02.そして歯車は回り出す

先程までの洋式の廊下から一転、青や緑の光のみがちらほらと散らばる薄暗い広間に出た一行は、中央にある巨大な魔導器を見上げた。

「この魔導器が例のブツ?」

すぐにリタが側により解析を始める。その手際のよさに感心しながら結果を待った。

「ストリムにレイトス、ロクラーにフレック……複数の魔導器をツギハギにして組み合わせている……。この術式なら大気に干渉して天候操れるけど……こんな無茶な使い方して……! エフミドの丘といい、あたしよりも進んでるくせに、魔導器に愛情のカケラもない!」

「愛情……って、まぁ所詮ただの道具だからな、仕方がな」

「ただの道具だなんて言わないで!!」

突然怒鳴られて吃驚するこちらを無視して解析を続けるリタに、何故かエステリーゼが一度こちらを向いて頭を下げる。別に謝られるほどのことではないのだが。

「……彼女はいつもあんな感じか?」

「俺もこないだ知り合ったばっかりなんだがな、まああんな感じだ」

エステリーゼが証拠は掴めたのだから調べるのは後にしようと言うが、リタは離れようとしない。
ただ研究熱心なだけなら、そんな人間は沢山居る。が、先程の怒り方といい、あそこまで魔導器に執着する人間は初めて見た。

「魔導器って、使ってたら愛着とか湧いてくるもんなのか?」

「さてね、まあ感じ方は人それぞれってことだ。あとでフレンにその魔導器まわしてもらえばいいだろ? さっさと有事始めようぜ」

ユーリの言葉に渋々了承したリタが魔導器から離れる。皆も散開して、何か壊してもいいものはないかと探した。

「あ〜っ! もう!!」

最初はちまちまと傷付けるだけの作業だったのが、リタの放った魔術により一気に過激になる。

「うわぁっ! いきなり何すんだよっ!」

「こんくらいしてやんないと、騎士団が来にくいでしょっ!」

「でも、これはちょっと……」

あまりの破壊っぷりにエステリーゼがたじろく。すると程無くして騒ぎを聞き付けたラゴウが傭兵を引き連れてやって来た。

「人の屋敷でなんたる暴挙です! お前たち、報酬に見合った働きをしてもらいますよ、あの者たちを捕らえなさい。ただし、くれぐれもあの女を殺してはなりません!」

傭兵に命令するラゴウの言葉を聞いてエステリーゼを背に隠す。結局バレたってことか。

「こりゃ後々面倒になるなぁ」

「まさかこいつらって、紅の絆傭兵団!?」

「それ、もういっちょ!」

乱闘の中リタが更に魔術で屋敷を破壊する。ユーリが頃合いを見て撤退の合図を出した。

「早く逃げねぇとフレンとご対面だ、そういう間抜けは勘弁だぜ」

「まさか、こんなに早く来れるわけ……」

言いかけたリタが、破壊された扉から飛び込んできた金髪の騎士を見て口を閉ざす。

「執政官、何事かは存じませんが、事態の対処に協力致します」

「フレン!?」

「ほらみろ」

エステリーゼの声に反応したフレンがこちらを見て目を見開く。
しかしユーリや自分を見て、何も言わずに傭兵に向かっていったところを見ると、こちらの考えは解って貰えたようだ。ユーリといいフレンといい察しが良くて助かる。

「仕事熱心な騎士ですね……」

面倒そうに舌打ちするラゴウ。と、今度は天井近くの窓が割れる。
そこに見えたのは巨大な青い竜。その背にはフードを纏った人が乗っている。

「うわあ……! あ、あれって竜使い!?」

興奮するカロルの横を通りすぎ、傭兵やフレンの間をすり抜け、その竜使いは中央にあった巨大魔導器をなぎ払った。

「ちょっと! 何してくれてんのよ! 魔導器を壊すなんて!!」

それに怒ったのは当然ながらリタだった。魔術を乱射し撃ち落とそうとするが一つもかすることはない。
更に竜は口から炎を吐き出し、フレン達の行く手を阻む。

それに好機を見いだしたラゴウは屋敷から逃げ出した。

「船の用意を!」

「やべっ、待ておい!!」

このまま逃がしてエステリーゼのことをベラベラと喋られてはたまったものではない。
後を追い屋敷の外に出たが姿が見当たらず、同じく出てきたユーリ達と合流する。

「ったく、なんなのよ! あの魔物に乗ってんの!」

「あれが竜使いだよ」

「竜使いなんて勿体ないわ。バカドラで十分よ! あたしの魔導器壊して!!」

リタの魔導器じゃないし、という冷静なカロルのツッコミも激昂状態の彼女の耳には届かない。

「お前らとはここでお別れだ」

「ラゴウってわるい人をやっつけに行くんだね」

「ああ、急いでんだ」

「だいじょうぶ、ひとりで帰れるよ」

聞き分けの言いポリーにいい子だと微笑んで、ユーリの視線はパティに向く。

「おまえももう危ないところに行ったりすんなよ」

「わかったのじゃ」

そうしてポリーと一緒に街へ駆けていったパティを見てリタが不安そうな顔をする。

「まぁ、好きな人の忠告なら聞くんじゃないのか?」

「……そういうもん?」

「多分ね。それより俺はさっさと追いかけたいんだが、そろそろいいかな?」

満場一致でOKを貰い、急ぎ港に向かう。しかし船は既に出航し始めていた。
少し距離はあるが、飛び乗ればまだ間に合う。

「行くぞ……!」

「ちょっ待って待って待って! 心の準備が〜〜〜〜!!」

「エステリーゼ様、ちょっと失礼しますよ」

「え? ……きゃっ!?」

腰の引けているカロルをユーリが、エステリーゼをアルノルドが抱え、一斉に飛び出す。無事に甲板に着陸して、一先ず胸を撫で下ろした。
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