05.SecretDesire
元気なナナキは、「これ、なんだろう?」と言って、中央にあるハンドルに飛びつく。その重さでハンドルはくるりと回り、連動してゴンドラも横に回る。
「わぁ〜!」
「回るだけかよ。つまんねーなぁ。操縦桿つけろい!」
「これ、そういうアトラクションとちゃいますんで」
「貸して貸して〜! アタシもやる!」
ナナキと交代したユフィは、全力でハンドルを回した。
ゴールドソーサーの綺麗な夜景が、窓の外で光の線に変わる。
「お嬢、調子乗って回し過ぎると酔いますよ」
「ヘーキヘーキ! これくらい…………うっぷ」
「酔ってんじゃねぇか」
「見てあれ、 チョコボ!」
回転が収まると、ホログラフィーで作られたチョコボの群れが見えた。
チョコボレースを再現しているようで、先頭を走っているジョーが、ゴンドラへ投げキッスを送る。
「クラウドも、そのうち追加されたりして?」
「今日のレース、凄かったもんね」
両隣のエアリスとティファに持て囃されて、クラウドは満更でも無い顔。
だがそれは最初だけで、
「今日のレース? ――あ、そっか。クラウド、出てたんだっけ?」
「うん。ゴールドカップっていう最難関のレースなんだけど、なんと優勝!」
「すごい! わたしも、見たかったなぁ」
「観戦するのも楽しいけど、今度は私も出てみたいな」
「じゃあ、この後、行く? わたし、今日はずっと歌詞書いてて、遊べてないんだ。ティファがレースするところ、見たい!」
「そうだ、歌! すっごく素敵だった。あれ、エアリスが考えたの?」
「そう。ティファ、あの時、がんばれって、言ってくれてたよね。勇気、貰った。有難う。チョコボレースの時は、わたしが応援するね!」
「うん、宜しく! そう言えば、可愛いアクセサリーが売ってる店があったの。エアリスが好きそうなものもあったから、良かったらそっちもどう?」
「喜んで! ね、せっかくなら他にも――」
と、クラウドそっちのけで盛り上がり始めてしまい、
「ティファ、場所を替わってくれ」
ただの衝立になりかけていたクラウドは、そう言って避難。
外では盛大な花火が上がり始めたが、この人数と騒がしさではムードの欠片もなく、シドは興味無さげに欠伸。その隣のヴィンセントに至っては、既に寝ている。
「にしても遅ぇな。拷問だぜこりゃ」
「これは景色を楽しむもんなんですよ! ほら見て下さい、見事なもんでしょう、この花火!」
「ねぇそれよりさー、ケット・シー、なんか占ってよ」
「それよりって……ええですけど、何占うんです?」
「たとえば〜、ユフィちゃんに相応しいパートナーはどんな人か! とか?」
「はぁ……」
「何そのメンドーそうなリアクション!」
「そもそも、ここにあのモーグリ喚ぶのは無理がありません? 既にちょっと狭いですよ」
「まあ試しにやってみましょか」
そう言って、ケット・シーは相棒のでぶモーグリをゴンドラの中央――ハンドルの上――に召喚。
薄ピンク色のもふもふとした毛皮が、全員の視界を覆う。
「何とかいけましたわ。ヘイユー! ユフィはんの未来、占うで〜!」
「いや邪魔だろ!」
バレットの意見を無視してケット・シーは踊り始め、でぶモーグリの口から出てきた短冊を、ユフィが千切り取る。
「え〜っとなになに? ――今日の運勢・小吉 足元に注意=v
「足元……さっき足をぶつけてたな」
「すごい、当たってるね!」
「いや、誰が今日の運勢占えって言った!?」
「この際だから、お前もついでに占って貰えよ、恋愛運」
「え? いやいいですよ俺は」
「ヘイユー! シユウはんの未来、占うで〜!」
勝手に始まってしまったので、シユウは渋々出てきた紙を取って読む。
「……気になるあの子とドッキドキ! ハプニングで、一気に距離が縮まるかも!=v
「誰だよ、気になるあの子って」
「知りません。居る前提で書かれてますね、これ」
「恋愛運を占いたがるのは、大抵そういう相手が居る奴だからじゃないか?」
「成程」
「ねぇ、アタシのもっかい占ってよ!」
「すんません。今ので紙が無くなったみたいですわ。補充せんと」
「え〜!?」
そんなやり取りをしている間に、ゴンドラは一周して元の場所へ戻った。
一行は互いの背を押し合いながら慌ただしく降りて、次の客に道を譲る。
「あっという間、だったね」
「これで終わり〜? 遊び足りないよ〜」
「じゃあ、ユフィも私達と一緒に来る?」
「行く行く!」
「オイラも!」
と、元気な女性陣とナナキはそのまま別のエリアへ。他はホテルへと帰っていく。
「――あ、バレットさん、マリンちゃんにお土産買っていきませんか?」
途中、土産物屋を見かけたシユウは、そう言って列から外れた。
呼ばれたバレットもそれについて行く。
「土産って、いつ帰れるかも分かんねぇのに、今買ってどうすんだよ。郵送するにも、エルミナの家に勝手に送り付けるわけにもいかねぇしよ」
「持ち歩けるサイズのものなら大丈夫ですよ。アクセサリーとか雑貨とか、色々あるじゃないですか。ほら、こういう小さいのとか」
シユウはモーグリのマスコットがついたキーホルダーを手に取った。
他にもチョコボにトンベリ、ケット・シーのマスコットもある。
「こっちのなんて、おみくじ付きですよ。よく出来てますね」
「あいつの占いは当たらねぇだろ」
「どんな結果が出るかな〜≠チていうワクワク感を楽しめればいいんじゃないですか」
「それならこっちの方がカワイイだろ」
バレットはリボンとキャラクターの飾りがついたヘアゴムを指して言った。
数本セットになっているもので、一本ずつリボンの色と飾りが違う。
「うん、いいですね。実用的ですし。それにしましょうか」
「つっても、異様に高ぇぞコレ」
「テーマパークのお土産なんてそんなものですよ。でも安心して下さい。こんな事もあろうかと、予め資金は用意しておきました」
と言って、シユウは懐から現金の入った封筒を取り出し、バレットに渡した。
「何だよこの金」
「クラウド君が出たチョコボレースの鳥券の払戻金です。これなら気兼ねなく使えるでしょう?」
「鳥券って、お前いつの間に……」
抜け目の無さを褒めればいいのか、ギャンブルに興じていたことを叱ればいいのか。
バレットは判断しかねて、曖昧なリアクションを返す。
「まあいいけどよ。そういう事なら、有難く使わせて貰うぜ」
「どうぞ。ラッピングもして貰いましょう」
クラウド達にも何かお菓子でも買って帰ろうかと、バレットをレジに送り出したシユウは、一人店内を彷徨く。
気になった商品を試食しつつ吟味していると、
「よぉ……久しぶりだなぁ、シノ。こんな所で楽しくお買い物とは、いいご身分だな」
と、突然背後から肩を掴まれた。
久しぶりに聞く呼び名と男の声に、反射的に手を払い落とす。
果たして、そこに居たのはウォールマーケットのバーのマスターだった。
二年前に比べると随分とやつれている。
「なんであんたがここに……」
「こっちのセリフだよ。まぁ、こんな所で立ち話も何だ。場所移そうぜ」
「お断りします」
「そう言うなって。ここで騒いで、店や他の客に迷惑かけたく無いだろ?」
わざわざ場所を移してまでこの男と話などしたくは無いが、仕方ない。
案内されたのは、ホテル内に併設されたバーの個室だった。
マスターは荒々しくソファに腰を下ろして、立ったままのシユウに注文したカクテルを勧める。
「まぁ座れよ。これは俺の奢りだ」
「結構です」
「今日は何も入れちゃいないさ。薬を仕込む隙なんて無かっただろ?」
「だとしても、要りません」
頑ななシユウに、マスターは「すっかりトラウマだな」とクツクツ笑う。
「お前に店の金を持ち逃げされてから、大変だったんだぜ? 借金までする羽目になってよぉ、今じゃドン・コルネオの使いパシリだ」
「コルネオ……もしかして、ここに居るのもそれで?」
「そうさ。明日の試合の事は知ってるだろ? こっちが勝てば、ゴールドソーサーは第二のウォールマーケットになる。そうなれば、こっちで新しく店を持たせて貰えるんだ」
「……残念ですが、それは無理だと思いますよ。対戦相手が悪いので」
「へぇ、知ってるような口振りだな」
「答える義理はありません。それじゃ、俺は買い物の途中だったので、これで」
「待てよ。お前、自分のした事がどれだけ周りに迷惑をかけたか分かってるのか?」
「…………は?」
努めて冷静に振舞っていたシユウは、その一言で額に青筋を浮かべた。
「あの店で働いてたのは俺とお前だけじゃ無かっただろ? お前の癇癪のせいで、他の奴らも皆居場所を失くしちまった。あいつらには何の罪も無いのに、可哀想に」
「それはあんたの責任だろ。俺に擦り付けるな」
「いいよなぁお前は。そうやって、全部俺のせいにしていれば、何の責任も負わなくて済むもんな。雇って貰った恩を仇で返すばかりか、かつての同僚が苦しんでる中、知らん顔で遊んでるなんて、大した奴だよ」
そんなことを言われる筋合いは無い。
だがこの男に何を言ったところで話は通じないのだろう。シユウは腹に溜まった怒りをどうすることも出来ず、ただ相手を睨み続ける。
「対戦相手と知り合いなら、せめて明日の試合は、こっちが勝てるように配慮してくれよ」
「俺が言っても聞くような人達じゃありませんので。諦めて下さい」
「本当に? 長い付き合いなんだろ? あんなに仲良くしてたじゃないか」
「…………あんなに=H」
「七番街スラム、セブンスヘブンの仲間。一緒に居るのは、アバランチのティファとバレット。リボンの子はエアリス。金髪のガキは……クラウドだったか?」
「待て。なんであんたが知ってる?」
この男に、ウォールマーケットを出た後の話などしていない。
訝しむシユウに、マスターは「何も分かってないんだな」とせせら笑う。
「お前に金を盗まれた後、俺はずーっとお前を捜してたんだ。居場所は聞き込みしてすぐに分かったぜ。お前達は目立つからなぁ。でも、見付けたからって、俺一人じゃどうにも出来なかった。流石に武装したテロリストのアジトに乗り込んでも、返り討ちに遭うって事くらい分かる。だから……俺は機会を待った。するとどうだ、コルネオから右腕が銃の男を捜せ≠チて命令が下った!」
「……! まさか…………」
「俺はすぐに答えたぜ、居場所なら知ってる≠チてな! そこから先はトントン拍子に話が進んで、お前らのアジトはプレートに潰されてペシャンコだ!」
――でなきゃどうして七番街なんだ?
最初に爆破したのは壱番魔晄炉なんだからよ、普通はまずその近くから調べる筈だろ。なのになんで真っ先に七番街に来たんだ?
まるでオレがそこに居るって、最初から分かってたみてぇによ。
シユウは愕然とした。
まさか、本当に、自分が原因だったのか?
ゲラゲラ嗤っていたマスターは、動揺しているシユウを見て立ち上がり、肩に腕を回す。
「アバランチの奴らが知ったら、どう思うだろうなぁ。こっちに鞍替えするなら今のうちだぜ?」
耳元で囁かれて、ぞわりと鳥肌が立った。
同時に、ゾクゾクとした感覚が全身を駆け巡る。
この感覚は知っている。
薬を飲まされた時と同じだ。だが、今日は何も口にしていない。
その疑問を表情から読み取ったマスターは、部屋にある加湿器を指した。
「どうせ飲み物に混ぜても無駄だろうとは思ってたからな。やり方を変えてみたんだ。流石にお前も、息を止め続けるのは無理だろ?」
マスターの手がシユウの下腹部を撫でた。
そのままベルトを外そうと動く指を、シユウは掴み剥がす。
「やめろ」
どれだけ怒りを込めても、制止する声には吐息が混ざった。
マスターは強引にシユウをソファに座らせる。
「試合、お前も出るんだろ? 他の連中をどうにかするのは無理でも、お前一人潰せたら十分だ」
「…………っ」
「お互い気持ちよくなるだけでいい。それで救われる連中が居るんだ。だから……抵抗するなよ?」
襟のボタンが外され、顕になった首元をマスターが舐る。
瞬間、身体が拒絶反応を起こして勝手に動いた。
両手でマスターを突き飛ばしたシユウは、部屋を出るなりトンベリに変化。
追ってきたマスターは、机にぶつけた頭を擦りながら、フラフラとした足取りで「何処行きやがった」とバーを出ていく。
その様をトンベリの目線で見送ったシユウは、ほっと息を吐いた。