06.Farewell
何度か扉を潜り、狭い通路を抜け、昇降機で降りた先にあったのは、ライフストリームが吹き荒れる空間。「なんじゃこりゃ〜!」
「ねぇ、あれ……」
ティファが指した先には、隊列を組んで進む神羅兵達の姿があった。
遠いのでハッキリとは分からないが、先頭にいるのはレノとルードのように見える。
その一団をライフストリームが襲った。
安全な場所に辿り着く前に暴風に曝された者達は、道から外れて底の見えない奈落へと落ちていく。
「……見てらんねぇぜ」
「ライフストリーム、怒ってる……なんとなく、だけど。そう感じる」
「ねえ、エアリス。私達の気持ち、伝えられないの?」
「どうかな…………ううん、やってみる」
躊躇いがちに、エアリスはゆっくりと舞い始めた。
彼女が空気を掻き混ぜるように杖を回すと、ライフストリームの光が集まってくる。それを見て、自信なさげだったエアリスと、仲間達の顔が綻ぶ。
だが、穏やかだったライフストリームは、舞いの途中に荒々しいものへと一変した。
それと同時に床が振動し、足場が浮かび上がる。
「びっ……くりしたぁ〜! なになに?」
「! エアリスさん!?」
突然フラついてその場に倒れかけたエアリスを、シユウが受け止めた。
エアリスは「ごめん、ありがとう」と苦笑しつつ、周囲を見渡す。
「……みんなは?」
「オイラたちだけみたい」
どうやら上下に分断されてしまったらしい。
この場に居るのは、エアリス、ユフィ、シユウ、ナナキの4名のみ。
エアリスは暗い顔で俯く。
「失敗しちゃった……」
「途中までは上手くいってるように見えましたけどね」
「初めてでしょ? じゃあ、仕方ないよ。失敗したら、修行あるのみ!」
「オイラ達も手伝うよ。がんばろ!」
「……うん、そうだね。修行だね!」
気を取り直して、4名は浮いた足場から下を覗き込んでみたが、クラウド達の姿は見えなかった。呼びかけてみても返事は無い。
じっとしていても仕方がないので、とりあえず進んでみるかと、近くの扉を開けてみると、そこには小さな池が1つ。
エアリスが近付いて手を伸ばすと、ライフストリームが噴き出し、そこから零れ落ちた小さな光の粒が周囲を漂う。
また先のようになるのではないかとシユウは警戒したが、エアリスは「大丈夫」と笑った。
「ライフストリームと仲良くなる方法、教えてくれるみたい」
「仲良くって……まるで人みたいですね」
「みたいって言うか、そう? ライフストリームも、人と同じ。意思、感情。そういうの、あるよ」
エアリスの掌に、光の粒がフワリと舞い降りる。
その光はエアリスの近くを何度が飛び回って、今度はユフィやナナキと戯れに行く。
動きを見ていると、確かに生き物と似たような感じはするが。
「シユウは、ライフストリームって、どういうものだと思ってる?」
「……この星を構成する物質の1つだと思ってます。水とか炎とか、空気みたいなものかと」
「それも正解。でも、それだけじゃない。ライフストリームには、沢山の人の想い、溶け込んでる。嬉しいとか、悲しいとか……色んな人の、色んな気持ち。それは、かつてここで生きていた人達のもの」
「ならこの光は、幽霊みたいなものなんですか?」
「うーん、近いけど……幽霊は、個人でしょ? ライフストリームは、混ざって、溶け合ってるから……もっと複雑、かな。でも、そういうこと。亡くなっても、ここに居る。姿、見えなくても、声、聞こえなくても……みんな、傍に居るんだよ」
シユウはエアリスを真似て、掌に光の粒を乗せてみた。
目を閉じ、耳を澄ましても、彼らの声は聞こえない。
「……もし本当に、亡くなった人達が、今もずっとここに居るなら……俺を見てるなら……居た堪れないですね」
「どうして?」
「生き残るべき人達は、もっと他に居たのになって。皆、大事な人が居て、叶えたい夢もあっただろうに……俺が生き残ったって、何も…………」
と、後ろ向きなことを言っていると気付いたシユウは、頭を振って話を終わらせた。
「この部屋に在るのはこれだけみたいですね。次、行きましょうか」
「え? うん……」
とは言え、どこもかしこも床が崩れてしまっており、他に進めそうな道は見当たらない。
エアリスは「何とか出来るかも」と、杖を振って神殿に力を送った。
すると、辺りに散らばっていた瓦礫が寄り集まって、道が出来る。
「エアリス、すごい!」
「さっすが〜!」
と口々に讃えながら、エアリスが造ってくれた道を進んでいく。
出てくるモンスターは他3名で蹴散らし、斃したモンスターが遺した精神エネルギーをエアリスが回収。そのエネルギーで次の道を造る。
暫くはその繰り返しで順調に進んでいたが、神殿を動かすのも簡単では無かったようで、エアリスはフラついて膝を着く。
「大丈夫ですか?」
「ちょっと休んだ方がいいよ」
「そうそう。おねーさまだけが頼りなんだから〜」
そう休息を促されたエアリスは、「じゃあ、ちょっとだけ」と素直に従った。
他のメンバーも輪になって座る。
「こっちはエアリスさんが居て助かりましたけど、クラウド君達の方は大丈夫ですかね」
「進めなくて困ってるかも」
「まあその場合は、アタシ達が黒マテリア取ってくればいいじゃん? なーんか、黒マテリアの話出てから、クラウドの様子おかしいし」
「彼の様子がおかしいのは前からですよ」
「そうだけど、益々おかしくなってない?」
「オイラもそう思う」
「……黒マテリア、セフィロスも狙ってるって、クラウド、言ってたよね。様子、おかしいの、黒マテリアのせいじゃなくて……」
「セフィロスが関わってるせい?」
「わたしは、そうかなって」
確かに、クラウドが度々幻覚でセフィロスの名を口にしている辺り、あの症状とも無関係ではないだろうと、シユウは納得する。
「もしかして、今ここにセフィロスも来てたりします?」
「その可能性はあるね」
「それヤバいじゃん! 急がないと!」
「……そうだね、急ごう」
「駄目ですよ、ちゃんと休まないと」
「でも、心配だから。クラウド、様子おかしいと、ゴンガガの魔晄炉の時みたいに……」
今一緒にいるティファやバレットに斬りかかるかもしれない。
それを想像して、皆沈黙する。
「行こう。わたし、がんばるから」
「……すみません。頼ることしか出来なくて……」
「じゃあ、応援! してくれる?」
「まかせて!」
ユフィは応援団長さながら声を張り上げてエールを送り始めた。
エアリスは「バッチリ!」と笑いながら杖を振る。
(…………無理させてるな)
セトラは彼女一人しかいない。
神殿の操作が血の為せる技だというのなら、頼りきりになってしまうのも仕方が無いのかもしれないが。
「申し訳なく思うのなら、せめて笑っていた方がいい。仲間が暗い顔をしていると、エアリスは悲しむ」
同じく彼女の奮闘を見守っているナナキ――今の声色はレッドのものだ――にそう言われて、シユウは「それもそうですね」と、ユフィの応援に混ざった。
そうして、恐らくはこれで最後だろう操作を終えたところで、遠くにクラウド達の姿が見えた。
どうやら交戦中の様だ。加勢しに行こうと近くまで向かうと、扉の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「この声、タークスの……ええっと、俺は名前知らないんですが」
「ツォン、だね。もう一人は……」
「イリーナだよ。二人だけみたいだね」
「二対四ならヨユーでしょ! トツニュ〜!」
と、戦う気満々で扉を開けたユフィだったが、ツォンは見るなり背を向ける。
「構うな。行くぞ」
「待ちやがれい! ハッハッハー! 卑怯者が逃げて行く〜!」
「お嬢、一々煽らなくても……」
今はクラウド達との合流が最優先だ。
向こうに妨害する気が無いのなら、ここで事を構える必要もないのだが。
「主任、逃げたらナメられます」
イリーナは売られた喧嘩は買う主義のようだ。
ユフィは「そうこなくっちゃ!」と喜び、シユウとツォンはやれやれと溜息を吐く。
「入口の旗、見なかった? 約束の地は神羅が管理するから。たとえ古代種でも、従って貰わなくちゃ」
「……他の連中は何処だ?」
「はぐれた? 迷子? って言うか、どこかで見た顔だと思ったら、ルード先輩の知り合いのバーテンダー! なんでアバランチと……」
「その男はウータイのシノビだ」
「あれ、ご存知でしたか」
「イリーナは八番街の事件の後にタークスに入ったが、私は当時からタークスの一員だ。現場にも居合わせている」
「じゃあ、ミスリルマインでは分かってて見逃してくれたんですね。今回も見逃してくれませんか?」
「……私はそのつもりだったが?」
ツォンはそう言ってユフィを見て、
「そうでしたね、すみません」
シユウは言わんとしていることを理解して謝った。
「頭数なら、こっちが多い」
「あら、ご存知ない? 主任とわたしが最強コンビだってこと!」
知らない。
だがコンビネーションの方はともかく、タークスを名乗るからには、相応の実力はあるのだろう。
シユウは仕方なく武器を構える。
「お嬢、自分で焚き付けたんですから、イリーナさんの方は何とかしてくださいよ」
「いいけど、そっちは?」
「ツォンさんとお喋りでもしておきますよ。エアリスさんは休んでて下さい」
「ううん。わたしも、戦う。ツォン、強いから。油断しないで」
シユウがエアリスの方を向いた瞬間に、ツォンが間合いを詰めて蹴りを放った。