05.SecretDesire
出来ればこの場で始末してやりたかったが、ディオの楽園を血で汚すのはいただけない。一先ず危機は去ったが、あとはこの薬の効果を何とかしなければ。
今日のホテルの部屋割りはどうなっているのだろうか。コスタ・デル・ソルの時のように相部屋だと困る。一人になりたい。
受付に聞けば確認できるだろうかと、のそのそとラウンジを移動していると、
「えっ、トンベリ!? 本物!?」
「動いてる! かわいい〜!」
「馬鹿、モンスターだぞ!」
と、客達が騒ぎ出した。
仲間内では、この姿でも当然のようにシユウとして認知されていた為、第三者から見ればモンスターにしか見えないのだという事をすっかり忘れていた。
どうしようとあわあわしていると、ちょうどホテルにバレットが入ってきたので、短い足を必死に動かして突進。
勢い余ってぶつかり、反動で後ろに数回転がるトンベリを、バレットが見下ろす。
「あ? なんだ?」
目を回しているトンベリを摘み上げたバレットは、「なんでこんな場所にトンベリが」と不思議そうにした後、
「お前、もしかしてシユウか?」
そう言いながら軽く揺さぶる。
「先にホテル戻るんなら、そう言ってから居なくなれよ」
喋れないトンベリは、「ごめんなさい」と掌を合わせて頭を下げた。
注目していた客達は、「なんだペットか」「ペット……なのか?」「大丈夫そう」と興味を失くして散らばる。
トンベリはバレットに掴まれたまま部屋に運ばれたが、クラウド達が居るのを見て逃げ出した。
「おい、どこ行くんだよ。お前の部屋ここだぞ」
と、また連れ戻されそうになったので、やむなく変化を解いて話す。
「今日は一人部屋がいいです」
「何ワガママ言ってんだ」
「ちゃんと自腹で払いますから。さっき渡したお金、まだ余ってますよね?」
「あるけどよ……」
バレットは大人しく釣り銭の入った封筒を取り出したが、受け取ろうとしたシユウの手から離す。
「ちょっと、何ですか」
「……お前、なんで服乱れてんだ?」
「っ!?」
指摘されて気付いたシユウは、だらしなく開いている襟を慌てて閉めた。
「な、んでもありません」
「顔も赤ぇしよ」
「照明の色でそう見えるだけです」
知られたくない。
あんな男の手に二度もかかってしまった事も、今の状態も、バレット達には知られたくない。
ぼやけた思考では上手い言い訳も思い浮かばず、追求される前にシユウはフロントに戻ろうとするが、
「おい、まだ金渡してねぇぞ」
そう言われて立ち止まる。
「しょうがねぇな。オレが部屋取ってきてやっから、おめーはここで待ってろ。あんまウロウロすんなよ」
ここは厚意に甘えよう。
シユウはバレットを見送って、壁を支えにしてその場で待機。
空き部屋が無かったらどうしようかと考えていたが、それは杞憂に終わった。
程なくして、ルームキーを持ったバレットが戻ってくる。
「すみません。有難うございます」
「おう。一応聞いとくけどよ、熱があるとかじゃねぇよな?」
「それは大丈夫です」
「…………またアレか?」
シユウは少し悩んで、違うと首を振った。
「気にしないで下さい。明日の試合には障りないようにしますから。おやすみなさい」
そう言って部屋に一人入り、ドアを閉めて、脱力したシユウはその場に蹲る。
(疲れた……とりあえず、風呂、入らないと……綺麗にして……それから……)
早くこの疼きを何とかしたい。
その一心で浴室に向かい、乱雑に服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びる。
まず気持ち悪さの残る首から洗って、上から下に向かって各部位を泡で擦る。
屹立している性器を手で包み込むと、理性の箍は簡単に外れてしまった。
ゆっくりと、次第に速く。吐精しても疼きは治まらず、刺激を求めて指が後ろに伸びる。
精液とボディソープが絡まった指が、肉壁を割いて奥へと入っていく。
ここ最近弄っていなかったせいでかなり窮屈だが、違和感や痛みは肉欲を消してはくれない。
シユウは無我夢中で己を慰め続けたが、薬で昂った身体は貪欲に快楽を求め続ける。
まだ足りない。もっと気持ち良いものを覚えている。アレが欲しい。
――――
湧き上がってきたその考えを、シユウは浴室の壁に頭をぶつけて潰した。
やめろ。あの人をそんな目で見るな。ふざけるな。
もう二度と、あの人にあんな真似はさせない。させたくない。
そう思っているのに。
欲しくて欲しくてたまらない。
(……頼む、から。もう、止まって……くれ……)
足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。
バレットに触れて貰いたい。
素肌を触れ合わせて、彼の熱いもので中を満たして欲しい。
奥深くを激しく突いて、そのまま中に――――
「…………っ、ん、……ぁ」
ビクン、と震えて、シユウは達した。
ピュクピュクと精子が竿から飛び出し、中が収縮する。
はぁはぁと息を荒らげながら、絶頂後の快楽に浸っていたが、次第に罪悪感が湧いてくる。
彼に抱かれてから暫くは、そのことを何度も夢に見た。その度に身体は疼いて、こんな風に一人で鎮める日々が続いた。
薬の影響だとしても、性欲を満たす為にバレットを欲しがる自分が嫌だった。
セブンスヘブンに居た頃、ティファを性的な目で見る一部の男性客に辟易していたが、これでは自分も似たようなものではないか。
最近はやっとその異常な性欲が無くなって、安心していたのに。どうしてまたこんな事になるのか。
(…………まだ、足りない……)
もう嫌だ。早く終わらせたい。
こんな事なら、あのままマスターに身を委ねていれば良かったのではないか。
(……無いな。流石に無理だ。気持ち悪い)
暑さでのぼせてきたので、シユウは浴室から出て脱衣所へ避難。
バスタオルで濡れた髪や身体を拭って、アメニティのパジャマに着替えようとしたが、
(……夢精でもして汚したら困るな)
という恐れから、パジャマの上だけ羽織って、未使用のバスタオル片手に部屋へ戻る。
ベッドの上にバスタオルを広げて、とりあえずその上で横になったシユウは、寝ようと試みて目を閉じた。
昂ったままの身体はなかなか眠ることを許してはくれなかったが、それでも根気強く目を閉じ続けていると、不意にコンコンとノックの音がする。
誰か来たようだが、流石にこの格好では出られない。
シユウは心の中で謝りながら、寝たフリでやり過ごそうとしたが、オートロックと筈の扉はガチャリと音を立てて開いた。
飛び起きたシユウが見たのは、ルームキーを持ったバレット。
「な――ど、どうやって入ってきたんですか今それ」
「いや、鍵渡し忘れて、オレが持ったままだったからよ。寝てんなら、どっか目に付くとこに置いとこうと思って……」
と言いながら、バレットは上衣一枚だけの姿のシユウをまじまじと見ていた。
シユウは両腕で股座を隠す。
「お前、何だよその格好」
「いや、別に……」
バレットは大股でベッドまで歩み寄ると、シユウの腕を掴んで退かせた。
愛撫を放棄されて勃ったままの竿がそこにはある。
「やっぱりそうなんじゃねぇか」
「違うんです。今回は後遺症じゃなくて……薬……さっき嗅がされて……」
「は? 誰にだよ」
「ウォール・マーケットのマスターに会ったんです。今、コルネオの手下になってるらしくて……それで……」
「なっ――お前、そういう事は先に言えよ!」
土産物屋で別れた後に何があったのかを理解して、バレットは戸惑う。
「ヤられたのか?」
「いえ。逃げてきました。でも……薬の効果の方は、どうしようもなくて……それで……」
シユウは自分の声がさっきよりも甘くなっていることに気付いた。
バレットを触りに行こうとする手を、もう片方で押さえる。
「…………、バレットさん、出て行ってください」
「手伝ってやろうか?」
「いいですから、出て行って下さい。早く」
「何だよ、そんなに嫌かよ」
「そうじゃなくて……ちょっと、ほんとに、今回は余裕、ありません……」
自分をコントロール出来る自信が無い。
俯くシユウを、バレットはベッドに押し倒す。
「だったら尚更、オレが居た方がいいだろ。無理に一人で何とかしようとすんなよ」
崩壊しかけている理性をなんとか保ちながら、シユウはベッドに乗り上げてくるバレットから、後退して壁際に逃げる。
「俺、何するか分かりませんよ」
「んな大袈裟な」
バレットは右腕から銃を外して床に置き、左手でシユウの頬を撫ぜた。
シユウはその手を取って、指先にキスを落として頬擦り。らしくない行動に驚いている相手を、そのまま引き倒す。
シユウを押し潰しそうになったバレットは、左肘と右腕の先に装着しているアダプターで、何とかバランスを取る。
「危ねぇだろ!」
「……すみません」
シユウはその叱責を流して、先に自分がされたように、相手の頬に触れた。
その手は首筋から肩を滑るように撫ぜて、バレットは擽ったいと身を捩る。
もっと触りたい。もっと触って欲しい。
(…………駄目だ。我慢、しないと……)
衝動に流されている。
シユウは冷静になろうと、目を閉じて深呼吸。
「我慢すんなって」
「…………巻き込まれるの貴方なんですよ? 分かってますか?」
「分かってっから今こうしてんだろ。どうして欲しいか言えよ。してやっから」
その声すら心地好く感じながら、シユウは控えめに己の首筋を摩った。
「……だったらここ、触ってくれませんか。洗ったんですけど、まだ気持ち悪くて……」
「? 何かされたのか?」
「舐められました」
思い出すとまた不快感が湧き上がってきて、シユウは顔を歪めた。
バレットも似たような顔をしながら、指定された場所に触れる。
「触るだけでいいのかよ」
「…………出来れば、上書きして、欲しいです……」
「上書き? ……舐めりゃいいのか?」
「何でもいいです。嫌じゃなければ……」
恥じらいと申し訳なさを感じつつ、目を背けて言うシユウに、バレットは少し悩んで、首元に口付けた。
そのまま食むように口を薄く開いて、控えめに舐めた後、強く吸い上げる。
「っ!? …………!」
痕を付けられている。
シユウはゾクゾクとした感覚に襲われながら、大人しくそれが終わるのを待った。
口を離したバレットは、薄らと出来た赤い印に満足する。
「これでいいか?」
「……今、キスマーク……」
「おう。不満かよ」
「不満……では無いですけど……」
「じゃあオレはシャワー浴びてくっから、ちょっと待ってろよ」
「え?」という顔で見てくるシユウに、バレットは「すんだろ?」と返して浴室に消えた。
そりゃあ、して貰えるのなら助かるが。そんなに簡単に決めていいのだろうか。
シユウが迷っている間に、シャワーを終えたバレットが全裸のまま戻って来た。