02.そして歯車は回り出す
「いーい眺めなのじゃ……」血生臭い地下を脱出し上層へと登ったアルノルド達は、布団にくるまれ宙吊りになっている幼い少女に出会った、出会ってしまった。
光景からして捕まっているのだろうが、少女は泣くどころか悠々とした表情でこちらを見下ろしている。そしてその頭には海賊が被っているようなデカい帽子。海賊ごっこでもしてたのだろうか?
「そこで何してんだ?」
「お……? お前、知ってるのじゃ。えーと、名前は……ジャック」
少女が自信ありげに言った名前はこの中の誰にも当てはまらない。誰かが偽名を名乗っていたなら別だが。
「オレはユーリだ。お前、名前は?」
「パティなのじゃ」
「パティか、さっき屋敷の前で会ったよな」
「ん? こんな子居たか?」
エステリーゼと話していた間にでも会ったのかと思ったが、ユーリは首を振った。
「その前だよ。街をぶらついてた時にたまたまな」
「おお、そうなのじゃ。うちの手のぬくもりが忘れられなくて追いかけてきたんじゃな」
何故先程からそんなに自信満々なのか、その姿で言われても面白いだけなんだがな。
結局このまま放置してやるのは可哀想だからと、縄を解いて下ろしてやった。
「ね、こんなところで何してたの?」
「お宝を探してたのじゃ」
宝、と聞いて反応するが、こんな小さな子供の言う宝なんてのはたかが知れている。少年少女は小さな石や紙切れ1つでも珍しがって宝と言うものだ。
「パティは何してる人?」
「冒険家なのじゃ」
「なんだ、海賊じゃないのか?」
「海賊という名の冒険家なのじゃ」
何か細かいこだわりでもあるのか、面白い娘だなと笑う。
ともかく1人でこんな場所を彷徨くのは危険だと、エステリーゼがこの子も連れていこうと言い出す。
「うちはまだ宝を何も見つけていないのじゃ」
「人のこと言えた義理じゃねえがおまえ、やってること冒険家っていうより泥棒だぞ」
「冒険家というのは、常に探求心を持ち、未知に分け入る精神を持つ者のことなのじゃ。だから、泥棒に見えても、これは泥棒ではないのじゃ」
それっぽいことを言って納得させようとしているが完全な屁理屈だ。まぁどちらにしても自分には害がないのだから構わないが。
「それで、結局どうするんだ?」
「……たぶん、このお屋敷にはもうお宝はないのじゃ」
つまり一緒に来るということなのだろう。話が纏まったところでまた捜索を再開する。
しかし地下に居たような魔物こそ居ないものの、傭兵のうろつく場所でよくぞまあ無傷で居れたもんだと、襲いかかってきた傭兵を斬り伏せつつ少女を見た。
「こんな危険な連中の居る屋敷をよくひとりでウロウロしてたな」
「危険を冒してでも、手にいれる価値のあるお宝なのじゃ」
「それってどんな宝?」
「アイフリードの隠したお宝なのじゃ」
「ア、アイフリードッ……!」
「これはまた、大物の名前が出てきたな」
「アイフリードってあの、大海賊の?」
皆が騒ぎ立てる中、1人首を傾げたのはユーリ。
「有名人なのか?」
「し、知らないの? 海を荒らし回った大悪党だよ」
「アイフリード……海精の牙という名の海賊ギルドを率いた首領。移民船を襲い、数百人という民間人を殺害した海賊として騎士団に追われている。その消息は不明だが、既に死んでいるのではと言われている、です」
「相変わらず博識ですねエステリーゼ様。まぁあまりにも手がかりが掴めないんで、そういう風に言ってるだけですがね。死体すら見つかりませんし」
「ブラックホープ号事件って呼ばれてるんだけど、もうひどかったんだって」
話が盛り上がる中、言い出したパティは何故か俯いていた。
「……ま、そう言われとるの」
「……? どうしました?」
「なんでもないのじゃ」
すぐまた顔を上げたパティの表情は先程と同じで。一瞬暗くなったように見えたが気のせいだったかと流した。
「でも、あんたそんなもん手に入れてどうすんのよ」
「決まってるのじゃ、大海賊の宝を手にして、冒険家として名を上げるのじゃ」
「危ない目に遭っても、か?」
「それが冒険家という生き方なのじゃ」
「ふっ……、面白いじゃねぇか」
勝手に盛り上がり出すユーリとパティ。一緒にやらんか? とお誘いまで受けている。
恐らく冗談だろうから良いが、万一ユーリが冒険家という名の泥棒になればそれでまた罪が上がるところだ。
しかしそれはやはり要らぬ心配でユーリは断った。
「ユーリは冷たいのじゃ。サメの肌より冷たいのじゃ」
「サメの肌……?」
「でも、そこが素敵なのじゃ」
「素敵か……?」
「もしかしてパティってユーリのこと……」
「ひとめぼれなのじゃ」
バッチリウインクまでして言い放ったパティにアルノルドが吹き出す。失礼なやつじゃと言われても笑いが収まらない。
「人気者だなユーリ君」
「羨ましいか?」
「ああ、だが幼女と付き合うのはあまりオススメ出来ないな」
「そういう趣味は無ぇから安心してくれ」
冗談を交わしあっていると、リタがさっさと行くわよと前で叫んだ。