05.SecretDesire
魔晄炉までは専用のエレベーターが設けられているようだったが、それを使うにもカードキーが必要らしい。仕方なく別の道を探していると、途中、崖下の川を見て、クラウドが立ち止まる。
「どうしたの?」
「……思い出したんだ。ザックスのこと」
「ザックス?」
ゴンガガでシスネからその名を聞いたばかりのシユウは、思わず聞き返した。
「知ってるのか?」
「顔見知り程度です。それより、思い出したって、どういう事ですか?」
「5年前の記憶があやふやなんだ。所々抜け落ちてる。どこかで頭を打ったのかもな……でも、今この景色を見て、少し思い出した。ザックスはここの吊り橋から落ちて、ここから流されていった。そして恐らく……」
死んだ。
シユウはクラウドの真似をして崖下を覗き込んだ。
確かに、高さと川の流れの速さを見るに、落ちて助かるとは思えないが。
「ティファは覚えてたんじゃないか? だから……」
「……触れない方がいいのかなって」
「……ザックスは友達だった。それなのに、忘れるなんて……」
劣化か、と、クラウドは己の掌に視線を落とした。
ティファがその手を両手で包み込む。
「違うよ。クラウドは思い出したんだよ。良かったじゃない……うん、良かった」
自分に言い聞かせるように繰り返して、ティファは微笑んだ。
クラウドも手を重ねて、「そうだな」と頷く。
「ザックスのこと、エアリスにも伝えないとな」
「……うん」
「? どうしてエアリスさんに?」
「恋人だったんだ。エアリスは今も、ザックスの帰りを待ってる」
「へぇ……」
シスネがエアリスとクラウドを気にかけていたのはそういう事か。
納得するシユウの横で、ティファは逡巡。
「……ねぇクラウド、エアリスに伝えるのは、私に任せてくれる? 友達だから……ね?」
「? ああ」
「この話は、他の皆には内緒で。シユウさんも、お願いします」
何故秘密にする必要があるのだろう、と思いつつ、何か事情があるのだろうと汲んで、シユウはその頼みを受け入れた。
先に行っていたユフィに呼ばれて、三人はまた歩き出す。
「……ティファさん、何か隠してませんか?」
クラウドが離れたタイミングで、シユウはこっそりティファに尋ねた。
ティファは申し訳なさそうに「すみません」と謝る。
「隠し事があるのは構わないんですが、力になれることがあれば言って下さいね」
「有難うございます。でも、今は大丈夫です」
「……本当に?」
「……はい」
かなり不安そうな顔をしているが、ティファがそう言うのならと、シユウは引き下がった。
恐らくはクラウド絡みの事だろう。さっきのザックスの話に、何かおかしい部分でもあったのだろうか。
元よりクラウドの監視の為について来ているシユウは、目を離さないようにしようと警戒を強めつつ、クラウドの背中を追った。
ユフィお目当ての天然のマテリアがある洞窟に差し掛かると、ユフィとシユウは顔を顰める。
「おえ、くるしい……」
「なんか息苦しいですね、ここ」
「魔晄が充満してるせいかな……」
「早めに抜けるぞ。濃すぎる魔晄は危険だ」
流石はソルジャーと言うべきか、クラウドは表情一つ変えずに、すいすいと進んでいく。
洞窟の奥には、魔晄を宿した大きな結晶が幾つも並んでいた。
「これ、ぜ〜んぶマテリアなの?」
「5年前より、凄いね……」
「天然のマテリアだ。マテリアは魔晄エネルギーが凝縮されたもの……自然の状態でここまでになるには、一体どれほどの時間が掛かることか……」
ティファが息を呑んだ。
焦った様子で、「先へ行こう」とクラウドの腕を引っ張る。
まあ、魔晄の影響を考えると、早く離れるべきではあるが。今のリアクションは何だ?
気になったシユウは改めてティファに尋ねる。
「ティファさん、クラウド君が何か――」
「大丈夫です!」
鬼気迫る顔で、遮るように言った後、すぐ我に返ったティファは「すみません」と付け足した。明らかに大丈夫ではない。
「何でもないんです。気にしないで下さい」
追求されたくないのか、足早にその場を離れるティファに、シユウは溜息を吐いた。
傍目に見ていて、今のところクラウドにおかしな部分はない。だが、何かティファにしか気付けない異常≠ェあるのだろう。
ティファから事情を聞くのは難しそうだが、このまま放っておいていいのだろうか。
そんなシユウの心配を他所に、ユフィはクラウドと取り留めもない話で盛り上がっていた。
崖を登り、ダクトを滑り降り、昇降機を使って上に向かうと、やっと魔晄炉の入口が見えてくる。
随分時間がかかったなと、通ってきた道程を振り返って思っていると、前を歩いていたユフィが「え……」と呟いて立ち止まる。
不思議に思いながら視線を辿って、シユウも同じリアクションをした。
ウータイのシノビが、魔晄炉の前に何人も倒れている。
全く予想していなかった光景だった。
ユフィは倒れているシノビの一人に駆け寄り、シユウは周囲を警戒したが、彼らと交戦したのだろう神羅兵は、皆すでに斃されている。
状況を把握出来ていないクラウドとティファに、ユフィが説明。
「シノビだよ。ウータイの! これ……戦争? アタシの任務、どうなっちゃうの? 方針変更……? 聞いてないよ……!」
「今は休戦中……だよね?」
「その筈だ。でもどうだろうと、死んだヤツらには同じことだ。――行くぞ、ムラサキを探そう」
シユウは取り乱しているユフィの背を摩った。
正直、こちらはもうカードキーどころではないが、死体の傍でパニックになっていても仕方がない。
ユフィもそれを理解して、よろよろと立ち上がる。
「始めたんだ……始まったんだ……どうして、こんなこと……」
「何も聞いてないの?」
「知らないよ! 何が起きてるのか全然わかんない。アタシ、まだ何にも役に立ってない!」
「俺達の役には立ってる。冷静にな」
「……わかってる」
クラウドの声掛けで、ユフィは多少落ち着きを取り戻した。
彼らが居てくれて良かったなと思いつつ、シユウは倒れているシノビと神羅兵を観察。
「あんたは大丈夫だな」
「まず大丈夫か?≠チて聞いて下さいよ。俺もかなり動揺はしてますよ。――この傷口、モンスターにやられたって感じではないですよね」
「ああ。ウータイ兵の方は、銃でやられてるな」
「となると、やっぱり神羅兵とやり合ったって事ですよね……参ったな……」
ユフィの言う通り、何か本国で方針の変更があったか、或いは敵情視察に来て、うっかり兵と鉢合わせただけなのかもしれないが、どちらにせよ腑に落ちない。
(わざわざこんな戦装束まで着て……これじゃ、戦争ふっかけてるようなものだろ。それが狙いだとしても、何で今……)
切り札が手に入った訳でも無いだろうに。
いや、自分達が知らないだけで、何か進展があったのだろうか。
生き残りがいれば話を聞きたかったが、残念なことに魔晄炉の中も同じ有様だった。
倒れている人達の中に、探していたムラサキ課長の姿もあったが、既に事切れている。
戦いに巻き込まれて死んだのだとしたら――シユウは心の中で深く詫びてから、血に濡れた社員証を拝借。
「恐らくこれがカードキーでしょう」
「見て、これって役場にあった神羅の端末だよね。ケット・シー達と連絡取れないかな?」
とりあえず電源を入れてみると、特に何の操作もしていないのに、画面上にケット・シーの顔が映る。
『ユフィはんでっか? 今どこに居ります?』
「魔晄溜まりの奥の部屋だよ。そっちは?」
『役場ですわ。何かお手伝い出来るかと思って、魔晄炉の端末にアクセスしてみたんです。ムラサキはんには会えましたか?』
言葉に詰まるユフィの代わりに、クラウドが答える。
「……死んでいた。ウータイと戦闘があったようだ」
『なんと! ――ややこしい事になる前に、神羅屋敷の端末、借りちゃいましょ。カードキーはあります?』
「それらしいものは見つけましたよ」
『じゃあ、その端末に差し込んで下さい。こっちで遠隔操作して、屋敷の門、開けてみますわ』
言われた通りにして、待つこと数分。
解錠は上手く行ったらしく、ケット・シー達は先に屋敷へ向かうと言って、通信は切れた。
「じゃあ、私達も戻ろっか」
「カードキーがあれば、帰りはエレベーターが使えますね」
そのルートだと天然マテリアが回収出来ないと、ユフィが不満がるのではとシユウは思ったが、彼女は特に何も言わずに従った。
流石に今は、マテリアよりもシノビの事が気になるのだろう。
ティファやクラウドも、場所のせいか口数が少なく、さっさと離れようと皆足早にその場を後にした。