12.音速十光年

「レイヴン! 大丈夫ですか!? アルは……!?」

皆の魔術を総動員して、やっとのことで全ての火を消し終えたエステリーゼ達は、クレーターの真ん中で座り込んでいる二人に駆け寄る。

アルノルドはレイヴンに寄りかかったまま動かない。その体はあちこちボロボロで、傍目にはレイヴンが遺体を抱いているようにしか見えなかった。

「生きてるよ。でも流石に重症だから、すぐに治療してやらんと。今回ばかりはグミじゃどうしようもないし……」

「治療っつってもどうするんだ? そいつの体質じゃあ方法は限られてるだろ」

「そうね。だからエステルが治療してあげて」

「え? でも、私の術じゃあ……」

「大丈夫よ、ウンディーネのマナを使えばいいの。それならこいつにも効く筈よ」

エステリーゼは半信半疑のまま、深呼吸して治癒術を発動させた。
するとリタの言う通り、いつもならば殆ど効果を発揮しない術が、本来の威力そのままにアルノルドの傷を癒していく。仲間達はおお、と歓声を上げた。

「どうです? 効いてます? 目を覚ましませんけど……」

「これは泣き疲れて寝てるだけだから。治療はバッチリ。有難うね」

「あら、泣いてたの? 残念、見たかったわ」

「そりゃあ、あんな化け物に追い回されて自爆を迫られたんじゃ、流石にアルでも泣いちゃうよね……」

「人生時には泣くことも必要なのじゃ。怖くて泣いとるアルも、うちは好きじゃぞ」

「そういう涙じゃあないと思うけど……。まあいいや。ところで、この後どうする?」

「わざわざ帝都に戻るのも面倒だし、このまま一緒に連れていけばいいんじゃない?」

「でも、きっとフレン達は心配してます。せめて無事だって伝えてあげないと……」

「しゃーねえ、運んでやるか」

という訳で、一行は眠ったままのアルノルドを連れて一路帝都へと向かった。
アルノルドの行いは殆ど知られていないようで、帝都は大きな混乱もなく日常に戻っていた。

とは言え、それはフレンを除いての話。
ユーリ達に城の前へ呼び出された彼は、アルノルドの無事を聞いて脱力した。

「死ぬかと思った……」

「まあ、本人はそのつもりだっただろうねぇ」

「いえ、彼を止められなかった後悔で、僕が死にそうでした」

「そっち?」

「そりゃ災難だったな。どっちも生きてて何よりだ」

「ユーリ達が居てくれて本当に助かったよ。それで、彼は今何処に?」

「全然起きねぇから船に置いてきた。部屋に運ぶなら手伝ってくれ」

「いえ、その必要はありません」

その声を聞いて、フレンは姿勢を正した。
場に現れたその人、ヨーデルは、フレン同様ユーリ達に礼を述べる。

「アルノルドが面倒をかけました。皆さんまで危ない目に遭わせてしまって……」

「それはいいんです。でも、運ぶ必要はないって、どういう事です?」

「今回の件は彼の独断によるもので、私はそれを許可した覚えはありません。彼は皇帝を守護する親衛隊の隊長。それが帝権を代行する私に何の断りもなく帝都を飛び出し、貴方がたのような民間人の命を危険に晒した。帝都を守るためとは言え、そのような身勝手な行為を許す訳にはいきません」

「……どうするつもりだ?」

「本来ならば懲戒解雇、良くて降格処分、と言ったところですが、今の騎士団は彼無くしては立ち行かないのも事実です。ですから、今回は謹慎処分で手を打ちましょう」

「謹慎……いつまでです?」

「そうですね……星喰みの件が片付くまで、でしょうか。その間、アルノルドがこれ以上勝手な真似をしないよう、皆さんには彼の監視をお願いしたいのですが……」

「監視って、あいつを船室にでも閉じ込めておけってこと?」

「いえ、それではただお邪魔になってしまうだけでしょう。皆さんと居る間、彼の事は好きに使って頂いて構いません。皆さんが指示した事であれば、彼の行動を咎めるつもりもありません」

「それって……」

「はっはぁ、なるほどね」

ヨーデルの思惑を正しく理解した年長組はニヤリと笑った。アルノルドの処分の行方を案じていたエステリーゼ達の顔にも笑顔が戻ってくる。

「だってよ。殿下はこう言ってるが、どうする? 首領」

「もちろん、引き受けるよ! 皆もいいよね?」

「次期皇帝陛下のお願いだもの、断る訳にはいかないわよね」

「そいつで試したいことが色々とあるし、連れていく口実が出来て丁度いいわ」

「船を動かす人手は多いに越した事は無いのじゃ」

「決まりだな。そんじゃ、暫く借りてくぜ」

「ええ、宜しく頼みます」

そうして、笑顔でユーリ達を見送るヨーデルに、黙して聞いていたフレンが口を開く。

「……殿下、貴方がアルノルド隊長を次の騎士団長に選ばなかったのは……」

「……アレクセイは優れた騎士でした。ですがそれ故に、皆が彼に頼りきってしまっていた。彼の苦悩を理解する者は居らず、彼と並び立てる者も居なかった。……私には、アルノルドが同じ道を辿るように思えて仕方がなかったんです」

フレンにはあって、アルノルドには足りていないもの。アレクセイが生涯持ち得なかったもの。

時にぶつかり、時に助け合い、共に生きていく仲間。
光と影のように寄り添い、互いを支え合う事のできる相棒。

「貴方にとってのユーリさんのような人が、彼にも必要だと思ったんです。例えば、道を誤った時に叱ってくれる人、正しき場所に連れ戻してくれる人。或いは彼が死に瀕した時に、命を懸けて助けに来てくれるような人が」

お節介かもしれませんが、と苦笑するヨーデルに、フレンは頭を振るった。そして、ヨーデルと同じことを思う。

願わくば、今彼の傍に在る星々が、彼の光となってくれますようにと。
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