12.音速十光年
「――で、ここまで来たのはいいが、どうやってあいつを探すんだ?」陽が天頂に差し掛かる頃。帝都にやって来たユーリ達は、ザーフィアス城前の広場で円になって話す。
「騎士なら城に居るんじゃないの? 知らないけど」
「じゃあ、ここで待ってたら会えるかな?」
「でも、外に出ている可能性もありますよ。任務によっては何日も帰ってこないこともありますし……」
「なら中に入って探してみるのじゃ」
「前は緊急事態だったからいいとしても、今は勝手に入るのはマズいんじゃないかしら」
「おいおっさん、あんた元とは言え上司だろ? ちゃちゃっと呼び出せねぇのかよ」
「無理言わないでよ。……あ」
「ん? ……お」
レイヴンと、その視線を辿ったユーリは、近くのベンチで珍しく一人腰掛けているルブランの姿を見つけた。
渡りに船だ。彼ならばアルノルドの居場所を知っているかもしれないと、ユーリが声をかける。
「ルブラン、何してんだ?」
「シュヴァーン隊長ォォォ!」
「人違い、人違い」
「失礼しました! ただのレイヴン殿ォォォ!」
彼はいつになったら普通に呼んでくれるようになるのだろうか。
レイヴンは頭痛を覚えながらも、何やら悩んでいる様子のルブランにその理由を問う。
「元シュヴァーン隊の精鋭がこの状況下で動いてないなんて、何があった?」
「はっ、いえ、その……」
「報告は簡潔に」
「はっ! 今後のシュヴァーン隊の方針について悩んでいたであります! 私はフレン隊と合流すべきだと考えるのですが、他の小隊長は帝都に残るべきと主張しています。方針が不透明な事から、部下達の我々への信頼も揺らぎつつある現状で。お恥ずかしい限りです! シュヴァーン隊長に合わせる顔もございません!」
「って考えてたら目の前に居た、と」
「申し訳ございません!!」
「リタ! あの……レイヴン」
「ま、シュヴァーンの撒いた種とあっちゃねぇ。知らん顔も出来ないわな」
「シュヴァーン隊の隊員を集めて導いてあげるつもり?」
確かに、そうするのが一番確実で手っ取り早い解決方法ではあった。
だがレイヴンは敢えてルブランの意志を確認する。
「……ルブラン、お前は俺にそれを望むのか?」
「はっ、いいえ! レイヴン殿の手を煩わせるつもりはありません!」
「なら、決断するのは誰だ」
「はっ、私であります! 我が小隊の方針と責任は私が担うと自負しております」
「答えが出たなら動け。それから、シュヴァーンはフレン隊への応援も帝都の警備も両方必要だと考えるだろう」
「了解しました! 失礼致します!」
キビキビとした動きでその場を立ち去ろうとするルブランをレイヴンは満足気に見ていたが、当初の目的を思い出して慌てて呼び止める。
「じゃなかった! 俺達アルちゃんを探してるんだけど、今何処に居るか知らない?」
「アルノルドですか? この時間なら、恐らくは食堂に居るとは思いますが……」
「なら呼んできてくれねぇか。城に入ってもいいってんなら自分達で行くが」
「入っていい訳があるか! お前は賞金首だぞ! 今日は見逃してやるが、次に会った時は覚悟しておけ! ――では、呼んで参りますので少々お待ち下さい」
最後の言葉だけはレイヴンに向けて言って、ルブランは城へ歩いて行った。
程無くして、城の中からアルノルドが出てくる。
「エステリーゼ様! ユーリ君達も、皆揃ってどうしました?」
「アル!」
「よう、久しぶりだな」
「なによ、ピンピンしてるじゃない。心配して損したわ」
「そうね、とても心配していたものね」
「してないわよ!!」
「今自分で言ったのに……?」
カロルのツッコミは無視して、リタは咳払いと共に本題に入る。
「エアルを抑制する方法を見つけたかもしれないの。今からそれを試しに行くんだけど、それがあんたにも効くかどうか確認したいから、一緒に来てくれない?」
「それは凄い……けど、今からか? それはちょっと……」
「なんか都合悪いのか?」
「仕事が立て込んでてな。先の件で親衛隊はほぼ使い物にならなくなってるし、他の隊も欠員が出たり再編に手間取ったりで、通常業務も満足にこなせてない状態だ。各地域の住民のケアも必要だし、星喰み対策でギルドとの話し合いにも出向かなきゃいけないしで、空いた時間が全くない。正直、今こうして喋ってる時間すら惜しい」
「た、大変だね……」
「……それ全部アルちゃんが取り仕切ってやってるの? 親衛隊のゴタゴタはともかく、他のは本来アルちゃんの仕事じゃないでしょうよ」
「親衛隊が本来の職務以外の仕事をしているのは、今に始まった事では無いですよ。それに、今はどこの隊も似たような状態です。担当がどうだのと言っている場合では無いので」
「それは分かるけど、ちょいとオーバーワークなんでない? 無理して倒れてちゃ意味無いわよ」
「体調管理はきちんとしていますから、大丈夫ですよ。フレンはちょっと心配ですが……だからこそ俺が頑張らないと。俺が手を抜けば、その分の負担が全部フレンに行くことになるので。――って事で、リタ、悪いんだがまた今度にしてくれないか?」
「……まあ、そういう事なら仕方ないわね」
「アルノルド隊長! 巡回警備の経路についてご相談があるのですが……」
「ああ、今行く」
わざわざ来て貰ったのに悪い、とユーリ達に謝りつつ、アルノルドは騎士と共に去っていった。
頼りにされてるんだなあと、カロルが尊敬の眼差しでそれを見詰める。
「こっちはこっちで大変そうだな」
「ですね。一緒に行けないのは残念ですけど……」
「今彼を連れて行ったら、沢山の人が困るでしょうね」
「でも、アルのエアルはほっといて大丈夫かの?」
「意図的に大量のエアルを取り込んだりしない限りはね。あいつも自分の体質の事はもう分かってるだろうし、そんな無茶はしないでしょ。――さてと、それじゃゾフェル氷刃海へ向かいましょ」
仲間達は誰も彼の普通≠疑ってはいない様だった。
それはそうだろう。心配というのは、相手がいつもと違う様子を見せて初めてするものだ。いつも通りにしているアルノルドを見て「心配だ」なんて言う方がおかしい。
顔色が悪いなんてことも無く、体がフラついている訳でもなく、態度がおかしいことも無い。
いっそ倒れてくれたら助けられるのに。
(……なんてのは、ただの俺のエゴか)
今の彼はもう自分の助けなど求めてはいないのだろう。いや、そもそも既に立ち直っているようにさえ思える。
大丈夫ではないと感じるのは、彼との縁を断ち切りたくない己の妄想なのかもしれない。
「あれ? レイヴン! どうしたの、早く行こうよ」
「あーうん。いやあ、寒い所に行くのは嫌だなあ〜って」
「まだ言ってるの?」
「体温高いお子様にはこの辛さは分かりませんって」
なんて軽口を叩きながら、レイヴンはカロル達と共に行くしかなかった。