02.そして歯車は回り出す
完全に無駄なやり取りだったなと、さっきの言葉の攻防を思い出して脱力する。まぁいい、これで任務は達成出来るわけだし、終わり良ければ全て良しだ。
「……あっ、ユーリ!」
会話を続けていた2人がアルノルドの後ろを見て言う。
顔をそちらに向ければ、先程まで探していた青年と目があった。
「お前、あの時の……」
「やぁユーリ君、すっかり有名人だね。……あぁ大丈夫、捕まえる気は無いから」
自分の仕事はあくまでエステルを連れ戻すことだと、手を武器から離して攻撃する気は無いと示す。
「え、ユーリこの人知ってるの?」
「……まぁちょっとな。名前も知らねぇけど」
「アルノルドだよ、宜しく……とは、流石にいかないかな。仮にも騎士と指名手配犯だからね」
握手しようと出しかけた手を下げて苦笑すると、ユーリはそういえばと切り出す。
「俺のやったこと、チャラにしてくれるんじゃなかったのか?」
う、と少し言葉に詰まって、そういえば何とかするって言ってたっけなぁと数日前のことを思い出す。
「そのつもりだったんだけどね、流石にエステリーゼ様を外に連れ出されるとこちらも弁解出来なくて……エステリーゼ様の外出は禁止されてるんだ」
「それは本人から聞いた、何でだ?」
「……アレクセイ団長閣下のご命令だよ」
ボソッと小声で言った言葉はハッキリと相手の耳には届かず、首を傾げるユーリに一瞬消えた微笑を持ち直して言い直す。
「まぁ色々事情があるんだよ、どうしても気になるならエステリーゼ様に聞いてくれ、俺の口からはちょっとね」
「ふーん……ま、どうでもいいけどな」
本当に気にならないといった様子ですぐに会話する相手を隣に居た少年たちに変えたその反応に感心しながら、どうやらフレン達の話が終わるのを待っている間どうするかを話し合っているらしい三人から少し距離を取って壁に寄りかかる。
あとはシュヴァーン隊がユーリ君を捕まえれば万事解決だな、せめてもの情けで居場所を通報するのはやめておいてやろうと通信機をしまう。
そんなアルノルドは知らないが、どちらにせよユーリ達はハルルを通過した際にシュヴァーン隊と遭遇してしまっている為、彼らがここに来るのにそう時間はかからないのだろうが。
と、話し合っていた三人が急に静かになった。見れば先程まで居たユーリの姿がない。
まさか逃げた訳ではないだろうが、辺りを見回していると少女に心を読まれた。
「あいつなら街を見て回りに行ったわよ」
「え? あぁ、そうか」
「……やっぱり、捕まえる気なんだ?」
今度は少年に不安そうな目で見られ、慌てて首を振る。
こんなにハッキリと捕まえる気が無いと示してしまうのもまずい気がするが、変に警戒されて事態をややこしくしたくはない。
「そっか! 良かった、あ、僕はカロル!」
「バカ、何親しくしてんのよ! 捕まえる気がないなんて、口ではいくらでも言えるでしょ!?」
前言撤回。カロルという少年はともかく、この少女には既に警戒されているらしい。
「僕にはそんなに悪い人には見えないけど……」
「そういうヤツこそ怪しいのよ!」
これは口でどうこう言っても仕方ないかもしれないなと諦めてまた壁に寄りかかる。それにしても、
(悪い人には見えない、か)
純粋な心の人にはそう見えるのだろうか、昔エステリーゼやフレンにも同じようなことを言われたのを思い出す。
何を持って悪人と言うのかをハッキリと明言出来るほどの経験や知識は無いが、少なくとも自分のことを善人とは呼べはしないのに。
「……な、何よ、急に黙っちゃって」
思考の海に沈みかけていた意識は少女の声に呼び戻される。
「そんなに目に見えて落ち込まなくてもいいでしよ、あたしが悪いみたいじゃない!」
「え、あ、いや、そういうつもりじゃ……」
どうやら少女の目には自分は先程の警戒っぷりに落ち込んでいたように見えたらしい、続けざまに「リタが悪いよ」と言われ怒る少女に微笑んだ。
「あ、アンタも言い返せばいいじゃない! って、何笑ってんのよ」
「いやごめん、そういうつもりじゃなかったんだけど……、有難う」
「え、何でそこでお礼?」
また暗くなるところだったからと内心で呟いて、?を飛ばす2人に「なんでもないよ」と返した。
自分が悪人か善人かなんてどうでもいいじゃないか、俺は俺が選んだ道を進めばいい、それが例えどんな道でも俺にはもう何も――――
「……リタちゃん、だっけ?」
「うわ、やめてよねその呼び方! 鳥肌立ったわ」
「じゃあリタでいいのかな?」
「……好きにすれば」
ふいとそっぽを向く少女をカロルが冷やかしまた怒られる。
軽い漫才を見ているようだと仲が良いのか悪いのかよく分からない2人を見守っていると、探索を終えたユーリが戻ってきた。