06.Farewell
ツォンの動きを見ていたエアリスが魔法の盾でそれを弾いて、シユウも攻撃に気付く。「ね?」
「吃驚した……有難う御座います」
「エアリス、大人しく――――」
「しません!」
エアリスはそのままツォンに攻撃を始めた。
ツォンはそれを避けるだけで、反撃はして来ない。
「お知り合いですか?」
「うん。ツォンはわたしの――なんて言えばいいかな。ボディガード? 監視役? そんな感じ」
「へぇ……?」
ならばエアリスの心配は無用かと、シユウは彼女から離れてツォンに迫る。
速さにはそれなりに自信があるが、ツォンは涼しい顔でそれについてきた。
こちらが蹴りを入れようとすると、タイミングを合わせて同じ動きを返される。
「真似しないでくださいよ」
「型が似ているだけだ。被るのが嫌なら、シノビらしく忍術で戦ったらどうだ?」
そうは言うが、なかなか印を結ぶ隙を与えてはくれない。
とは言え、このまま体術のみで戦っていても埒が明かない。
悩んだ末、シユウは襟に通している飾り紐を外し、1印で発動出来る属性付与の忍術をかけた。
その紐で、ツォンのかかと落としを受け止める。
紐とツォンの脚が触れ合った瞬間、バチィ! という音と共に電流が走った。
それ自体は対したダメージにはならないだろうが、痺れによってツォンの動きは僅かに鈍る。
他の攻撃も紐で受け止めていくと、流石に狙いが分かったのか、ツォンは一旦攻撃を止めて距離を取った。
シユウは「それならそれで」と印を結んだが、
「させない!」
「うわっ!?」
ユフィ達の相手をしているイリーナから銃弾が飛んできて、忍術は不発に終わる。
「イリーナ、やれるな?」
「いけます!」
ツォンとイリーナは呼吸を合わせて、一矢乱れぬシンクロした動きでシユウを狙い始めた。
標的になったシユウは「何で俺なんですか」と室内を逃げ回る。
が、敵がこちらを狙っている間に、ユフィ達は何やらコソコソと作戦会議をしていた。
ならばこのまま囮になっていた方がいいのだろうとシユウは判断したが、流石に二人分の攻撃は凌ぎ切れずタコ殴りに遭う。
早いところ何とかしてくれと願っていると、攻撃の合間を縫ってナナキが飛び込んできた。
そのままシユウの服を噛んで引っ張り、遠くへ放り投げる。
包囲から逃れたシユウをツォンとイリーナは追おうとしたが、分身したユフィが行く手を阻んだ。
ナナキが生み出した炎の塊をエアリスが増幅させて、ツォン達目掛けて放つ。
連携技は見事に決まり、ツォンとイリーナは大人しくなった。
ジリジリと迫ってくるユフィ達に、イリーナは立ち上がって銃を向ける。
「行ってください! タークスの名にかけて……通さない、絶対!」
どうやらツォンを先に行かせるつもりらしい。
そうは行くかとナナキが追おうとしたが、その瞬間、突如天井が崩れた。
「へっ!?」
「なん――――」
「きゃああああっ!?」
あちこちから色んな悲鳴が上がった。
訳も分からぬまま、辺り一面は降ってきた瓦礫と土煙に覆われる。
「げほっ! ごほっ! 何コレ、なにごと〜!?」
「! みんな!」
「エアリス?」
煙が晴れてくると、クラウド達の姿が見て取れた。
エアリスはティファに駆け寄って「会えた〜」とハイタッチを交わす。
どうやら彼らはこの部屋の真上で戦っていたらしい。
受け身に失敗したのか、積み重なった瓦礫の上でひっくり返っているバレットをシユウが見つける。
「何があったんですか?」
「痛ててて……クラウド、ちったぁ加減しろよ……」
クラウドの攻撃でこうなったのか。
分厚い石造りの床を破壊するとは、ソルジャー恐るべしとクラウドの方を向くと、彼は瓦礫に足を挟まれて身動きが取れなくなっているイリーナの前に立っていた。
感情の読み取れない顔で剣を振り上げ、そのまま躊躇いもなく振り下ろす。
イリーナはギリギリ脱出してそれを躱したが、クラウドは後退する彼女を執拗に追う。
「……悲しむことはない。ただ、星に帰るだけだ」
「クラウド!」
エアリスの呼び掛けにも反応せず、イリーナを斬り殺そうとするクラウドを、ティファが抱き締めて止めた。
「……もう、やめよう?」
怯えなのか、はたまた哀しみなのか、その声は震えている。
それでも、クラウドはなかなか上げた剣を下ろさず、
「タークスが一人先行してやがる。オレ達も急ごうぜ」
バレットのその言葉で漸く戦意を収めた。
顔色一つ変えずにティファの手を解いて、何事も無かったかのように部屋を出て行く。
「……神殿に入ってすぐの頃は、あそこまでおかしくは無かったですよね。はぐれてから、何かありました?」
「いや……けど、神殿の奥に行けば行くほど、おかしくなってる気はすんな」
「だったら、これ以上先に進ませない方が良いんじゃないですか?」
「そりゃそうだけどよ。言っても聞きやしねぇだろ。力尽くで止めんのか?」
「……それしか方法が無いなら、俺はそうしますけど」
「オレだって、本当にやべぇと思ったらそうするけどよ……つーか、お前その怪我何だよ。ボロボロじゃねぇか」
とりあえずクラウドを追いかけようと、皆はタークス三名を置いて部屋を後にした。
シユウはここに来るまでの経緯を手短に説明する。
「これでも結構善戦してたんですよ。ツォンさん一人だけが相手なら勝ってました。多分」
「へいへい。とりあえず治せよ」
「それが、俺かいふくのマテリア持ってなくて」
「なんでだよ」
「マテリア自体、殆ど持ってないんです。嵩張るし、大抵忍術で何とかなるので……ポーションはありますよ」
そう言って、懐から取り出したポーションをちびちび飲み始めるシユウに、バレットは「それじゃ追いつかねぇだろ」と回復魔法を唱える。
「自分のが無ぇなら、このマテリアお前が持ってろよ。元はお前のだろ」
「バレットさん予備あるんですか?」
「無ぇけどよ。どっかで買うなりすりゃいいだろ」
「ならそれまでは持ってて下さい。俺よりもバレットさんの方が、怪我する回数多いでしょうし」
「あぁん? オレがお前よりも弱ぇって言いてぇのか?」
「無茶しがちって意味ですよ。心配してるだけです」
昇降機で更に下へと降りていき、暗い通路を抜けると、一転して眩い光が差し込む。
人工的な明かりではなく、太陽の光だ。風の流れもある。壁に囲まれてはいるが、外に出たらしい。
ずっと建物の中を彷徨っていたので、外の空気が美味しいと一瞬思ったが、次いで目に入ってきた光景のせいで、清々しい気分は吹き飛んでしまった。
「――――ツォン!」
先に来ていたツォンが、部屋の中央に置かれた台座の前で血を流している。
彼の脇腹に刺さる刀、その柄を握っているのは、銀の長い髪の男。
「セフィロス……」
クラウドがその男の名を呼んだ。
幻覚などでは無い。皆が同じものを見ている。
セフィロスはツォンから刃を引き抜き、一行の方へと振り向く。
「悲しむことはない。ただ、星に帰るだけだ」
「…………それは………」
クラウドが言っていたのと同じ台詞だ。
シユウはゾッとした。
「また会える」と微笑むセフィロスを、ツォンが背後から撃つ。
撃たれ、地面に倒れたその男は、セフィロスではなく黒マントの姿をしていた。
どういう事だ。今のは何だ。自分も幻覚を見ていたのか?
事態が把握出来ずシユウは混乱し、エアリスは喀血しているツォンに駆け寄る。
「ツォン!」
「……無事か?」
「わたしの心配してる場合!?」
「ひとつ……教えてくれ。ここは……約束の地なのか……?」
エアリスは悲しげに首を振った。
ツォンは「そうか、違うか……」と自嘲気味に笑って、台座を叩く。
「この台座が鍵だ……古代種でなければ反応しない……」
それだけ言って、ツォンは血を流しながらも自力で立ち上がり、その場から去って行った。
エアリスの反応や、彼女とのやり取りを見るに、悪人では無いのだろう。
あの怪我では出口まで体が保つか怪しいが、上に残っているタークスの面々が何とかしてくれることを祈るしかない。
今は彼のことよりも――シユウは険しい顔でクラウドを見た。彼はエアリスに台座を調べるよう促している。
エアリスが手を翳すと、ライフストリームの光が溢れ出し、文字が浮かび上がった。
「穏やかなる戦士達よ。今一度、己を見つめよ。刻みし轍は赤く染まり、そなたの糧とならん。努努、怒りを忘れることなかれ=v
読み終わると、台座のある場所を囲むようにして配置されている無数の扉から、光の線が伸びてきた。
一つの扉につき一人が、その線で結ばれる。
「あそこに入れってことか?」
「そう。一人ずつ、試練を受けるの」
「……クラウドは?」
ティファが尋ねた。
何故か彼には線が伸びていない。試練を受けなくていい、という事なのだろうか。
「ズルい!」
「俺はここで待つ。急いでくれ」
「行くしかねぇなら、さっさと行くぜ。そんじゃあ、後でな」
「え、行くんですか?」
「何だよ、怖ぇのか?」
「いや、そうじゃなくて……」
今のこの、明らかに様子のおかしいクラウドを、一人にしていいのか?
仲間達はそれぞれの扉へと歩いて行くが、シユウはどうしたものかと悩む。
「どうした? 早くしてくれ」
「……クラウド君、今自分がおかしくなってるって自覚、あります?」
「どういう意味だ?」
「どういうって……」
「俺は何ともない。試練に集中してくれ」
何ともないことは絶対に無い。
駄目で元々だと、黒マテリアのことは諦めて引き返すことを提案してみたが、
「今更何を言ってるんだ? あんたの方がおかしくなってるんじゃないのか」
などと言われてしまった。
(……まあ、こっちの試練が終わるまでは、先へは進めないんだろうし……目を離しても状況が悪化する事はない……のか?)
いっそのこと、わざと試練に失敗でもすれば、諦めて引き返してくれるだろうか。
クラウドを説得したり、力尽くでどうにかするよりも、その方が効果的かもしれない。
シユウはそう考えて、指定された扉へと向かった。