02.そして歯車は回り出す

「あ! ユーリ! おーい!」

宿の近くには居なかった為適当に街中を探していると、カロルがそれらしき人物を見つけて呼びかける。
だがその傍には何故かラゴウの屋敷で会ったレイヴンが居た。

「あんの、オヤジ……!」

囮にされたことをまだ根に持っていたらしいリタはその姿を見るなり走り出す。
が、レイヴンはこちらに気付くとさっさと逃げて行ってしまった。

「待てこら! ぶっ飛ばす!」

「街中で女の子が大声で物騒なこと叫ぶもんじゃないぞー」

「はあ……はあ……。なんで逃がしちゃうんだよ!」

「誤解されやすいタイプなんだとさ」

「え? それどういう意味……?」

ユーリの発言に息も絶え絶えのカロルが疑問符を飛ばす。
一人レイヴン追いかけていたリタは途中で諦めたのか数分後に帰ってきた。

「で、何の話してたんだ?」

「ただの他愛ない世間話だよ」

あんな怪しいオッサンとする世間話とは、どんな内容か聞いてみたいものだなと言うと、ユーリは「今度会ったら話しかけてみたらどうだ?」と笑った。」
それから遅れてエステリーゼもやって来る。

「大丈夫か?」

「……少し、休憩させて、ください」

やはり城に閉じ込められていたお姫様には旅はキツいんじゃないだろうか。こんな少しの運動で疲れていたら身が持たない気もするが、まあ無理だと思ったら自分から言うだろう。

「じゃ少しだけな、そしたら行くぞ」

「行くって、どこに行くの?」

「紅の絆傭兵団の後を追う。下町の魔核返してもらわねぇと」

「足取り、つかめたんです?」

「北西の方に怪しいギルドの一団が向かったんだと、奴らかもしんねえ」

「成る程、充実した世間話をしたんだな」

言えばユーリはこっちを見て「まあな」と笑う。
情報の出所があのおっさんで大丈夫かと聞けば、それ以外に情報もないからなと返された。





そしてその言葉の通り北西に向かえば、あったのは見事な廃墟だった。
また騙されたんじゃないかと皆の心に不安が過ったが、こんな場所にも来る人が居るのだということは1人の少女が身を持って教えてくれた。

「そこで止まれ! 当地区は我ら魔狩りの剣により、現在完全封鎖中にある」

「この声……!? ナン!」

目当てのギルドではないようだが、カロルだけは反応した。
親しげに話かけるあたり友人か、あるいはカロルもギルドの仲間なのかもしれないが、ナンと呼ばれた少女はカロルに対し酷く冷たい。

「せっかく魔狩りの剣に誘ってあげたのに……今度は絶対に逃げないって言ったのはどこの誰よ! 昔っからいっつもそう! すぐに逃げ出して、どこのギルドも追い出されて……」

「わあああああっ! わあああああっ!」

カロルが突然大声で叫びだす。
恐らくナンの言葉をかきけそうとしたのだろうが、一拍遅れていた為大事なところがしっかり聞こえてしまっていた。

「……ふん! もうあんたクビよ!」

「ま、待ってよ!」

「魔狩りの剣より忠告する!速やかに当地区より立ち去れ! 従わぬ場合、我々はあなた方の命を保証しない」

言い捨てて去っていく少女の姿をカロルが切な気に見つめる。何故こんなところに居るのかと皆少なからず疑問に思ったが、そのまま進むことにした。

つまり先の忠告を一斉にスルーしたわけだが、それに非を唱えたのがエステリーゼ1人だった為、多数決的に押し負けたエステリーゼもそれに続いた。





途中面倒な仕掛けはあったものの、ある程度順調に進んでいった一行は、ほどなくして再び人に出会った。

それは先程の少女同様魔狩りの剣らしく、数匹の魔物と対峙しているのが見えた。

「あいつがお前んとこのリーダーか?」

一際大きな男は、同じく大きな剣を掲げる。そして敵に術式が現れた瞬間、一太刀で葬った。

その技にアルノルドは見覚えがあった。フェイタルストライクと呼ばれるもので、昔鍛練した事を思い出す。

「相手に上手く攻撃を加えることで敵の体勢を崩していき、そのスキに術技を打ち込んだ後、相手にとどめの一発を打ち込む戦闘技術のこと、です」

「なるほどね……言うは易いが成すは難しって感じだな」

「ええ、でも確かアルノルドは出来ますよね。前に一度見たことがあります」

「えっホント?」

エステリーゼの言葉に目を輝かせるカロル。練習すれば誰でも出来るよと言うと嬉しそうに剣を振るっていたが、魔狩りの剣を見て手を止めた。

「あんた、本当は戻りたいんでしょ」

「そ、そんなの」

リタに言い当てられて動揺するカロルに、エステリーゼが戻ってしまうのかと寂しげに問う。
カロルは魔狩りには飽きたから戻らないと言うが、先程のナンの言葉を聞いた後ではそれが虚勢なのだとすぐにバレる。

「それにしてもあいつら、あんな大所帯で何する気なんだ?」

「魔狩りの剣なんだから、魔物討伐とかなんじゃないか?」

「でも、さっきみたいな魔物が目的ならひとりで十分じゃないです?」

ますますうさんくさいなと言い合うが、目的はそれではない。さっさと紅の絆傭兵団を見つけようとまた歩き出した。






「聞きそびれてたんだが……」

道中で、ユーリが突然そう切り出す。その目はエステリーゼに向いていて、一度足を止めた。

「どうして、トリム港で帝都に引き返さなかったんだ?」

「どうしてって……」

そういえば、とアルノルドも足を止める。
自分もちゃんとした理由は聞いていない、いや、ちゃんとした理由があるようには見えなかったが。

「そっか、エステルはフレンに狙われてるって伝えたかったんだもんね。そういえば結局、フレンって誰に狙われてたの?」

「ラゴウじゃないの?」

「ヨーデルはラゴウの船にいた。ヨーデルは皇族ってやつだ」

「だから?」

「本当はフレンの任務はヨーデルを探すことだったんじゃねえかなってことさ。なんで同じ帝国のお偉いさん同士がそんなことになってんのかは知らねえけどな」

察しがいいのは長所であり短所だなと、当たりすぎている予想をペラペラと話すユーリに少し眉を寄せる。
当のユーリは真意を探ろうとしているようにこちらを見ていた。

「ま、いいさ。それよりエステルの話だ。
戻らなくていいんだな?」

「そうですね……私、トリム港からそのまま勢いでついてきてしまいました……。多分……私……もう少し、みんなと旅を続けたかったんだと思います……だから……」

途切れ途切れに話すその様子は、冷静に自分と向き合おうとしているようにも見えたが、どちらかといえば地に足のついていない自分を指摘されて困っているように見えた。

「じゃ、ま、ついてくるといいさ」

「有難う御座います」

「ほら、行くわよ」

歩くリタの背をエステリーゼが追う。ユーリはそれを見送ってこちらに来た。

「ま、そういう訳らしいから頑張れよ」

「他人事だな、君から説得してくれるのかと思ったよ」

「ご期待に沿えなくて悪いな、それは俺の役割じゃないんでね」

「それもそうだな。ならこれだけは言っておくが……」

「なんだ?」

「あまりヨーデル様を呼び捨てにしないように」

俺は構わないけど回りは五月蝿いぞと付け足すと、ユーリは肝に免じておくと笑った。
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