10.静寂の中の慟哭

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「見えた! 帝都だ!」

同刻。バウルの運ぶ船に乗りヘラクレスを脱したユーリ達も、帝都の上空に到着していた。

「おいおい! 結界が無いぜ」

「アレクセイの野郎の仕業か」

「エステル、どこに居るの?」

「どうやって探そう、こんなおっきい街……」

遥か上空から見下ろしただけでは、人の姿を確認することすら難しい。
かと言って、地上に降りて探すには帝都は広過ぎる。

「エアルの流れを追うわ。アレクセイがエステルと聖核を使って何かしようとしてるのなら、必ずエアルの乱れが生じてるはず」

バウルやジュディスにはそれを感じ取れるらしく、見つけるのにそう時間はかからなかった。

帝都の最も高い位置に聳えるザーフィアス城の天辺に、光り輝く球体が浮かんでいた。術式の刻まれたそれの周りで、いくつもの聖核が衛星のように回転している。

その中に捕らえられているエステルの姿を見つけて、リタが叫んだ。

「エステル!」

「アレクセイも居やがる」

「ジュディ、近づけてくれ!」

アレクセイもユーリ達に気付いたようで、フッと笑うと手に持っていた聖核を掲げた。
バクティオン神殿の時と同様、力を無理矢理引き出されたエステルの悲鳴と共に、周囲の風が吹き荒ぶ。

「エステル!!」

「てめえ、アレクセイ!!」

「いや! 力が抑えられない! 怖い!」

「弱気になるな! エステル! 今助けてやる!」

ユーリは甲板で助走をつけて舳先まで駆け抜けると、そのまま空中に躍り出た。
その姿を見たエステルが光球の中から手を伸ばし、ユーリもそれを掴もうと手を伸ばす。

だが、アレクセイによって二人は引き裂かれてしまった。
より強く吹いた荒々しい力の奔流に飲まれ、エステルの目前まで迫っていたユーリは吹き飛ばされる。

エステルは彼を助けようと咄嗟に身を乗り出したが、彼女を捕えている術式がそれを阻んだ。

(どうして……どうして、私はこんなにも無力なの……?)

何度こんな事を繰り返せばいいのか。
自分を助けようとしてくれる彼らを信じたい。彼らのところへ帰りたい。
なのにそれを望めば望むほど、彼らを傷つけてしまう。

ノードポリカのべリウスは自分のせいで死んだ。
自分がべリウスを死なせたせいでドン・ホワイトホースも死んだ。
バクティオン神殿にいた始祖の隷長も、自分のせいで死なせてしまった。

自分を護ろうとしてくれたアルノルドも、今助けようとしてくれているユーリ達も。

このままでは皆殺してしまう。

船のマストに掴まって何とか事なきを得たユーリは、瞳から涙を溢れさせるエステルを見た。

「これ以上……誰かを傷つける前に……、お願い…………殺して」

「――――っ!! エステル!!」

エステルの悲痛な絶叫が、エアルで赤く染まった帝都の空に響き渡る。
本人の意思を無視して限界まで膨らんだ力がバウルごとユーリ達を吹き飛ばし、一行は為す術もなく遥か遠くの地上へと落下していった。





「……ん…………、生きてる…………っ痛!!」

気がつけば、一行はどこか知らない道の途中に揃って転がされていた。
真っ先に目を覚ましたユーリは、痛む体を無理矢理起こして周囲を確認する。

「ってぇ……、みんな生きてるか?」

「……私はなんとか」

「クゥーン……」

「生きてるっちゃ生きてるけど、無事かと言われると微妙よ。何本か骨いっちゃったっぽいわ……」

「船もメチャクチャじゃ……許すまじ、アレクセイ……いてて」

「ユーリ……痛いよ……」

「エステルのあれ……宙の戒典と似てた……。多分、いくつも聖核集めて同じことやろうと……」

その巨体で道を塞いでいるバウル共々、全員満身創痍。特にリタとカロルは重症で、ユーリが眉根を寄せる。

「無理に喋るな。すぐ医者見つけてやっからな、ちょっとだけ辛抱してくれ」

「エステルは……?」

「そうよ……急がないと……!」

「エステルの心配より自分の心配しろ。……バウルの怪我、暫く運んで貰うのは無理だな」

「ええ。傷が癒えるまで、どこかで休んで貰うわ」

ジュディスとユーリから労いの言葉をかけられたバウルは、ゆっくりと起き上がると飛び去っていった。
それにつられて視線を持ち上げた一行の目に、遠ざかってしまった帝都の赤い空が映る。

「嫌な空だね、エアルが雲みたく渦巻いてやがる。……災厄、か」

「ここはカプワ・ノールの近くのようね。とにかくノール港へ行きましょ、きっとお医者さんも居るはず」

「うむ……この体で乗り込めば確実に返り討ち、なのじゃ……」

皆は互いに手を貸しつつ、立ち上がって歩き始める。

(……さっき、あの場にアルノルドは居なかった。まだ着いてないだけか、それとも……)

レイヴンは皆に呼ばれるまで、暫くその場で空を眺めていた。
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