12.音速十光年

向かう場所は最初から決まっていた。

馬を駆り、船を走らせ、その地に辿り着いたアルノルドは、追ってくる敵の群れを振り返りながら、更に奥へと進む。

周囲に人が居らず、兵器を使っても問題が無さそうな場所と言えば此処しかない。
険しい山道を登って、クレーターだらけの地面を見下ろす。


テムザ山。
かつての故郷であり、人生を狂わせた因縁の地。


アルノルドはその中心へと向かった。
そして、自分の足元に持ってきた二つの魔導器を並べて、片方を起動する。

アルノルドの周囲に小さな結界が展開された。数分して、追いついてきた眷属達がこぞってそれに群がる。

それを見ながら、アルノルドはもう一つの魔導器を作動させた。
駆動音と共に風が吹き荒れて、先に展開していたものよりずっと大きな結界が、外側に広がっていく。

後はこれで、爆発の瞬間に内側の結界魔導器を停止すればいいだけだ。
クレーターを一つ増やす事になってしまうだろうが、これだけあれば一つくらい増えても誰も気にしないだろう。

眷属だけを閉じ込めることが出来れば良かったのだが、彼らの狙いが自分である以上、自分は爆心地から動くことが出来ない。
結界の外で起動させる事も考えたが、爆発の前に筐体を壊されてしまうリスクがあるので、それも断念した。

ここまでやっても、あの星喰みの規模を考えれば、焼け石に水だろう。
命を懸けてもその程度しか削れないのかと思うとやるせないが、何もせずにただ殺されるよりはマシか。アルノルドはそう自分を納得させるしかなかった。

(……今から死のうっていうのに、やけに落ち着いてるな)


恐怖はなかった。凪いだ心で、アルノルドは暗くなり始めた空を見上げる。


視界の端で、結界に群がっていた眷属達が、風に煽られて剥がれていくのが見えた。

どうやらこの兵器の起こす強風は、魔導器に手が届く距離まで近付いたものには影響を及ぼさないらしい。恐らくは復元の過程で新たに追加された緊急停止用の機能なのだろう。

あの時に欲しかったな。
アルノルドは過去を思い出して苦笑した。
もしあの時に止められていれば、どれだけの命を救えただろう。


補佐官が死ななければ、アレクセイが道を違えることはなかった。

アレクセイが道を違えなければ、ナイレンの家族は死ななかった。

ナイレンの家族が死ななければ、彼がシゾンタニアに移ることも、命を落とすこともなかった。


きっと全てが上手くいっていた。きっと。


アルノルドはその有り得たかもしれない未来を夢想した。

兵器の駆動音が大きくなり、外側の結界に稲妻が走る。風圧に押し潰された敵があちこちで呻き声を上げた。

夜のテムザ山に太陽のような光が灯った。
その光は膨らみ、周囲を照らし、中に居るものの影を浮かび上がらせる。

アルノルドは己を守ってくれていた結界魔導器を停止させた。

明るさが限界に達し、一度収縮したかと思うと、次の瞬間、全てを巻き込んで爆発した。
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