05.SecretDesire
「で、これがその神羅屋敷ですか」ティファとクラウドの案内で、村の外れにある古めかしいお屋敷に連れて来られたシユウは、研究所らしからぬその建物をしげしげと眺めた。
中に入ってもその印象は変わらず、アンティーク調の豪奢な家具や内装が、空間を彩っている。
「荒れてますけど、元は素敵な家だったんでしょうね」
「ケット・シー達は? 居ないじゃん」
「エレベーターがあるけど……乗ってみる?」
ボタンは上と下の二種類しかなく、上を押しても反応が無かったので、下を押して四人は地下に向かった。
地下は上階とは違い殺風景で、石壁と鉄の扉が冷たい印象を与える。
そして中央には謎の大穴。
「何コレ?」
「老朽化で崩れた……にしては、綺麗に真四角に切り取られてますね」
まるで落とし穴だ。暗闇の先に、薄らと床が見える。
どうやらまだ下の階があるらしい。降りようか悩んでいると、何故かボロボロになっているケット・シー達がやって来た。
「おう、戻って来たか」
「あれ〜、なんかお疲れ気味?」
「おかえり〜」
「ただいま。端末は見つかった?」
「まだだ。色々あってな」
「……もしかして、ここ落ちました?」
「いやあ、えらい目に遭いましたわ」
本当に落ちたらしい。
どんな目に遭ったのか気になるが、今は先に端末を見つけなければと、皆で捜索を再開。
殆どの部屋の扉は施錠されており、開いたのは一部屋だけだった。
目当てのものは無かったが、部屋の奥に鎮座している、大きな木造の箱が皆の目に留まる。
銀の装飾が施されたそれは、形からして棺桶のように見えた。
遺体を安置しておくには、この場所は適さないと思うが。
中を確認しようとクラウドが手を伸ばすと、
「私を悪夢から呼び起こすのは――誰だ?」
棺桶の中から男の声がした。
続けて棺桶の蓋が吹き飛んで、中から赤いマントを羽織った男性が出てくる。
危うく飛んできた蓋が直撃するところだったシユウは、避けたソレと男を見比べて一言。
「びっくり箱じゃないんですから……」
「あんたこそ、何者だ?」
「ヴィンセント・ヴァレンタイン。私は……ここの警備員だ」
どこの世界に棺桶で待機する警備員が居るのか。
顔を見合せてヒソヒソ話す一行に、不審者――ヴィンセントは構わず続ける。
「見ない顔だな。何の用だ?」
「端末を借りたい」
「……カードキーを」
ヴィンセントは棚に置かれた機械を手に取り、クラウドの前に掲げた。
クラウドはカードキーを翳したが、機械は特に反応を示さず、ヴィンセントは「?」といった顔で機械を叩く。
使い方が分からないらしい。
見兼ねたケット・シーの助けで起動した機械に改めてカードキーを翳すと、今度は正しく情報が読み取られる。
「成程。端末の使用権限はあるようだ。――しかし、困ったことにお前はムラサキでは無い。ムラサキはどうした?」
「ああ〜、確かにカードキーは別の人のモンですけど、急ぎで調べなアカン情報があるんですわ。敵に先を越されるワケにはいかんのです!」
「敵……お前の言う敵とは?」
「……俺達の敵は、かつて英雄と呼ばれた男、セフィロスだ。奴は、星を滅ぼすほどの強大な力を手に入れようとしている」
正直に明かすクラウドに、突然そんな話をしても通じないのではとシユウは思ったが、何故かヴィンセントは納得。
「どうやら、私の罪がまたひとつ増えたようだ。――部屋のロックは解除しておいた。あとはご自由に、ムラサキ課長」
そう言って、ヴィンセントは棺桶の蓋を回収し、再び棺の中に消えた。
ユフィがコンコンと蓋を叩いても、「眠らせてくれ」「他の物には触るなよ」としか返ってこない。
「行っていい……のかな?」
「ロックは解除したって言ってたしな。見に行ってみようぜ」
開いたのはすぐ隣の部屋だ。
端末を見付けたケット・シーは、カードキーを差し込んで操作を始める。
「ちょ〜っとだけ待っとって下さい。そない時間はかかりませんから」
「分かりました。――さっきの人、こんな所でどうやって生活してるんですかね」
「実は吸血鬼なんじゃない? 見た目とかソレっぽかったし」
「それにしちゃあ、迫力が足んねぇだろ」
「そもそも、吸血鬼だって血を吸わないと生きられないじゃないですか。この屋敷は無人に見えますけど」
「アタシ達みたいに、屋敷に来た人を襲ってるんじゃない?」
「でも、オイラ達のことは見逃してくれたよ?」
「バレットさんが硬くて美味しく無さそうだったからですね、きっと」
「悪かったなマズそうでよ。お前が襲われても、助けてやらねぇからな」
「なるほどなるほど……皆さん、分かりましたわ! ――って、クラウドはん達は?」
話していたユフィ達は、ケット・シーにそう聞かれて、クラウドとティファ、エアリスの姿が消えていることに気付いた。
どうやら奥に別の部屋があったらしい。中からティファ達と、具合の悪そうなクラウドが出てくる。
そして響く銃声。
「……その部屋への立ち入りを許可した覚えは無い」
いつの間にか、部屋の外にヴィンセントが立っていた。
彼の手に握られた銃はクラウドに向けられており、たった今そこから放たれたのだろう弾丸が、クラウドの近くの壁にめり込んでいる。
部屋に入っただけで発砲とは。余程重要な何かがあるのだろうか。
ヴィンセントは「ちょーっとした手違いですわ!」と弁解するケット・シーの胸倉を掴み、そのまま連れて行く。
「離して! やめて! 見逃して〜!」
「可哀想に……短い間ですが、お世話になりました」
「シユウはん!? 諦めんの早ないですか!?」
「離せ」
シユウの代わりに、立ち直ったクラウドが止めた。
ヴィンセントは「道理はどちらにある」とクラウドを睨む。
「悪いが、色々あってイライラしている」
「……奇遇だな。私もだ」
ヴィンセントはケット・シーをクラウド目掛けて投げ飛ばした。クラウドはそれを片手でキャッチする。
不意に部屋の空気が震え始めた。
開いていた扉はひとりでに閉まり、照明はチカチカと明滅する。
その明かりに照らされたヴィンセントの影が少しずつ膨らみ、別の形になっていく。ヴィンセントの呻く声が、獣の唸り声に変わっていく。
「――っバケモノめ!」
バレットはヴィンセントだったものに銃を乱射した。
二足歩行の獣は、その巨躯に見合わぬ素早さで避ける。
「なにあれ、どーなってんの!?」
「――来るぞ!」
クラウドは剣を構えて、獣の一撃を受け止めた。
が、衝撃を相殺出来ずに弾き飛ばされる。
ソルジャーのクラウドであれなら、他のメンバーが直に喰らえば一溜りもないだろう。
なるべく攻撃を分散させようと、皆散らばって獣を狙う。
だが相手はそんな小細工など通用しないとばかりに、壁や天井を駆け回って撹乱し、圧倒的なパワーで制圧してくる。
竜巻でも相手にしているような気分だ。
闇雲に攻撃しても避けられる。連携しようとしても崩される。
しょうがない。最終手段だ。
シユウは滅多に使うことのない召喚マテリアを取り出した。獣には獣で対抗するしかない。
呼び出された召喚獣――イフリートは、襲ってきた獣と取っ組み合いを始めた。
一行はそれを支援する形で攻撃を挟む。
畳み掛けられて劣勢になった獣は、跳躍して天井に退避。赤黒いオーラを纏い始める。
「おい、あいつ何かやろうとしてねぇか」
「エアリス、防げるか?」
「うーん……どうだろ」
「前に船で俺を守ってくれた術は? 範囲を広げれば、何とかなりませんか?」
「できるの?」
「シノビはそういうの得意ですよ」
エアリスが杖を振るって出現させた花の盾を、シユウが分身の術の応用で複製し、仲間達をドーム状に覆った。
獣が放った大技はなんとかそれで凌ぎ、イフリートが生じさせた炎の柱が獣を地に落とす。
決着はついたようだ。
元の姿に戻ったヴィンセントを、一行が取り囲む。
「クラウド君、ああいう時は素直に謝った方がいいですよ」
「俺のせいか?」
「他にあります?」
「で、こいつは結局何なんだよ」
「ヴィンセントはん……元タークスの、ヴィンセント・ヴァレンタイン。端末で調べさせて貰いました。こんな所で燻っている理由、セフィロスと関係あるんとちゃいますか?」
「……答える義理は無い」
「良かったら、一緒に行きませんか? セフィロスの生死に関しては、正直、ボクも半信半疑ですけど……この人達について行けば、なんや分かるかもしれません」
「………………」
「……このままでいいんですか?」
ヴィンセントはその誘いには乗らず、よろめきながら立ち上がり、「出ていけ。立ち去れ」と交流を拒絶するように元居た部屋に戻った。
本人にその気が無いのなら仕方がない。
ケット・シーは説得を諦めて、皆と共に屋敷を後にする。
「――さあ、いよいよ神殿だよ! 何が何でも、黒マテリアいただくからね。このままじゃ、アタシのメンツ丸潰れ!」
「お前のメンツなんて知るか」
「神殿、どこなの?」
「場所は分かったんですが……先にゴールドソーサーに寄って貰えまへんか?」
「はあ? なんでよ!」
「神殿に入る為には、キーストーンっちゅうカギが必要なんですが……かれこれ20年、行方知れずらしいんですわ。ただ、最後にあった場所が――」
「ゴールドソーサーなのか」
ケット・シーは頷いて、確率は半々だと語った。
まあ、駄目で元々だ。とりあえず行ってみることにして、ニブル空港へ向かう。
『――臨時ニュースです。一部地域で違法に配信された映像について、神羅カンパニーのルーファウス社長が声明を発表いたしました』
『映像の人物が語った内容に関しては事実無根であり、魔晄炉内の映像については、捏造である、との事です』
『また、人物が何者で、ウータイ暫定政府なる組織が実在するのか否かも、現在調査中、との事です』
ニブルヘイムを通り抜ける途中、軒先に置いてあったラジオから、そんな音声が聞こえてきて、シユウは足を止めた。