02.そして歯車は回り出す

「あっ、ユーリ! おかえり!」

暴行を受けていた少年がリタの肩越しに顔を覗かせる、それにリタの手が止まり同じく振り返る。

「街はどうだった?」

「別に、大して何も無かったよ。フレン達はまだ話してんのか?」

瞬間、タイミング良く扉が開き、フレンが出てくる。

「待たせてすまない、入ってくれ」

部屋に招き入れるように戸を開き、フレンは半歩下がって扉の横にたつ。
そのまま宿屋の一室に入ると、エステリーゼが部屋の中央に備え付けられた椅子から立ち上がった。

「これまでの事情は聞いた、賞金首になった理由もね。まずは礼を言っておく、彼女を守ってくれて有難う」

「あ、私からも有難う御座いました。アルノルドも……巻き込んでしまってすみません」

「いえ、ご無事で何より」

半分本心、半分建前。
無事であってくれたのは助かるが、面倒事に巻き込まれた事に関しては全く気にしていない訳でもない。

「だが、問題は別にある」

「ん?」

「どんな事情があれ、公務の妨害、脱獄、不法侵入を帝国の法は認めていない」

「え?」

先にユーリが、次にアルノルドが反応してユーリを見る。皆の視線も同じように集まる。

「それは誤解だったんじゃなかったのか?」

「いえ、先程エステリーゼ様に伺いました」

どういう事だと目で訴えると、ユーリはわざとらしく「そういえばそんな事もあったような〜」と惚けた顔で言った。

「では、それ相応の処罰を受けてもらうが、いいね?」

「別に構わねえけど、ちょっと待ってくんない?」

「下町の魔核を取り戻すのが先決と言いたいのだろ?」

真逆のタイプに見えるのに随分仲が良いんだなと、二人が揃うところを初めて見たアルノルドはフレンが常々ユーリの名を口にしていたことを思い出す。

と、そこで数回ドアを叩く音が聞こえて、間を置かず女性騎士と、フードを被った小柄な少年が入ってきた。フレンの部下のソディアとウィチルだ。

「フレン様、情報が……って、なぜリタが居るんですか!!」

「あれ、知り合いか?」

入ってくるなり叫んだウィチルに2人を交互に見るが、当のリタは少し考えてから知らないと答えた。

「あなた、帝国の協力要請を断ったそうじゃないですか? 帝国直属の魔導師が、義務付けられている仕事を放棄していいんですか?」

「へぇ、リタは魔導師だったんだな」

帝国直属の、ということはアスピオに住んでいるのだろう。
知り合って間がないとはいえ今更なことを聞くと、四方から反応が返ってきた。

「そうだけど?」

「リタは凄い魔導師なんですよ!」

「よ、呼び捨て……!?」

「おいおい、いつの間に仲良くなったんだ?」

リタに聞いただけだったのに、エステリーゼ、ウィチル、ユーリの順に声を上げる。
エステリーゼは何故か誇らしげだし、ウィチルは何やら衝撃を受けたかのように顔をひきつらせている。ユーリはこちらを見て楽しそうにニヤついていた。

そんな中、穏やかな雰囲気を一変させたのはソディア。

「こいつ……賞金首のっ!」

剣に手をかけ身構えるソディアをフレンが制する、やはりこの誤解は至るところで悪い噂を生んでいるようだ。
フレンの説明を受けてなんとか落ち着いたソディアは素直に謝罪し、話は街のことについての報告に移る。

二人によると、街の悪天候の原因はラゴウという執政官の屋敷内にあると思われる魔導器のせいらしい。そんな凄い魔導器があるのかと誰もが疑問に思ったが、可能性としてはあり得ない話ではない。

「その悪天候を理由に港を封鎖し、出航する船があれば法令違反で攻撃を受けたとか」

「やりたい放題だな」

小さな街のこととはいえ、そんな悪政に今まで気付かなかったのも情けない話だなと溜め息をつく。
あるいは知っていて、動く気が無かっただけか。どちらにせよ酷い話だ。
まぁこんな小さな街一つ救っても一銭にもならないだろうが。

「それじゃ、トリム港に渡れねえな……」

「執政官の悪い噂はそれだけではない。リブガロという魔物を野に払って、税金を払えない住人たちと戦わせて遊んでいるんだ。リブガロを捕まえてくれば、税金を免除すると言ってね」

「そんな、ひどい……」

悲痛な顔をする皆の中で、アルノルドと同じく顔色を変えなかったユーリは、疲れたから休ませてもらうと言って部屋を出ていった。エステリーゼは当然のようにそれについて行く。

自分も行くべきか迷ったが、エステリーゼを城に戻るよう説得しなければならないのだからと、一行と同じく部屋を出た。

「あれっ、アルノルド……さん、ついてくるの?」

「言いにくいなら呼び捨てでもいい、ちょっとエステリーゼ様に話があってな」

「? 私……です?」

「あっちに引っ張られこっちに引っ張られ、人気者だな」

茶化すように言ったユーリはスタスタと1人屋敷の方へ向かう、やはり興味がないフリをしていただけで、悪事を暴きに行くつもりなのだろう。

慌てて後を追おうとしたエステリーゼの手を掴み引き留め、その横をリタ達が通り過ぎる。皆気をつかってくれたのだろうが、それが分からないエステリーゼは更に困惑した。

「あの、その話、この事件が終わってからじゃ駄目です?」

「それはちょっと困りますね、俺は貴女を無事に連れ帰るように頼まれているので」

「もしかして、話ってそれです?」

無言で頷くと、エステリーゼは目線を落とした。すんなりとは聞いてくれないだろうという事は予想していた事だが。

「……お願いです、あと少しだけ待ってください。こんな酷い話を聞いて、何もせずに帰るのは……」

まぁそうくるでしょうねと、面倒だなぁと心底思いつつ頭を掻く。
このまま無理矢理連れ帰るのも手だが、さてどうするか。

もしエステリーゼを屋敷に連れていったとして、何かプラスになるようなことはあるか?恐らくは無いだろう。何故なら屋敷に居るのは悪政を働くトンデモ執政官だ、そんな奴の居城に乗り込んでプラスになる事なんて……

(……いや、でも待てよ?)

執政官がやってきた悪政とは主に多額の税金を取り立てるというものだ、ではその金は?もし正しく経費として使ったとしても余りある筈だ、ということは、

「……わかりました、では俺が同行しましょう」

「! 本当です!?」

パッと明るくなったエステリーゼにアルノルドも満面の笑みを返す。
だがそれは決して優しさからくる笑みではなく、純粋な欲望からくるものだった。

(宝の山じゃねぇか……!)

先程の思考の結果、屋敷には現金ないし金目の物がわんさかあると踏んだのだ。
俄然やる気の出たアルノルドは密かに闘志を燃やしながら、しかしそれを表に出すことはせずにエステリーゼの後に続いた。
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