12.音速十光年
「あーっ! ユーリ!!」同じ頃、ダングレストには少年の声が響いていた。
通りを歩いていたユーリは、ここに来るまでに合流していた仲間達共々振り返る。
声の主はカロルだった。傍らのレイヴンは挨拶代わりに片手を挙げる。
「ひどいよ、無事だったんなら一言くらい……」
「心配かけたな。でも戻ってきたぜ」
「おたくも良いしぶとさねぇ。流石、俺様の見込んだ男」
「ユーリを見込んだのはうちが先なのじゃ」
「おや、パティちゃんには渡さないわよ」
「むぅ」
「バカやってんなよ。んなことより……今ハリー見かけたけど、何かあったのか?」
「それがちょっとばかし上手くなくてねぇ」
レイヴンは今現在のギルドの状態を皆に説明した。
すぐに代わりが見つかった騎士団とは違い、ドンの跡を継ぐギルドの新しい首領は未だに決まっていなかった。星喰みの対策を練ろうにも、トップが不在の状態では方針も纏まらない。
「ったくしょうがねぇな。ユニオンがしっかりしなきゃ、誰がこの街を守るってんだよ」
「ああ? そりゃ俺達に決まってらぁな」
「俺達とはどの俺達だね。あのザウデとやらに手下を送り込んだのも、君のギルド暁の雲だろう」
「ユニオンが帝国の風下に立ったことは一度もねえんだ。黙って見てられるか!」
「迂闊だったと言っているのだよ。ユニオンの敵対行為と帝国に受け取られかねん」
「そん時ゃ、一戦やるまでだ」
「それで誰が率いるんだね。暁の雲の長である君か? ドンが聞いたら大笑いするだろうよ」
「天を射る矢のてめえこそ、名乗りを上げたらどうなんだ。きっと人望の無さがはっきりするだろうぜ」
どんなものかと跡目会議を見学に来たユーリ達は、ギルド幹部達の不毛な応酬に辟易する。
きっとドンがこれを見たら、ガッカリすると同時に哀しむだろう。
彼一人居なくなっただけでこの有様だ。皆彼に依存しきっていたのだろう。
でももう、そんな風に甘えていてはいけない。
自らの足で歩いていけと彼は言った。そうしなければならない時が来たのだ。
仲間達が辛辣な感想を漏らす中、一人その様子に心を痛めていたカロルは、意を決して前に進み出る。
「仲間に助けて貰えばいい、仲間を守れば応えてくれる。ドンが最後にボクに言ったんだ」
「カロル……」
「ボクは一人じゃなんにも出来ないけど、仲間が居てくれる。仲間が支えてくれるから何だって出来る。今だってちゃんと支えてくれてる。なんでユニオンじゃそれが駄目なのさ!?」
「少年の言う通り、ギルドってのは互いに助け合う身の上だったよなあ。無理に偉大な頭を戴かなくとも、やりようはあるんでないの?」
幹部達の間にざわめきが広がった。ユーリ達は彼らが答えを出すのを待たず、部屋を後にする。
べリウスがドンに託した聖核を星喰みへの対抗策の為に欲していたリタは、どうするんだとユーリに詰め寄った。
「あんな連中に付き合ってる暇あったら、他の手考えた方がマシだ」
「他にって、そんな簡単なもんじゃないでしょうに……」
「なに、三日三晩寝ずに考えれば、いいことを思いつくのじゃ。頑張れ、リタ姐」
「またあたし!?」
と、頭を抱えて唸るリタの脇を、背後から飛んできた聖核が通過。
それをキャッチしたユーリは、投げた相手であるハリーを見た。
「こいつは……くれんのか?」
「馬鹿言え、こいつは盗まれるんだ。他の連中に気取られる前に、さっさと行っちまいな」
「どういう風の吹き回しよ?」
「さあな。けど、子供に説教されっぱなしってのも、なんだかシャクだからな」
ハリーはそれだけ言って、ユニオンの本部に消えていった。
どうやらギルドもまだ捨てた物ではないらしい。それを行動で示したハリーに、ユーリ達は微笑む。
「あいつも、少しは変わったかね」
「これで聖核も手に入った訳だけど、次はどうするのかしら?」
「ゾフェル氷刃海へ行くわ。活性化してないあそこのエアルクレーネを使うの」
「氷刃海? また寒いとこ行くの? おっさんここで待ってていい?」
「世界が滅ぶよりマシだろ、行こうぜ」
「あ、その前に帝都に寄ってくれない? あの騎士……アルに用があるの」
レイヴンがぴたりと動きを止めた。
仲間達はそれに気付かず、街の外で待っているバウルの元へ歩きながら話す。
「そりゃ別に構わねぇけど、リタがあいつに用とは珍しいな」
「用っていうか、出来れば連れて行きたいのよ。今回やろうとしてるエアルの抑制、あいつにも試してみたいから」
「そう言えば、彼の体内にエアルが過剰に溜まっていて危ないって、フェローが前に言っていたわね」
「それを何とか出来るんです?」
「わからないけど、試す価値はあるでしょ」
「じゃあ、ついでにフレンにも会ってった方がいいんじゃない? きっとユーリのこと心配してるよ」
「あー、居ればな。わざわざ探さなくていいぞ。今はあいつも忙しいだろうし、小言言われんのも嫌だからな」
などと言い合いながら、仲間達は船に乗り込んだ。
名を呼ばれて、金縛りを解いたレイヴンも重い足取りで向かう。会いたいような、会いたくないような、そんな気持ちで。