞きましたか?」
「多少は。母親のことを尊敬していると言っていた。だが、父親のことは……」
「そうでしたか……」
「何かあったんですか?」
案内人は「皆さんには話しておくべきですね」と、かつてこの洞窟であった話を教えてくれた。
谷には、かつて「ギ族」と呼ばれる一族が存在していた。
コスモキャニオンに生きる人々にとっては「敵」であるその一族は、45年前、この洞窟を通って、谷に攻め込もうとした。
だが、それはとある勇敢な一人の戦士によって食い止められた。
体を石に変える毒矢を受けながら、次から次へと襲い来るギ族と戦い抜いたその戦士は、谷を守る為、己ごと洞窟を封じる決断をした。
「それがナナキの父親です」
「へぇ〜、立派じゃん。レッドはなんで嫌ってるの?」
「ナナキはこの話を知りません。父は谷を守る使命を放棄して逃げた≠ニ伝えられているのです。今回の試験は、ナナキに真実を伝える為のものでもあるのでしょう」
洞窟の最奥には、試験を終えたらしいバレットとナナキ、ブーゲンハーゲンの姿があった。
彼らの視線の先には、穴の空いた天井に浮かぶ満月と、それに照らされている石像――石になった戦士の亡骸――がある。
「じっちゃん、あれが……セト? オイラのチチ……」
「毒矢で体は石になってしまったが、崩れることなく、欠けることなく、あの勇姿じゃ」
全身に矢が刺さっていても、その佇まいは、今にも動き出しそうなほど力強かった。
見ただけで、かつての戦いの苛烈さと、最期まで戦い続けた彼の勇ましさが伝わってくる。
「ハハは……母さんは知ってたの?」
「ホーホウホウ、知っておったとも。わしは二人から、洞窟の封印を頼まれたんじゃ」
「なんで……なんで教えてくれなかったの!?」
「教えたら、一人でここまで会いに来ようとしたのではないか? お前の両親が最も守りたかったもの……それは他ならぬ、お前だよ、ナナキ」
優しく伝えるブーゲンハーゲンに、ナナキは悔しそうに俯く。
「……オイラが、小さくて弱かったから?」
「ホーホウホウ! あの小さく、非力だったナナキが、こうして立派な戦士に成長した。だから、ここへ連れて来たのじゃ。――ナナキよ、お前はこのまま、旅を続けなさい」
「オイラは谷の戦士だ! チチみたいに、これからずっとこの谷で――」
「聞くのじゃ、ナナキ。クラウド達の言う事を、わしは信じようとしなかった。セミナーの連中がしそうな話だとな。新しいものを見ても、聞いても、なーんか知ってるような気がしてのう。偉大な知見が含まれているかもしれん可能性を、わしのこの目は、見過ごすようになってしまった」
「……何の話したんですか?」
「ウェポンのことだ」
「なるほど」
初対面の若輩者にそんな話を聞かされれば、誰でも戯言だと聞き流すだろう。
シユウは「見倣わないといけませんね」と、ブーゲンハーゲンの柔軟さに感服する。
「若者たちの足を引っ張るのは嫌じゃ。――行け、ナナキよ! この谷でジジイ色に染まるな! 目が曇り、耳も詰まってしまったわしの代わりに、世界を見てくるのじゃ。試験は不合格、修行を積んで、出直してこい! ……できるな? ナナキ」
「……もちろん。だって……」
ナナキは崖を上って父の傍へ。
月明かりが親子を照らす。
「オイラは、コスモキャニオンのナナキ! 戦士セトの――息子だ!」
ナナキの遠吠えが響いた。
見間違いかもしれないが、石になったセトの瞳から、涙が流れているような気がする。ついでに、バレットも貰い泣きしている。
「結構涙脆いですよね」
「うるせぇ」
そんな感動的な空気の中、
「戦士の子よ……」
と、突如その場にギ族が現れて皆が驚く。
「我が名はギ・ナタタク。勇猛にして果敢な戦士セトよ。そなたの一族に、再び我らの願いを託したい」
攻撃してくる気配はなく、ギ・ナタタクはセトを仰ぎ見て、
「――流石セト。寛大な心に感謝する」
どうやってか了承を得た。
「戦士ナナキ。そして……セトラの民よ。共に来てくれ」
ギ・ナタタクが壁に手を翳すと、何も無かったそこに新たな道が出来た。
困惑する面々を置いて、ギ・ナタタクはその奥へと消える。
「じっちゃん……」
「ホーホーホーーーウ! 面白いことになってきたのう」
「どうする?」
「行くなら、報酬は2000だな」
「タダでいい。行くぞ」
これまでの話を聞く限り、ギ族は友好的な部族では無い。
招かれたからと言って、安易に着いていくのは危険だと思うが、クラウドはスタスタと示された道を歩いて行く。
道の先は魔晄溜まりに繋がっていた。
桟橋の先に小舟が浮かんでおり、船頭の位置にギ・ナタタクが佇んでいる。
「我らの住み処へ案内したい。さあ、お乗り下さい」
「行ったらなんかいいことある? すんごいマテリアくれるとか」
「奇遇ですな。我々もマテリアを求めているのです」
ならば同士だと言わんばかりに、ユフィは意気揚々と小舟に乗り込んだ。
他のメンバーも順に乗り込み、例によってシユウが残される。
「どう見ても定員オーバーですね。俺のことは気にせず、行ってください」
「いいからさっさと乗れよ」
見逃して貰えないらしい。
渋々トンベリの姿になったシユウは、バレットに摘まれて船の上に運ばれた。
誰も漕いでいないのに、謎の推進力で舟は陸を離れる。
水を怖がる理由を聞いた手前、全力でしがみついてくるトンベリが少し可哀想になって、バレットはぽんぽんと小さな背を叩いた。
トンベリは一瞬顔を上げてバレットを見たが、またすぐに服に顔を埋める。
「う〜、気持ち悪い……」
「船の揺れに、体を合わせるといいよ」
「んな器用なこと出来るか〜……」
「あんなに勢いよく乗り込んたのに」
「マテリアのためだもん……」
「静かに。星が聞いています」
「聞かれちゃまずいのか?」
「星が知ると、それは程なくセトラの耳に入るのですよ。セトラは少々、寛容の精神に欠けますからね」
ギ・ナタタクの物言いに、エアリスが聞き捨てならないと挙手。
「わたし、セトラの末裔ですけど」
ギ・ナタタクは、その顔を覗き込むようにじっくりと見た。
「……あなたが継承したのは、血だけのようだ。セトラの物語は、何処かに忘れてきましたね」
「……そうなの?」
「セトラの日々は過酷です。知らない方が、長く生きられるでしょう」
小舟はそのままゆったりとした動きで一行を運び、それなりの時間をかけて岸に到着した。
船酔いでグロッキーになっているユフィと同じくらい疲弊しているトンベリを、バレットが抱えて降りる。
大丈夫かと問うと、トンベリは弱々しい動きで尻尾を振り上げて、ぺしょりと下ろした。
どうやら駄目らしい。気力が回復するまでは運んでやるかと、バレットは肩にトンベリを乗せる。
ギ・ナタタクは、「ようこそ、ギ族の里へ」という歓迎の言葉を残して消え、小舟も水底へと沈んでしまったので、一行は不気味な雰囲気の漂う空間を進むことに。
『星の民よ、よくぞ来た』
「!? なんだ、今のは!?」
『ギの意識は、肉体を失くしても、滅することがありません。余所者の我らの意識を、星は受け入れてはくれないのです』
頭の中に直接響くような声が、あちこちから聞こえた。
ここに招かれたのは、彼らの声を聞き届ける為らしい。進む毎に、ギ族が訴えかけてくる。
『我らギの故郷……我らの星は、老いて力尽き、この星の一部となりました。空は割れ、大地は裂け、海は消え、時は乱れ……その混乱を生き延びた少数のギが、この星の住人となったのです』
『しかし星にとって、ギは異物でありました。死しても尚、異物……星が見張るこの地に縛り付けられ、生きることも、消えることも許されず、無為な時を過ごす苦行……』
『我らには、生も死も無い。あるのは、永遠のみ。セトラは我らを見捨てた。セトラは我らを裏切った』
『星に受け入れられぬ我らの運命……我らは、我らを癒す道を探った。ギは、癒しのマテリアを求めたり』
『それは究極の癒しを我らに与える。究極の癒し……すなわち、無。無に帰ることこそ、我々の悲願。ギの願いは、無垢なるマテリアを黒く染め抜いた』
「余所者のギ族を、星は受け入れてくれない……」
「ライフストリームに帰れないんだね」
「ギ族にとって、癒しは無になること……この星から消えるんが願い。せやなかったら、星ごと消す……?」
「こわっ! そのマテリア、アタシみたいにしっかりした人が管理した方が良くない?」
ぺちん。
「お目付け役は反対だとよ。元気になったか?」
ぺちぺち、と尻尾で返事と礼をして、トンベリはバレットの肩から降りた。
人の姿に戻ったシユウは、改めて「関わらない方がいいですよ」と忠告したが、クラウドは「避けては通れないらしい」と、道の終点でこちらを見ているギ・ナタタクを指して言う。
「オイラ達に、何を頼む気なんだろう……」
「あいつの言いなりにはならない。何処まで騙せるか分からないが、話を合わせよう」
ギ・ナタタクは、クラウド達が傍に来るのを静かに待っていた。
辺りは祭壇のようになっているが、祀られているものは何も無い。
「我々は、星が育んだ無垢なるマテリアを手に入れ、一族の願いを注ぎ込んだのです。長い時の果て……マテリアはついに願いを受け入れ、我らは大いなる癒しのマテリアを手に入れました。悲願が叶う、ついにその時が来たと、喜んだのも束の間のこと……憎きセトラがこの地に入り込み、我らの宝を奪い取ってしまったのです。我々はその漆黒の宝珠を、黒マテリア≠ニ呼んでいます。どうか、黒いマテリアを、我らの元に返していただきたい。それこそが、貴方がたに託したい、我らの願い……セトラの末裔が協力してくれるのであれば、長き蟠りも消えて無くなるでしょう」
「……手がかりは?」
「黒マテリアは、セトラの神殿に隠されたと聞いています」
セトラの神殿。たった一つのマテリアを探すのに、その情報だけでは苦労するだろう。
もう少しヒントは無いのかとクラウドは尋ねようとしたが、先にケット・シーが挙手。
「あの、ボク分かると思います」
「虚ろなる者よ、信じて良いのですか?」
「こいつが言うなら大丈夫だ。信じていい」
クラウドの言葉に、ギ・ナタタクは頷いた。
その体と、周囲の景色が、俄に薄れ始める。
「……どうやら見つかってしまったようだ。星の民よ、勇敢なる者達よ。どうか、黒マテリアをこの地に……」
まるで濃霧に包まれたかの様に視界は白く覆われ、それが晴れる頃には、セトの遺石がある洞窟に戻って来ていた。
何事もなく終わってホッとしつつ、案内人やブーゲンハーゲンの姿が見えないので、一行はとりあえず地上に出ようと、来た道を逆に辿る。
「キシシシシ! 上手くダマせたよね〜! あのギ族の亡霊、アタシ達がマテリア持ってくると思ってるよ!」
「大いなる癒しとか何とか言ってたが……要するに、とんでもねぇ威力の、おっそろしいマテリアってことだ。ああ、ヤツらに渡すワケにはいかねぇ」
「あいつより先に見つけないと」
「あいつって?」
「セフィロスだ。気配を感じなかったのか?」
またセフィロスかと思いながら、シユウは皆と揃って首を横に振った。
今回はフィーラーや黒マントは居なかったように思うが。劣化によるクラウドの異変と、セフィロスの話は別なのだろうか。
「セフィロスに関しちゃあ、お前がそう言うなら、居たんだろうよ」
「じゃあじゃあ、セフィロスも黒マテリアを狙ってるってこと?」
「ああ。そう考えた方がいい」
「大変、こうしちゃ居らんないよ。黒マテリアは、アタシが手に入れるんだから!」
「お嬢……本気ですか?」
「だって、究極のマテリアだよ? まさにアタシ達が探し求めてたモノじゃん!」
「でも、本当に全てを無に帰すほどの威力を持ったマテリアなんだとしたら、使ったが最後、俺達もウータイも、全部消えて無くなりますよ。それじゃ意味無いでしょう」
「うーん……でもほら、使わなくても、持ってるだけで抑止力にはなるし」
「それはそうかもしれませんけど……」
「ねぇケット・シー、セトラの神殿のこと、どうして知ってるの?」
「いや、え〜っと……知ってるっちゅーか、心当たりがあるっちゅーか。昔、会社の資料で見たことあるんです。神羅の端末があったら、調べられると思います」
「端末はコスモキャニオンにもあるのか?」
「の、ハズです。ブーゲンはんに聞いてみましょ!」
外に出た瞬間、皆は明るさに目を焼かれた。
地下であれこれやっている間に、朝になっていたらしい。一行は帰りを待ってくれていたブーゲンハーゲンに出迎えられる。
「ホーホウホウ! 無事に戻ったようだのう。一安心、一安心」
「も〜、心配いらないよ、じっちゃん。オイラは戦士セトの息子だからね!」
得意気に言うナナキに、皆は顔を見合せて笑った。
ケット・シーは早速、神羅の端末のことを尋ねたが、あろうことか此処にあったものは分解されて、発電用の風車のパーツにされてしまったらしい。
「じゃあ、セトラの神殿は知ってる?」
「神殿とな? セトラは神など必要としない。神殿など作りはしなかった筈じゃよ。神殿と呼んだのは、恐らく外の人間。セトラの建造物がどこかに隠されているという伝説は、多くの書物に残されておる。場所は明らかになっとらんがの」
「えー……」
「セトラは過酷な運命を辿った種族。見つけたところで、容易に足を踏み入れられる場所では無かろう。行くのならば、十分に用心せい。……ナナキを頼んだぞ」
「ああ。分かった」
「見て、聞いて、触れて……書物では得られぬものが、そこにある筈じゃ。無事に帰ったら、わしにも話を聞かせておくれ」
ブーゲンハーゲンはナナキの頭を撫で、ナナキはその手に頬擦り。
そこへ門番が駆け込んでくる。
「ブーゲンハーゲン様!」
「なんじゃ、騒がしいのう」
「また、あの黒いマントが現れまして……いかがいたしましょう」
それを聞いて、一行はその場へ向かった。
話の通り、街の入口の橋の前に、倒れている黒マントと、介抱している門番が居る。
「その人、大丈夫なの?」
「ナナキ! ああ。衰弱はしているが……最近多いんだ。魔晄中毒だって言う人も居るけど、この症状は……」
「ニブル……ヘイム……」
黒マントの男が、掠れ声で呟いた。
呪文のように、何度も繰り返す。
「ニブル……ヘイム……」
「ニブルヘイムって言やあ……」
「俺とティファの故郷だ」
「ニブルヘイム! あそこやったら確実に神羅の端末があります!」
「あった……とは思うけど……」
カームで過去の話を聞いた面々は、浮かない顔をするティファやクラウドの心境を察したが、当時別行動だったシユウとユフィ、ケット・シーには伝わらない。
「クラウドさん、さっき言ってくれたやろ。ボクの言うこと信じていいって。その場凌ぎやったかもしれん。でもボクは、クラウドさんの言葉、ホンモンにしたいんです」
「でも……」
「……行ってみよう」
ケット・シーの熱意に押される形で、ティファは承諾した。クラウドも、ティファがいいなら、といった様子で承諾。
他に手掛かりがないのだから、そうするしかない、というのもあるのだろうが。
「……大丈夫かよ」
心配そうにバレットが呟くのを、隣のシユウは聞いていた。