05.SecretDesire

魔晄炉の調査に来たウータイ兵が、神羅兵に射殺された――ラジオからはそれ以上の情報は得られなかったが、シユウの脳裏には、先程魔晄炉で見た光景が浮かぶ。

まさか、もう報道されているのか?
幾らなんでも情報が早すぎる。

「おい、何ボーッとしてんだよ」

バレットに背を叩かれて、シユウの意識はラジオから離れた。

「すみません。行きましょうか」

「なんか気になるモンでもあったのか?」

「……まあ、ちょっと」

ニブル魔晄炉の映像だとすれば、その映像の出処は何処だ? 施設内の監視カメラにでも偶然映って、偶然それを見ていた人が居て、咄嗟に電波ジャックして映像を流した? 流石にそれは無いだろう。

例えば調査の記録の為に誰かが撮影していたとして、その撮影者はどうやって逃げ果せた?
神羅側が最初から騙し討ちをするつもりで居たのなら、まず真っ先に撮影者や記録媒体を消そうとするのではないだろうか。

(ウータイ暫定政府、って言ってたな……お嬢の話を聞く限り、暫定政府は戦争に乗り気だし……開戦の口実を作る為にわざと……いや、流石にそこまではしないか……いやでも……)

そういう筋書きだと言われた方が納得がいく。

「見て、狼煙!」

眉間に皺を寄せて考えを巡らせていたシユウは、ティファの声につられて顔を上げた。
彼女が指す方角、丁度ニブル空港の辺りに、白い煙が棚引いている。

先客だろうか。呼ぶ手間が省けて助かったと思いながら向かうと、そこに居たのはシド一人。

「よう!」

「客待ちか?」

「いや、お前らを待ってたんだ。ちょっくら確認したいことがあってな。――あんたの母親は、イファルナって名前じゃねぇか?」

シドの視線はエアリスの方を向いていた。
生みの親の方の名前だろうか。エアリスは、警戒して答えを濁す。

「そう……だったら?」

「って、その通りなんだろ? オレの思った通りだぜ! いや、狼煙上げて正解だったわ!」

少年のようにはしゃぐ姿を見て、エアリスも仲間達も気を緩めた。神羅が差し向けた追っ手、という訳では無いらしい。

「で? どうしてる? 元気か?」

「……もう、いないの」

今度はシドが面食らった顔をした。
狼狽した様子で理由を語る。

「オレはパイロットになりたくて神羅に潜り込んでよ。でも最初は、技術屋のおっさんたちのパシリよ。ビルを上へ下へ、メンテナンスで駆けずり回ってた。そんときに偶然、ちっこい女の子を連れたあの人と出会ってよ。あん時の子、あんただよな」

「……たぶん」

「あんたはこれっくらいで、んでオレはこんなもんか?」

シドは手で当時のエアリスや自分の身長を表しながら懐かしむように言って、「そっか……もういないか」と寂しげに声を落とす。

「……なあ、あんた」

「エアリス」

「エアリスよお、オレに出来ること、なんか無ぇか? 力になりたいんだ。――あっ、下心なんか無いぜ!?」

唐突な申し出と、勝手に慌てふためいているシドに、エアリスはくすりと笑って、

「今まで通り、飛んでくれたら、じゅうぶん」

そう答えた。
バレットがそれに乗っかる。

「じゃあ、ゴールドソーサーまで乗せてくれよ。力になりたいってんなら、タダでよ」

「あ゙ぁん?」

「ちゃんと払います!」

「…………いや、オレの奢りだ。さあ、乗った乗った!」

まず「いいのかな?」と遠慮するエアリスとティファが乗り込んで、シドの懐事情など全く気にしていなさそうなクラウドとユフィが続き、バレットとトンベリ姿のシユウ、レッド、ケット・シーが定位置になった貨物置き場に座る。

最後の筈のシドは後ろを振り返って、

「うん? 増えたか?」

と言って操縦席に座った。
増えた? 皆がキョトンとしていると、ヴィンセントがタラップを登って現れる。

「……お前達の敵はセフィロスだとか。セフィロスとは浅からぬ因縁がある。私も行く」

気が変わったらしい。
事情を知らぬシドは、勝手に乗り込んできた不審者だと思ったのか、

「どうすんだ? オレが蹴落としてやろうか?」

と提案。
皆が戸惑う中、クラウドがヴィンセントに告げる。

「俺達の邪魔をしたら、斬る」

ヴィンセントは小さく頷いて、「ほな、どーぞ」とケット・シーに示された場所――シドが気を利かせて片付けてくれたのか、荷物が減って多少ゆとりが出来ている貨物置き場――に腰を下ろした。

「全員乗せて、飛べそう?」

「並のパイロットじゃ無理だろうな。――安心しろ、オレ様は特上だからよ!」

そんな頼もしい台詞と共に、タイニーブロンコはニブル空港を飛び立ち空へ。
機体が耐えられる総重量に腕前は関係ない気もするが、実際に何とか出来ているのがシドの凄いところだ。

「エアリス、イファルナは何で……病気か?」

「元々、弱っていたの。そして、わたし逃がそうとして、頑張り過ぎた……きっと、そういうこと」

「そうか……じゃあ本望だ」

「そうかな……」

「そう思って元気に生きろい! それが何よりの親孝行だ」

「……うん、そうする」

そんなシドとエアリスの心温まる会話を聞いていたトンベリは、不意に視線を感じて隣を見た。
長い前髪から覗くヴィンセントの赤い瞳が、じっとこちらを捉えている。

彼は表情筋が殆ど動かないせいで感情が読みづらいが、恐らく「何故モンスターが?」とでも思われているのだろう。
無害さをアピールしようと手を振ってみると、ヴィンセントは無表情のまま人差し指を差し出す。

これは何を求められているのだろうか。
分からないまま、とりあえず握手でもするかと指を両手で挟んで振っていると、突如機体がガクンと傾いた。そのままふらりふらりと蛇行し始める。

「なんだ?」

「ねえシド、これって……」

「わーってる。オレ様に任せて、ドーンと構えてろ」

続いて、小さな爆発音が両翼から聞こえた。
機体は更に不安定になり、急速に高度が下がっていく。

「シド……?」

「心配すんなって! 整備オレ様、操縦オレ様! なあ? カンペキだ!」

出発時には頼もしく聞こえたシドの台詞が、今は全く信用出来ない。
一際大きな爆発音と共に、皆の悲鳴が上がった。バレットが慌てた様子で言う。

「おい、エンジンが寝ちまったぞ!」

「うっせーな、ドーンと構えてろって!」

「高度が下がってまっせ!」

「グングン下がってるよ!」

「だからドーンと……」

「おい!」

気付けば、陸地がすぐそこまで迫っていた。
シドは開き直って言い直す。

「おっし、ドーンと着水だ!」

「!?!?」

バレットの手の中であわあわしていたトンベリは、それを聞いて凍り付いた。
頼むからそれだけはやめてくれ。イヤイヤと全力で首を振って抗議したが、その想いはシドにも機体にも届かない。

結果、降下、というより落下したタイニーブロンコは、シドのハンドル捌きで水面ギリギリのところで機首を上げ、正しいフォームで着水。
衝撃で座席から放り出された仲間達が、何人か床に転がる。

「見ろ! この見事な不時着!」

「見事じゃない……!」

全員に非難の目を向けられたシドは、笑いながら視線を逸らした。
そして、足元でのびているトンベリに気付く。

「あん? なんだコイツ」

「おい、ちょっと貸せ」

シドからトンベリを受け取ったバレットは、反応を見るために軽く振ってみたが、トンベリは抜け殻のように揺れるだけ。

「ダメだなこりゃ。まあ、気絶してた方がラクか」

「これからどうするの?」

「どうってこたぁねぇ。ちょっと手直しすりゃあ済む話だ」

そう言って、シドは外へ出て機体の上に登った。
仲間達はそれに続いたが、ヴィンセントはその場から動こうとしない。

「ここで待ってるなら、コイツ見ててやってくれ」

バレットはそう言って、トンベリをヴィンセントの膝の上に乗せた。
ヴィンセントは一瞬面倒そうな顔をしたが、何も言わずに受け入れる。

そうして、海の上での修繕作業が始まった。
と言っても、翼は折れてしまい、資材も限られている為、完全に元通りには出来ない。

数時間かけて出来上がったのは、飛行機能を失くして船と化したタイニーブロンコ。

「言ってなかったか? オレは陸海空の三界すべてを制した男、シド・ハイウインド様だ。覚えとけ!」

調子の良いことを言いながら、操縦席に戻ったシドがエンジンをかける。
クラウド達もそれぞれ元の場所へ着席。

「まだ起きてねぇか?」

「ああ」

バレットにそう答えながら、ヴィンセントはぐったりしているトンベリの頬をつついたが、反応は無かった。

「こいつは何だ?」

「仲間だ。一応な」

「変わった仲間だな」

「化けてるだけで、元は人間だぞ、そいつ」

「そうか……通りで」

あんな人間じみた動きをしていたのかと、墜落前のトンベリとのやり取りを思い出しながら、ヴィンセントは納得。

そんな一行を乗せたタイニーブロンコは、コレルの山々を抜け、海を渡りコスタ・デル・ソルへ向かった。
到着する頃になって、漸くトンベリの意識が戻る。

周囲を見渡して、すぐ近くにヴィンセントが居ることに驚き狼狽えていたトンベリは、バレットに鷲掴まれて皆と一緒に下船し、元の姿に戻る。

「いつの間にこんな所まで……」

「気絶してて良かったな」

「この度は、ブロンコ海運をご利用頂き、誠に有難うございました〜っと」

「あれ? 会社の名前、変わったね」

「もう飛べないからね」

「シド、こんなに付き合ってくれて、有難う」

「なんのなんの。んで、ゴールドソーサーに行くんだろ? オレもチクっと見学してくっかな。ついてっていいか?」

「もちろん!」

シドは「エアリスはいつも返事がいいなぁ」と、クラウドの胸を叩いた。比較されたクラウドは苦い顔。

一方、ヴィンセントは話には加わらず、スタスタと一人で歩いていく。

「めんどくせぇ奴だ。いつぞやの誰かさんを思い出すぜ」

確かに、と、当時を知るメンバーは揃ってクラウドを見た。
本人は「ああ。放っておこう」と同意してから、

「……俺のことか?」

遅れて気付いて、皆の笑いを誘った。
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