05.SecretDesire

キーストーンは元々「考古の館」という博物館に保管されていたらしく、閉館後に行方が分からなくなったらしい。
そこの館長だったディオに聞けば、何か分かるかもしれない。

コスタ・デル・ソルから陸路での移動中に、ケット・シーからその話を聞いた一行は、ゴールドソーサー内で手分けしてディオを探すことに。

他の皆が各エリアを見に行ったので、シユウはパークセントラルを彷徨いていたのだが、遊園地に一人で来た男に見えたのか、女性キャストに声をかけられる。

「ゴールドソーサーへようこそ! お兄さん、今日はお一人ですか? 良ければ案内いたしますよ!」

「すみません、遊びに来た訳じゃないんです。ディオ園長はどちらに?」

「あら、そうでしたか。これは失礼いたしました。園長なら、明日のスペシャルマッチの準備で、今はバトルスクエアに居らっしゃるかと」

「スペシャルマッチ?」

女性は近くに貼ってあったポスターを指した。
ディオと、何故かコルネオが睨み合っている。

「ゴールドソーサーの存亡をかけて、ディオ軍団とコルネオファミリーが戦うんです。園長が負けてしまうと、ここはコルネオランド≠ノなってしまうんだとか……」

「嫌な名前ですね」

「いやもう本当に、勘弁して欲しいです……しかも、園長は今療養中でして……」

「療養? どこか悪いんですか?」

「以前の事件の捜査中に負傷されたそうで。まだ包帯も取れていないんです。このままじゃ本当に……」

コルネオに乗っ取られたゴールドソーサーを想像して鳥肌を立てる女性に、シユウは「災難ですね」と同情を寄せる。

「ですから今日は、もうこれが最後だと思って、お客様を目一杯おもてなししようかと! そうだ、良ければお兄さんもどうぞ。仕事終わりにでも使って下さい」

と言って、女性はチケットを取り出して、シユウの手に握らせた。

「これは?」

「イベントスクエアで上映されているLOVELESSの観劇券と、スカイホエールスクエアのゴンドラ乗車券がセットになった、特別なデートチケットです! 本来は催事期間中に配るものなのですが……」

説明の途中で元気を失って、女性は「はぁ……」と溜息を零した。
その催事が今後予定通り行えるかどうかも分からないから、もう先に配ってしまおう、という事らしい。

気を取り直して笑顔で「楽しんでくださいね!」と見送ってくれた女性に別れを告げて、シユウはバトルスクエアへ向かった。
先に来ていたクラウド、エアリス、ケット・シーと合流して、マッスルコロシアムの中へ入る。

「おったおった。お〜い、園長〜!」

無人のリングの中にポツンと佇んでいたディオは、ケット・シーの呼び掛けで振り向いた。
聞いていた通り、あちこちに包帯が巻かれている。

「その怪我、どうしたんだ?」

「いや〜、タークスってのは強いんだなあ。細いから侮ったよ」

女性は前の事件の際の怪我だと言っていた。
恐らくは自分達を逃がす為に、ルードと戦って負った傷なのだろう。シユウは「その節はお世話になりました」と頭を下げる。

「ところでディオはん、キーストーン、知ってますよね?」

「以前はあんたが持っていた筈だ。俺達はそのキーストーンの行方を知りたい」

「ふむ……キーストーンは、今も私が持っているよ」

「わたし、セトラの末裔なんです。キーストーンは、セトラのもの……ですよね?」

「権利の主張か……そうか、なるほど……」

ディオは暫し黙考して、妙案を閃く。

「お嬢さん、貴方がセトラの末裔だと言うのなら、喜んでキーストーンをお返ししましょう。――ただし、条件付きでね」

「条件?」

「明日、ここで行われるスペシャルイベントについてはご存知かな?」

「俺はさっき聞きました。コルネオファミリーと戦うそうですね」

「そうだ。先日、挑戦状を叩き付けられてね。しかしこの通り、私はこの有様……最早これまでかと途方に暮れていたら、君達が現れた! The・運命! すなわちディスティニー! ――どうかね、ディオ軍団として、コルネオファミリーと戦ってくれないか?」

悪くない条件だ。
先の女性が気の毒だと感じていたシユウはすぐに承諾した。エアリスも参加を表明し、クラウドも頷く。

「報酬はキーストーン。いいな?」

「勿論。約束だ」

「人数制限が無いなら、他の皆さんにも参加して貰った方がいいですよね」

「そうだね。話してみよっか。その後は……明日まで、自由行動?」

試合は明日なので、今日はここで一泊することになるだろう。
ホテルの部屋はディオが用意してくれるらしいが、今はまだ日暮れ前。寝るには早い。

「わたし、やりたいことあるから、先行くね。話、会った人には、伝えておくから」

「ボクも園のマスコットキャラクターとして、久しぶりに働いてきますわ〜」

一人と一匹はそう言って、早々にその場を離れた。
残ったシユウはクラウドを見る。

「俺も予定がある」

「どんな?」

「チョコボレースのゴールドカップに出場する。グリングリンの頼みだ」

グリングリン、というのは、グラスランドのチョコボ牧場で知り合った、チョコボ飼いの少年のことらしい。
何かと縁があるようで、以前の銃撃事件の際にレースに参加した時も、彼の飼っているチョコボに乗って出場したのだという。

「……クラウド君、あの時は優勝してましたよね」

「まあな」

「今回も自信あります?」

「出るからには、勝つつもりだ」

「なら、俺もついて行っていいですか? 他にやることも無いので」

「あんたも出るのか?」

「いえ。クラウド騎手の応援をしようかと」

「…………。本音は?」

「チョコボレースって賭けられましたよね、確か」

ニコニコ顔で言うシユウに、クラウドは「勝手にしろ」と肩をすくめた。
チョコボスクエアに向かうと、見知らぬ少年――恐らくは彼がグリングリンだろう――とティファに迎えられる。

「クラウド! 待ってたよ」

「あれ、シユウさんも?」

クラウドがグリングリンと話している間に、シユウはティファにディオを見つけた事と、明日の試合のことを説明。

「ティファさんも出てくれますか?」

「もちろん! コルネオには、色々と借りもありますから」

クラウドはグリングリンと選手控え室に移動したので、シユウとティファは一緒に外で観戦することに。
去り際、クラウドが物言いたげな顔で睨んできたので、シユウは思わず吹き出す。

「いつまで警戒されるんですかね、これ」

「? 何の話ですか?」

「お気になさらず。――そうだ、良かったらこれ、どうぞ。デートチケットらしいんですけど、俺は誘う相手が居ないので」

シユウはキャストの女性に貰ったチケットをティファに差し出した。
ティファは「あ、それ……」と同じものを取り出して見せる。

「私もさっき貰ったんです」

「おっと、そうでしたか」

「有難いですけど、こんなにハッキリとデートって書かれてると、使うのにちょっと勇気が要りますよね……」

じっとチケットを凝視して、思い悩むティファに、

「……クラウド君は、ティファさんに誘われたら喜ぶと思いますよ?」

シユウはそんな言葉をかけた。
瞬間、ティファはガバッと顔を上げる。

「え? な、そんな、私そんなつもりじゃ……!」

慌てふためくティファの顔が、見る間に赤く染まっていくのを見て、シユウは「可愛いなぁ」と頬を緩ませた。
ティファはもじもじと視線をあちこち彷徨わせた後、

「……あの、私って、そんなに分かりやすいですか……?」

控えめにそう尋ねる。

「いえ。俺はティファさんの気持ちについては、ゴンガガまで気付いてませんでした」

「ゴンガガ……って」

ユフィに「チューするよ、チュー!」と囃し立てられたことを思い出して、ティファは更に慌てる。

「あの、違うんです! 距離は近かったかもしれないんですけど、そういうことするつもりだったわけじゃ……!」

必死に取り繕おうとするティファがあまりにも可愛くて、シユウは顔を背けて咳払いで笑いを誤魔化す。

「キスしたって良いじゃないですか。好き同士なんですから」

「好き同士……なんでしょうか。今のクラウドは……私のこと、好きなのかな……」

「え、そこ疑います? ティファさんよりもクラウド君の方が、気持ち重く見えますよ」

「……小さい頃は、そうだったかもなぁって思うんです。でも、ミッドガルで再会してからは……何だか知らない人みたいで……たまに怖くなるんです」

ティファは片腕を抱いて俯いた。
ゴンガガで斬られかけた事を思えば当然だとシユウは気遣ったが、ティファは首を振る。

「一緒に居たら危ないかもしれないとか、そういう不安とはちょっと違うんです。なんて言うか……私の知ってるクラウドが、別のものに上書きされて消えていくような感じがして……それが怖いんです。私との思い出も段々薄れて……そのうち、私の声なんか、届かなくなるんじゃないかって……」

ゴンガガ魔晄炉で、魔晄溜まりに落ちた時に見た幻。
セフィロスがクラウドを連れていく。手を伸ばしても、名前を呼んでも、クラウドには届かない。
ただの幻だ――そう思っていても、不安はどんどん膨らんでいく。
ティファは頭を振って、その悪夢から逃げる。

「私とクラウド、ニブルヘイムに居た頃は、今みたいに仲良しじゃ無かったんです。同郷の幼馴染だけど……それだけ。特別仲が良かったとか、そういう感じじゃなくて……だから、セフィロスの存在と私の存在を比べたら……クラウドにとっては、どっちの方が影響が大きいんだろうって……自信、無いんです」

様子がおかしくなった時に、自分では止められないのではないか――ゴンガガでクラウドに必死に呼びかけていたティファと、それを無視して彼女に斬りかかったクラウドの姿を、シユウは振り返る。

「……大したアドバイスは出来ないんですが、もし本当に、クラウド君が誰の声にも耳を貸さずに暴走するようになったら、その時は……」

「その時は……?」

「グーで殴りましょう。ティファさんの拳に勝るものはありません」

ティファは目を丸くした。
一拍置いて笑い出す。

「確かに、拳は自信あります」

「そうでしょうね。蹴りでもいいですよ」

一頻り笑って、ティファはふぅと息を吐いた。

「――有難うございます。少しだけ、気がラクになりました。私が弱気になってちゃ駄目ですよね。しっかりしないと……」

「そうですよ。セフィロスのことはともかく、クラウド君のことを何とか出来る人は少ないでしょうからね。でも、だからってティファさんが無理にその役目を担う必要も無いんですよ? あんな手のかかる男は放っておいて、俺にしませんか?」

と、ナンパ師を演じるシユウに、ティファはまた笑った。

「それ、私に恥ずかしいこと言わせようとしてますよね」

「あれ、言ってくれないんですか?」

「言いません。――でも、そういう事ですよね」

例え本当に、今クラウドの中で、ティファの存在がセフィロスに負けているのだとしても。
クラウドの事が好きなら、彼を助けたいと思うのなら、勝算があるかどうかなど関係ない。

「激励、受け取りました」

「疲れた時は言って下さいね」

「はい。頼りにしてます」

「じゃあ俺はこれで」

「あれ、レース見ていかないんですか?」

「鳥券だけ買って帰ります。俺がいると、デートの話出来ないでしょうから」

う、とまた赤くなったティファに別れを告げて、シユウはチョコボスクエアを出た。
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