10.静寂の中の慟哭
△▼「こいつは……!」
「なんかものすごいことになっているのじゃ!」
部下の危機を聞いてそちらを助けに向かったフレンと別れつつ動力室へ向かったユーリ達は、高濃度のエアルが満ちるその部屋へ足を踏み入れる。
幸いなことにエアルは通路よりも下に溜まっており、ユーリ達が気分を悪くすることは無かったが、床一面を真っ赤に染めあげるソレはまるでマグマの様だ。
「魔導器の暴走……!?」
「ザギが制御盤ぶっ壊したせいで、やばいことになったみたいだな」
「おいおい、どうすんのよこれ!」
狼狽えるレイヴンの言葉に、ジュディスは槍を構えて魔導器に向ける。が、リタがそれを制した。
「待って!」
「待ってる状況じゃないと思うけれど?」
「わかってる、あれ見て!」
そう言って、リタは天井付近を指し示す。
皆が見上げる先に、エアルが立ち上る筒状の装置があった。
「エアルがものすごい勢いで送られてる。このデカ物で、こんなとんでもパワーが向かう先なんて一つよ」
「ヘラクレスで1番パワーが必要なとこと言うと……」
「主砲か!」
「こんな状態でこの魔導器壊しちゃったら、ヘラクレスの動きは止まっても主砲ぶっ放しちゃって、目の前のザーフィアスは吹っ飛んじゃうわ!」
「えー! ど、どうしよう!?」
「何にせよ、このエアルの暴走を止めないと」
ユーリはハッとして、普段振り回している愛刀とは違う武器――デュークから授かった剣を手に取る。
「宙の戒典か」
「そっか! デュークはそれでエアルの暴走を鎮めてたもんね」
「出来るの?」
「やるしかねぇんだ、やってみるさ」
ユーリは装置の近くまで歩み寄る。
エアルの満ちる筒の中には、誰のものとも知れない聖核が、煌々と光り輝きながら浮かんでいた。
「聖核……」
「制御できなくなった魔導器と干渉し合って、暴走してるんだわ」
「壊すの……? 始祖の隷長の魂みたいなものなんでしょ?」
「しゃあないわな。このままヘラクレスが突っ込めばザーフィアスはぺしゃんこ。主砲も暴発するかもしれない」
「だな。迷ってられねぇ!」
ユーリはバクティオン神殿でやったのと同じように、宙の戒典を掲げてみせる。
すると筒の中にあった聖核はエアルに溶けるように消え、溜まっていたエアルも渦を巻いて霧散していった。ありがとう、という声がどこからか聞こえてくる。
だがそれでも主砲は止まらず、けたたましい音を立てながらエネルギーを収束させ始める。
「ダメ! このままじゃ発射される!」
「そんな! 動力はもう止まってるのに!」
リタとカロルの悲鳴に近いその叫びと同時に、ヘラクレス全体を凄まじい衝撃が襲った。艦は傾き、ユーリ達がよろめく。
直後主砲から発射されたエネルギーの塊は、ザーフィアスから僅かに逸れた位置に着弾し大爆発を起こした。
動力室からそれを見たユーリ達は、その威力にゾッとしながらも、最悪の事態は免れたと理解してホッと息を吐く。
先の揺れの理由はすぐに判明した。海上でフレンが指揮しているのであろう船団が、ヘラクレスに正面からぶつかっていたからだ。
主砲の照準を逸らす為に捨て身の特攻をお見舞したのだろう、ジュディスはその勇姿に感心したように言う。
「凄いわね、あなたのお友達」
「はは……まったくだ。無茶ばっかりしやがる」
「ねえ、聖核を斬った時、何か声聞こえたよね?」
「ああ。聖核になった始祖の隷長の声、だったのかもしれねぇ」
「聖核に宿っていた始祖の隷長の意志が、エアルを鎮めたようだったわ」
真偽はともかく、これでヘラクレスの脅威は取り除いた。あとは帝都へ向かうのみ。
バウルを呼び寄せるジュディスに続いて急ぎ部屋を出る一行。その最後尾で、リタは思案する。
「意志がエアルを鎮める……聖核とエアル……リゾマータの公式とエステル……」