12.音速十光年

「ウンディーネ、ホントに居るの?」

少し前。無事にリタの考えた方法でエアルの抑制――マナの構築に成功したユーリ達は、ゾフェル氷刃海の流氷の上を歩いていた。

意志を宿したマナは精霊という存在に昇華して、今はエステリーゼの中に居る。
かつてべリウスと呼ばれていたそれにウンディーネという新たな名を与えた彼女は、カロルの疑念に頷きを返した。

「はい。上手く言えませんけど、一緒に居ます。感じます」

「エステルを通じて誕生したことで、何か繋がりが生じたのかも。興味深い……」

「研究はまたにしてくれよ」

「分かってるわよ。そんな……」

と、冗談めかしたユーリの言葉に抗議しようとしたリタだったが、上空の景色を見てそれを中断する。

皆も同じようにして空を見た。そこには、夥しい数の魔物らしき物体。

「星喰みが……あれが本当の災厄……!?」

「成程、世界を喰いかねねえな」

「あんなの、どうしたらいいんだろう……」

「バウル? ……そう、分かったわ、有難う。――皆、星喰みの眷属が街を襲ってるらしいわ。場所はノードポリカ」

「!」

「やれやれ、聞いちまったら放っとく訳にいかねぇな。急ぐぞ!」

ユーリの決定に異を唱える者は居なかった。
ノードポリカまでバウルでひとっ飛びした一行は、街の結界に張り付いている眷属を視認する。

ユーリはその敵の姿を覚えていた。
それは以前、コゴール砂漠で行き倒れてしまった時に見たものと同じ。

「前のはフェローの幻だったけど、今度のは本物よ。気をつけて」

「結界のエアルを食べようとしてるみたいです!」

「星喰みはエアルに引き寄せられる……?」

「退くな! ここで食い止めるんだ!」

結界の境目には、べリウスの忠臣であったナッツの姿があった。
戦士の殿堂を率いて眷属の侵攻を食い止めている彼に、ユーリ達が助太刀する。

次から次へとやって来る敵に一行は苦戦したが、暫くすると敵の群れは興味を無くしたかのように去っていった。

「またあんた達に助けられたな」

「この街だけ襲われるなんて、ほんとに運が悪いよね」

「運じゃないわ」

戦いの途中に何処かへと行っていたリタが、戻ってくるなりそう答える。

「ここの結界魔導器見てきたの。出力が上げられてたわ。だからあの化け物が引き寄せられたみたいね。通常の出力に戻させてもらったわよ」

「万が一に備えたんだが……裏目になってしまったんだな。自分は住民の様子を見に行く。あんたたちは好きなだけゆっくりしてってくれ」

「有難いが俺達も急いでててね。もう行くわ」

「そうか。あんたたちならいつでも歓迎する。また寄ってくれ」

「サンキュ」

不幸中の幸いか、死傷者は出ていないようだった。それを帰路に流し見つつ、ユーリ達は話し合う。

「にしても、あの化け物……戦士の殿堂の手練が太刀打ち出来てなかったな。どうにも解せないねぇ」

「ボクらは倒せたのにね」

「何か違いがあるとしたら……」

「精霊、かしらね?」

「星喰みはエアルに近いってんなら、精霊の力が影響した可能性はあるわね」

「それじゃあ、あと三体揃えればもっと対抗出来るってことか?」

「どうだろう……エアルを抑えるだけなら、属性揃えれば十分だろうけど、相手はあの星喰みだから。何とも言えないわ」

「うーむ。聖核だってそこら辺に転がってるもんじゃないしなあ」

「始祖の隷長も、もう数少ないみたいですし……」

思考に行き詰まって、皆は沈黙した。
やがて打開策を思いついたユーリが口を開く。

「……なあ、世界に存在する魔導器って、相当な数だよな。で、魔核は聖核の欠片で出来てると。だったら、世界中の魔核を精霊に変えたらいいんじゃないか?」

「無茶なこと言うわね。大体、どうやってやるのよ」

「……もしユーリの言った方法が実現したとして……そしたら、魔導器は全部使えなくなっちゃわない?」

「魔核が無くなる訳だから、そうなるわな」

「魔導器で賄われてた生活に必要な機能が失われて、相当不便になるでしょうね」

「嫌がる奴は相当居るだろうな。それでもやらなきゃ……世界は星喰みのもんだ。俺はやるべきだと思う。例え仲間以外の誰にも理解されなかったとしても」

「ま、とにかくまずは四属性の精霊を生み出そうぜ」

「じゃの。先のことはそれからでも考えられるのじゃ」

次の目的地を決めるべく、始祖の隷長の居所を知るバウルにジュディスがそれを聞いている間、平穏を取り戻したノードポリカの街並みを眺めていたエステリーゼはふと思い至る。

「リタ、星喰みの眷属はこの街のエアルに引き寄せられていたんですよね?」

「そうね。現に結界魔導器の出力を戻した途端に何処かへ行ったし……エアルが多い場所へ流れてるんでしょ」

「なら、アルも狙われたりしませんか? 今のアルが保有しているエアルの量も、相当多いんですよね?」

リタは目を見張った。
その会話を聞いていた他の面々も、総じて同じリアクションをする。

「確かに……それは……考えてなかったけど、十分有り得るわ」

「え。だ、だ、大丈夫なの?」

「アルがピンチなのじゃ!」

「そりゃやべぇ。ジュディ、他に眷属に襲われてる場所がねぇか、バウルに聞いて貰えるか? 帝都はどうなってる?」

「ちょっと待って。……帝都は大丈夫みたいよ。ただ、ノードポリカを離れたものも含めて、多くの眷属が何かを追うようにして移動しているみたい」

「移動……? アルは帝都に居るでしょうし、帝都が無事なら大丈夫でしょうか」

「でもリタっちの説が正しいなら、敵はアルちゃんに殺到してる筈でしょ。帝都が無事で、他のどの都市も狙われてないんなら……恐らくはその移動してる団体の先頭に居るのが……」

「な、なんでそんな危ないことしてるの!?」

「帝都に居たら街の連中が危ないとでも思ったんだろ。ったく、なんつー無茶しやがる。ジュディ!」

「分かってる。バウル、その群れを追って!」

敵の団体を引き連れて、一体彼は何処へ向かっているのか。
その答えは自ずと知れた。レイヴンは、バウルが船を下ろしたその場所を見て息を呑んだ。
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