06.Farewell
「なんだ、まだこんなとこに居たのかよ」それなりに時間を使ってしまったので、クラウド達はもうかなり先へ行っているだろうと思っていたが、先行組とはものの数分で合流出来た。
ベンチに座っているクラウド達が、声を掛けたバレットの方を見る。
その顔は一様に暗く、どこか空気も重たい。
「なんかあったのか?」
「……いや。少し休んでいただけだ」
クラウドは相変わらず冷たいまままの表情で言って、「休憩は終わりだ」と立ち上がり歩き出した。
ティファとエアリスはその背中を心配そうに見詰めて、二人でついて行く。
「シユウ〜……おかえり〜……」
「お嬢。遅くなってすみません。……なんか疲れてます?」
「疲れてるワケじゃないんだけどさぁ〜……」
「なぁ、クラウドはああ言ってるけどよ、なんかあったんじゃねぇのか?」
「……クラウドの様子がずっとおかしいんだ」
バレットの問いに、不安げなナナキが答えた。
曰く、また黒マントが現れ、それを見たクラウドが、セフィロスの名を叫びながら斬りかかったのだという。
「斬ったあと、なんて言ったと思う? 俺はセフィロスとは違う=\―だってさ。誰もそんなこと言ってないのにね。クラウドが何考えてんのか、アタシぜーんぜん分かんないよ」
「ああ……似てるって自覚はあるんですね、彼」
「えー? 似てるかなぁ〜?」
「普段はともかく、ここに来てからのクラウド君は、なんと言うか……セフィロスに取り憑かれてるように見えます」
「……まあ、確かにな」
「あれ? どうしたんだろう」
話の途中、ナナキが何かに気付いて駆け出した。
その姿を目で追うと、ライフストリームの光に包まれているエアリス達と、彼女達を囲んでいる巨人が見える。
「うわっ、なにアレ!?」
「敵か?」
三人は武器を構えつつ近くまで行ってみたが、巨人は実体の無いただの幻影のようで、戸惑うクラウド達の体をすり抜けていた。
杖を持つ巨人が魔法を放ち、盾でそれを防いだ巨人が剣を振るう。
「……何ですかこれ? 神羅お得意の立体映像?」
「ここ、触ったら、出てきたの」
エアリスは壁に埋め込まれている石板を指した。
石板の近くには、今のこの光景を写したかのような壁画も描かれている。
『悠久の時を超え、ここに立つ者達よ。星と共に歩む、セトラの季節が過ぎようとしている』
辺りに女性の声が響いた。
戦っていた剣士達は消え、杖を携えた魔道士達が、一行を取り囲む。
『程なく、歴史に敬意を払わぬ者らに、星を譲ることになるだろう』
「この人達が喋ってるの?」
「うん。かつてここに居た、この遺跡を造った、セトラの人達……」
彼らの姿は、ライフストリームの光に溶けて消えた。
その光の帯は、皆を誘うように道の先へ流れていく。
『宇宙から来た厄災との戦を終えた我らを待ち受けていたのは、さらなる苦難だった。人の子らは、我らを恐れた。人の子らは、我らを妬んだ。これもまた、災厄の謀だったかどうか……最早、分からない』
『運命は、我らを選ばなかった。抱えきれぬ怒りと、拭いきれぬ悲しみと共に、いま、滅びの時を迎えようとしている』
「……これ、実際にあった話なんですかね」
「この星の、セトラの歴史ってことか?」
「そう、なんだと思う」
ナレーションと共に、ライフストリームが当時の光景を映し出す。
戦うセトラと、それ以外の人々。
そこに突如として現れる異形の怪物。
『遥か昔、北の地が傷付いた。修復に向かった者達は皆、災厄となった』
『災厄は姿を変えた。亡き母に。亡き兄に』
『災厄は種を撒いた。我らに。人の子らに』
『我らは星と共に戦い、多くの同胞が、星へと帰った。災厄は、帰らなかった。星と交わることなく、ただ息を潜めた』
「なんかさぁ、アレ、前に船で戦ったやつに似てない?」
触手を振り回し、向かってくる人々を容赦なく蹂躙している化け物を指して、ユフィが言った。
確かに、第八神羅丸で見たモンスターと特徴は似ている。
『災厄は、後に名前を得る。その名はーージェノバ』
モンスターの幻影は、翼の生えた美しい女性の姿に変わった。
シユウはその名に疑問を抱く。
「ジェノバって……セフィロスの母親の名前も、そんな感じじゃありませんでした?」
「……同じだな」
クラウドが険しい顔で言った。
幻影の女性は、クラウドを見下ろす。
『混ざりし者達よ、気を付けなさい。リユニオン=\―災厄の種は、いま芽吹き、一つにならんとしている』
「りゆにおん? なにそれ」
「……さぁな」
幻影は消え、光の道標は遺跡の更に奥へ。
追いかけると、今度はコスモキャニオンで見たギ族の姿が映し出されて、ナナキが尻尾を立てた。
「ギ族だ!」
『星を脅かす者を排除することは、我らの使命……異なる世界より出でたるギ=\―ギの祈りが作りし、黒きマテリア。この禍々しいマテリアを、後世の野心から隠し続けなければならない』
幻影のギ族は向かい合わせに立ち、掌を互いに向けている。その中央で力が渦を巻く。
生み出された黒マテリアの幻影は、道の先にある扉の向こうへと吸い込まれていった。一行はそれを追いかける。
『邪悪なる黒きマテリアは、メテオを喚ぶ。メテオは星に落ち、大地を破壊するだろう。その後に残る命は――――』
「それは私一人だ」
「!?」
突然、扉の前にセフィロスが現れて、皆立ち止まり臨戦態勢を取った。
これもセトラが見せる幻影かと思ったが、先程まで見ていたものとは明らかに違う。
「ついにジェノバの申し子が、星を支配する日が来る……そして今や、世界は一つでは無い。運命の拘束を逃れた世界が、新たな時を刻んでいる……」
「……どういうこと?」
「ジェノバと共に、世界もまた、リユニオンするのだ。その先にあるのは……永遠」
「永遠なんて、ない」
「ああ。今はまだ」
「あなたは間違っている」
前に進み出たエアリスの体には、ライフストリームの光が集まっていた。
セフィロスは取り合わず、一行に背を向ける。
「お前達はここで死ぬ。だが……悲しむことはない。星に帰るだけだ」
「セフィロス!!」
クラウドは斬りかかろうとしたが、セフィロスの姿は靄となって消えた。
代わりに、扉から巨大なモンスターが生えるように現れる。
「うひぃ〜! またなんか出たぁ!」
「門番か?」
「見て、後ろにも居る!」
「邪魔だ!!」
扉と一体になっているそのモンスターに、クラウドは猛攻を仕掛けた。他のメンバーもそれに続く。
このモンスターは遺跡を操れるのか、直方体に切り抜かれた天井が上からドカドカと降ってきた。
更に左右の壁がじりじりと迫って来る。
「押し潰されちゃう!」
「そうなる前に片付けましょう。前と後ろで担当分けませんか?」
「異論ナシ!」
「エアリスは両方頼むぜ! 回復係が居ねぇとキツいからよ!」
「それ、わたしだけ、忙しくない?」
忙しない話し合いの結果、前方の敵はクラウド、ティファ、バレット、後方の敵はナナキ、ユフィ、シユウが担当することに。
エアリスは迫り来る壁を背に戦況を見渡す。
「ティファ、上! 気をつけて!」
「わっ、ほんとだ。ありがとうエアリス!」
「ちょっ、バレットさん、敵の攻撃ちゃんと防いで下さいよ! こっちまで来ましたよ!」
「無茶言うな! あれ喰らったら石化すんだよ!」
「あーもう、めんどくさいな〜! 二体まとめて一気にドーン! って出来ない?」
「オイラやってみる!」
ナナキが吠えると、エネルギーが部屋の中央に収束して弾けた。
星屑のような光が二体の敵を焼き、それを見たエアリスも魔法で隕石を降らせる。
弱って動きが鈍った敵に、残っていたメンバーが総攻撃に出た。
最後にクラウドがモンスターの頭を頭上から刺し貫き、門の守護者は消滅。
「た……倒せた、よね……?」
「恐らく……あっちこっち見ながらだったんで、ちょっと目が回りました……」
「わたしも〜……」
流石に疲れたと、ティファ、シユウ、エアリスは座り込み、
「やったね! オイラ達の勝利!」
「おうよ! まだ星には帰らねぇぞ!」
「あんなんでアタシ達を止められるわけないっつーの!」
元気なナナキとバレットとユフィは勝利の喜びを分かち合う。
そんな中、トドメを刺したクラウドは、肩で息をしながらバスターソードを構える。
そして、閉ざされたままの扉を斬り付け始めた。
ガキン! という鈍い音が鳴って、皆が事態に気付く。
「え、ちょっと……何やってんの?」
「……クラウドよぉ……」
戸惑う仲間達を無視して、クラウドは何度も何度も何度も何度も、一心不乱に剣を叩き付ける。
やがて亀裂が入り、長い間黒マテリアを守ってきたのであろう扉は砕け、強引に開かれてしまった。
クラウドはそのまま黒マテリアが安置されている祭壇へと歩いていく。
その姿は、さながら操り人形のように見えた。
黒マテリアを得るために、セフィロスがクラウドを動かしている――――根拠のない妄想じみた考えだが、シユウには今のクラウドがそう見えて仕方がない。
止めなければ。シユウはクラウドに駆け寄って肩を掴んだ。
クラウドは置かれた手とシユウの顔を順に見る。
「…………なんだ?」
「なんだじゃありません。戻って下さい」
「どうして。敵はもう居ない。後は黒マテリアを取るだけだ」
「黒マテリアは俺が取ってきます。何か罠が仕掛けられている可能性もありますし……」
「なら俺が行って確かめる。あんたは皆と一緒に、部屋の外で待っていてくれ」
クラウドはシユウの手を払い落として、再び歩き出した。
シユウは行かせてなるものかと追い縋る。
「しつこいぞ」
「そっちこそ」
「そんなに黒マテリアが欲しいのか?」
「それはクラウド君の方でしょう」
言い合いながらも、二人は足を止めず、揃って祭壇に向かった。
競う内に小走りになり、伸ばした手で同時に黒マテリアを掴む。
すると、祭壇の奥の壁に文字が浮かび上がった。
古代文字で書かれている為、シユウには解読出来なかったが、赤色に光るそれが警告文なのだろうことは分かる。
同時に、ライフストリームが吹き荒れ、神殿全体が大きく揺れ始めた。
シユウがそれらに気を取られている隙に、クラウドが強引に黒マテリアを奪う。
「あっ、ちょっと、返して下さいよ」
「これはお前のものじゃない」
「貴方のものでもありませんし、今はそれどころじゃないですよ!」
「おい、どうなってんだ!?」
言い争っている間に、他の仲間たちも集まって来た。
エアリスは壁の警告文を読み上げる。
「星の破壊を望む者に、永遠の眠りを与えん=\―黒マテリア取ると、ここ、崩れるの」
「はあ!? 冗談だよね? ねえ、冗談って言って!」
「落ち着いて! 黒マテリアを台に戻せば……!」
「……………………」
「クラウド君、聞いてますか!?」
クラウドは周囲の様子にもシユウの言葉にも反応せず、恍惚とした表情で黒マテリアに見入っていた。
バレットはその手から黒マテリアを奪おうとしたが、クラウドは抵抗する。
「離せ」
「離すのはお前だって!」
「ダメ、もう崩壊は止まらない……! それに、その黒マテリアもニセモノ……!」
「えっ」
シユウはここまで来てそれは無いだろうと小さくショックを受けた。
一方、バレットを突き飛ばしたクラウドは、ゆらりとエアリスの方を見る。
「…………俺を騙すつもりだな?」
皆息を呑んだ。明らかに正気では無い。
今度は起き上がったバレットがクラウドを突き飛ばし、その手から黒マテリアが転がり落ちた。
すかさずナナキがそれを咥えて祭壇に戻したが、揺れは収まらない。
「ちっくしょう、ダメかよ!」
「はいにゃ! ご無沙汰してます〜!」
突然軽快な声が聞こえたかと思うと、でぶモーグリが部屋の入口の方から駆けてきた。
その頭上にはケット・シーの姿もある。
「てっめえ……!」
「話はあと! ここはボクに任せて、皆さんは逃げて下さい!」
でぶモーグリから降りたケット・シーは、床の窪みに沈みかけている石板――黒マテリアを取ると同時にその形になった祭壇――の下に滑り込んだ。
押し潰されそうになるケット・シーを見て、咄嗟にバレットとナナキが手を貸す。
「それで何とかなるんですか?」
「崩壊を止めるんはムリですけど、時間稼ぎにはなるハズです!」
「ケット・シーはどうするの!?」
「ボクは所詮、占いロボット。気にせんとって下さい。――長くは持ちません。せやから、死ぬ気で走ってや!」
「出るぞ。脱出ルートは確保した」
続いてヴィンセントも現れ、皆について来るよう促した。
クラウドは応じてその場を離れ、バレットとナナキも祭壇から手を離す。
「すまねぇ、任せるぞ!」
「はいにゃ!」
彼らの代わりに、でぶモーグリが祭壇を掴んだ。
一人、また一人と部屋を出て行く。
「エアリスはん、シユウはんも、早く……!」
「黒マテリアを取ったのは俺です。なのに貴方を置いて逃げるなんて……」
「ええんです! これは、ボクなりの償いやとでも思って下さい」
「償いも何も、貴方は貴方のやるべき事を果たしたまででしょう」
「そうかもしれません。けど、ボクは皆さんの信頼を裏切ったんです。神羅社員としては正しくても……人として、ええ行いやなかった。裏切り者のままで居るより……たとえ一時的なもんでも、仲間として、皆さんを助けたいんです」
エアリスはその想いを汲んで、「ありがとう」と悲しげに微笑んで走り出した。
ケット・シーは、未だ残っているシユウを見上げる。
「それに、神殿にはまだ神羅の兵士やタークスの人らも残ってます。ボクは神羅の社員として、彼らを逃がす為に、体張っとるんです。せやから、シユウはんが気に病む必要はありません」
「……………………」
「わかったら行ってください。この部屋も、時期に崩れます。シユウはんがここで死んだら、ボクは皆さんに余計嫌われてまう」
その説得で、シユウは漸く部屋から出て行く。
ケット・シーは「難儀な人やわぁ」と苦笑しながら、その背中を見送った。