02.そして歯車は回り出す
未だ降り止まぬ雨が、街を霧で覆い影を落とす。アルノルドは初対面の少年少女の隣で、まだかまだかと腕を人差し指でトントンと叩いていた。
話は数分前に遡る。
フレンが街に留まるなら自分もそれに付き合おうと、宿の手配をしに宿屋へ向かったところ、何やら十代ぐらいであろう子供がそこには立っていた。
街の人間にしては雰囲気が違うというか、取り立ての厳しいこの街では少し浮いた感じのする二人は、こちらに気付くと目を見合わせて言葉を交わす。
旅行者だろうか、だがこんな街にわざわざ来る意味はあるのか? 催しものがある訳でもないのに。それに保護者らしき姿が見当たらないが、まさか二人だけで来たんじゃあるまいな。
暇ということもあって、アルノルドは二人に一歩近付いた。
取り調べ、などと堅苦しいことをする気はないが、「お父さんお母さんは?」と聞く程度なら構わないだろう。
だが二人の反応はというと、近づくにつれ何か焦っているように視線をあちこちに飛ばし、仕舞いには軽い口論に発展するといったものだった。
自分の行動は何か不味かっただろうか、近付いただけで怖がられるような顔も体格も持ち合わせてはいない筈なのだが。
二人の話は更に激化する。近付いたことにより、途切れ途切れだがその内容を聞き取ることが出来た。
「……から、あの人は……ら、あんま……ない方が……」
「だからって今逃げたら……まれるでしょ! 別に今……は居ないんだから……」
「じゃ、じゃあもし……てる時に、ユーリが……って来たら……るのさ!」
断片的に得た会話の内容、否、その中に出てきた明らかに知っている名前は、アルノルドの足を止め目を丸くするのには十分だった。
ユーリ、ユーリって言ったか。何でこんな子供が、その名前を口にするんだ。
止まっていた足を今度は大きく前に出して、軽い競歩の如く足早に二人に接近する。
急に様子の変わったこちらに二人は更に困惑していたが、気遣ってやる余裕はない。
「ごめん、ちょっと聞きたいんだけど……」
「なっななな何!? ぼ、ボクたち何もしてないよ!」
「いや、別にそんなつもりじゃなくて……今さっき、何の話してたの?」
「な、何のって……それはアレよ、た、ただの世間話よ!」
「そ、そうそう!」
それはもう分かりやすく動揺する二人に、これは何かあるなと確信したアルノルドは一気に事の核心へと話を進める。
「なら、ユーリってさっき言ってたのは? お兄さん、その人探してるんだけど、知り合い?」
「なっ、ななな何の事よ! あんなヤツ知らないし、あたし達は無関係なんだから!」
「へえ、あんなヤツ≠ゥ。どんな奴なのか、詳しく聞かせて欲しいなぁ」
しまった、と少女が慌てて口を塞ぐ。
勝った、と思ったその時、タイミングが良いのか悪いのか、街の探索をしていた筈のフレンが、現在自分の一番必要としている少女の手を引いてやって来た。
「あれ、アルノルド隊長? その2人は……」
「アルノルド!? 貴方も来ていらしたんです?」
「エステル! ちょっと、何よアンタ!!」
「あ、違うんですリタ、この人は……」
「ってあれ、ユーリは一緒じゃないの?」
ぽかーんとしているこちらの前を、フレンに引っ張られながら通りすぎていく。
何が、俺の知らない間に何があったんだと、室内に消える二人の背を見て思った。
そしてさっきまで頑なに関係を否定していた少年少女は、「あれがユーリの言ってた騎士なのかな?」「何よそれ、あいつ騎士に知り合いなんて居るの?」と口々に話している。どうやらこちらの存在は忘れているようだ。
何だが自分だけ状況に置いていかれている気がする。納得いかないが、エステルとフレンの話が終わるまでは待つしかないか、と壁に寄りかかった。
そして話は冒頭に戻る。