06.Farewell

エアリス、ティファ、バレット、ユフィ、ナナキ。
試練を終えた仲間達は、一人、また一人と小部屋から出て来て、待っていたクラウドの元へ集まる。

皆一様に暗い顔をしていた。
互いの試練の内容は知らずとも、その表情で、皆似たような体験をしたのだろうと察する。

「……あのね、死は……命の一つの状態。死んで体が消えても、命が消えるわけじゃない。ライフストリームに溶けて……星を巡って、新たな命を育む」

エアリスの語る内容に、いつもそれを説いている側のバレットは、苦々しい顔になる。

「今更、いいって」

「命は死んでも消えない……そんなの、頭でわかっても……お別れは、悲しいよね。だから……星に帰るだけ≠ネんて、そんな風に言わないで」

エアリスはクラウドを見た。
クラウドは、聞いているのかいないのか、床に視線を落として黙っている。

「悲しみや怒りは、わたし達を強くする。けど、わたし達を変えてしまう。本当の強さは、違うと思う。それは、いつも心にあって……柔らかくて、壊れない。そう思うんだ。どんなに悲しい過去も、理不尽な出来事も……したこと、されたこと……過去を消すことは、もう出来ない。でもね、これからの事は、変えられる。過去じゃなくて、未来を思えば……わたし達、セフィロスより強くなれる」

ずっと、強く。
エアリスの言葉に、仲間達は顔を上げた。

だがクラウドは、

「話は終わったか? 時間が無い、急ごう」

どうでもいいと言わんばかりに冷たく言い放つ。

「……あれ? ちょっと待って。シユウは?」

そこで漸く、ユフィが一人足りないことに気付いた。

「まだ試練、終わってないのかな?」

「長くねぇか?」

シユウの入っていった扉に皆で近付いてみると、試練の最中は開かないのであろう扉が開いた。
同時に床の仕掛けが動き、神殿の奥へ進む為の扉も開く。

「終わったみたいだな。行くぞ」

「待ってクラウド。まだシユウさんが出て来て無いし……」

「待ちたい奴は待てばいい。俺は先に行く」

そう言って先々歩いて行ってしまうクラウドに、仲間達は顔を見合わせた。

「アタシ待ってるから、皆は先行きなよ」

「……わかった。ごめんね」

「つぅかよ、開いたんだから、中入ってもいいんじゃねぇか? これ」

「入った瞬間、失格になったりして」

皆はどうなのかとエアリスを見たが、エアリスは困ったように頬を掻く。

「ごめん。わからないや」

「とりあえず、オイラ達はクラウドを追いかけようよ。シユウも心配だけど……クラウドはもっと心配だよ」

それはそうだと、ティファ、エアリス、ナナキはクラウドを追うことに。
残る気らしいユフィとバレットを見て、

「……ね、ユフィも、わたし達と一緒に行かない?」

エアリスがそう提案。

「え? なんで?」

「ユフィ、居てくれたら、心強いなって。この先、もっと強い敵、居るかもしれないし……」

「そりゃあ、ユフィちゃんが頼りになるのは分かるけどさぁ〜……」

「ね? お願い」

「行ってやれよ。別にこっちは二人も居らねぇだろ」

「だったらバレットが行けばいいじゃん。なんで残ってんの?」

「あぁ? いいだろ別に」

ムムム、と納得いかない様子のユフィに、エアリスが白状する。

「ここの試練、辛かったよね」

「…………うん」

「シユウ、わたし達居ると、平気なフリすると思うんだ。だから……」

「そんなこと――――ちょっとはあるかもしれないけど。バレットは良いわけ?」

「うん」

「なんで?」

「バレット、甘え下手な人を甘やかすの、得意だから」

ユフィは益々膨れっ面になりながらも、反論はせずにその場を離れた。
バレットは「何なんだよアイツは……」と遠ざかる背を見送る。

「悔しいんだよ、きっと。マリンが自分より他の誰かに頼ってたら、バレット、悔しいでしょ? それに近いんじゃないかな」

「ああ……なるほどな」

「それじゃあ、わたしも行くね。シユウ、なんだか思い詰めてるみたいだったから……よろしくね」

「おう。気をつけろよ」

エアリスと別れ、一人になったバレットは、一先ずその場でシユウが出てくるのを待った。
だが数分経っても出てくる様子は無く、「終わってんなら大丈夫だろ」と中に入る。

すると、階段を降りている途中でシユウと出会した。

「遅ぇぞ」

「……すみません。ちょっと、ボーッとしてました」

「なんだそりゃ。他の奴らは先行っちまったぞ。オレ達も早く行こうぜ」

「先に……じゃあ、試練はあれでクリア扱いなんですかね。失格になるつもりだったのにな……」

「はぁ? なんでだよ」

「クラウド君、様子がおかしいじゃないですか。これ以上進むの、良くないかなと思って……わざと失格になろうと……」

「ああ……そりゃ思いつかなかったぜ。まあ、開いちまったもんはしょうがねぇ。さっさと黒マテリア回収して帰ろうぜ」

「そうですね…………」

露骨にテンションが低いなとは思いつつ、バレットはこちらから傷口に触れるのもどうかと、わざと気付かないフリをした。
シユウも特に何も言わずにバレットの後をついて来ていたが、途中で立ち止まる。

「……あの、バレットさん。俺、謝らなきゃいけないことがあるんです」

やっと話す気になったのかと思えば、突然そんなことを言われて、バレットは困惑。

「なんだよ?」

「七番街スラムのことなんですけど……アバランチのアジトがバレたの、俺のせいだったみたいなんです」

シユウは、ゴールドソーサーでマスターに聞かされた話をそのまま伝えた。
バレットは聞き終えるなり、「別にお前が謝ることじゃねぇだろ」と呆れる。

「悪いのはあのヤク中と、コルネオと神羅だ。そうだろ?」

シユウは否定の意味を込めて頭を振った。
バレットはムッとする。

「何が違うんだよ」

「俺が居なければ、あんなに早く見つかることは……」

「だとしても、それで結果が大きく変わるわけじゃねぇだろ。何をそんな卑屈になってんだよ」

「卑屈…………ですかね……」

「試練でなんか嫌なもんでも見せられたのか?」

「……………………」

話す気は無いらしい。
黙り込むシユウの代わりに、バレットが語る。

「……オレはよぉ、コレルが焼かれた時の光景を見せられたぜ。村の連中が皆死んで、ミーナも…………」

シユウは顔を上げてバレットを見た。
バレットは空を仰ぎ見る。

「心の傷ってのはよ、他の誰かが肩代わり出来るようなもんじゃねぇよな。皆それぞれ、自分で抱えて生きていくしかねぇ……けど、思い出して辛くなった時に、寄り添って支えてくれる誰かが居れば、ほんの少しだけ気は楽になる。明日も頑張れる。そういうもんだろ」

バレットはシユウに視線を戻した。
「貴方のことが心配です」という顔になっているシユウを見て微笑する。

「ゴールドソーサーの銃撃事件の時によ、お前は傍に居てくれたじゃねぇか。だからお前も、嫌な思いした時は、ちょっとくらいこっちに分けろよ」

「……………………」

「オレじゃ不満か?」

シユウはそんなことはないと頭を振った。
バレットに近付いて、ぽす、と肩に頭を乗せる。

「……じゃあ、ちょっとだけ、こうしてていいですか」

「…………おう」

珍しい行動に少し驚きつつ、バレットはシユウの背をぽんぽんと優しく叩いた。
シユウは体を預けたまま目を閉じる。

(…………あったかいな)

先程までの光景が、まだ瞼の裏に貼り付いている。抉られた古傷が、ジクジクと傷んでいる。
それでも、背を叩く手の感触が、伝わってくる温かさが、痛みを溶かしていく。


――――落ち着く。


「…………。俺、最近バレットさんに助けられてばかりですね」

「そうか?」

「ゴンガガの時とか……ゴールドソーサーのアレもそうですし、ここに来てからも……感謝してます」

「なんだよ、急に改まって」

「言いたくなったんです」

滝壺に落ちた時に震えずに済んだのは、彼がこうして抱き締めてくれていたからなのだろう。
何故それほどまでに彼の傍が落ち着くのかは分からないが、シユウは今一度礼を述べる。

「こうやって構うの、お前には鬱陶しがられてると思ってたぜ」

「ああ……最初はちょっと押し付けがましいなと思ってましたけど」

「思ってたのかよ」

「でも、今は嫌じゃないですよ」

「その割には、こっちから行かねぇと甘えて来ねぇじゃねぇか。手がかかるぜ」

そう言って、バレットは猫の背を撫でるようにシユウの頭に触れた。
こうして触られることさえ、不思議と心地良く感じる。

「お前愛されてんだからよ、もうちっと自分を大事にしろよ」

「愛され……てますか?」

「ついさっきも、エアリスとユフィが心配してたぜ。自分達が居ると甘えられないだろうからって、オレ一人だけ残して先に行ったけどよ」

「そうだったんで…………ん?」

「あん? なんだよ」

「……それってつまり、エアリスさん達に言われたから残ったってことですか?」

と、シユウは不服そうに眉を寄せ、預けていた体を元に戻して離れる。

「まぁそれもあるけどよ……」

「……やっぱりバレットさんにとっては、俺は割とどうでもいい感じなんですか?」

「はぁ? 何見てそう思ったんだよ」

「ここに来る前、優先順位について話しましたよね。あの時、俺がウータイの為ならバレットさん達を裏切るって言っても、リアクション薄かったじゃないですか。だから……」

バレットは聞くなり盛大な溜息を吐いた。
お前は何も分かってないと言いたげに頭を振る。

「それはお前がそう言ったからだろ」

「?」

「お前はオレ達よりウータイの方が大事なんだろ? そんな奴に何言ったって、オレが一人で惨めになるだけじゃねぇか」

怒っても悲しんでも、相手がそれを何とも思ってくれないのなら、虚しいだけ。
その心情を理解してハッとするシユウに、バレットは詰め寄る。

「なのにオレのリアクションが薄いだぁ? 随分と勝手なこと言うじゃねぇか」

「それは……確かにそうですね。すみません、俺が悪かったです……」

「分かりゃあいい。あと、別にエアリス達に言われたから残ったわけじゃねぇよ」

「そうですか……」

なら良かったと安堵するシユウを、バレットはまじまじと見る。

「なぁ」

「はい?」

「そもそもなんでそんな事気にしてんだ? オレにどうでもいいと思われんのが、そんなに嫌なのかよ」

「――――え?」

シユウは目を丸くした。
意表を突かれた顔で固まり、硬直が解けたかと思うと、そのまま考え込んでしまう。

「どうなんだよ?」

「…………嫌、なんだと思います」

「なんで嫌なんだ?」

「え?」

グイグイと迫ってくるバレットに、そこまで深く考えていなかったシユウは戸惑う。

「答えろよ」

「わ……分かりません」

「本当に分かんねぇのか? 誤魔化してねぇか、それ」

「そっちこそ、何でそんなに追求して来るんですか?」

「あ? そりゃあ――――」

今度はバレットが固まった。
何か言葉が出かかっていたようにシユウには見えたが、バレットは目を逸らして言い淀む。

「…………今は、いいだろ。その話はよ」

「え? いや、バレットさんから始めたんじゃないですか」

「いいんだよ! それより、調子戻ったんなら行こうぜ。クラウドの方も心配だしよ」

「はぁ。それはいいですけど……」

一体今のやり取りは何だったのかと、シユウは何やらソワソワとした様子で足早に歩き出すバレットに続いた。
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