02.そして歯車は回り出す
あちこち歩き回ったり戦ったりで既に疲労困憊、そんな一行を廃墟の出口で待ち構えていたのは非常に残念なことに騎士団だった。騎士隊長のキュモールが真ん中でこちらを見下すように眺め、両脇には兵士が立ち並んでいる。
「ようやく見つけたよ愚民ども、そこで止まりな」
「わざわざ海まで渡って、暇な下っ端どもだな」
「くっ……君に下っ端呼ばわりされる筋合いはないね。さ、姫様、こ・ち・ら・へ」
「随分デカい態度ですねキュモール隊長。ですが姫様を連れ帰るのは俺の役目ですんで」
エステリーゼの前に出るとキュモールはあからさまに嫌そうな顔をした。後ろではカロルがエステリーゼが姫だと知って騒ぎ立てている。
「これはこれはアルノルド隊長、こんな所で何を?」
「それはこちらの台詞です。どういう了見かは知りませんが、一般市民に会って早々暴言とは頂けませんね」
「……彼らをどうするのですか?」
「決まってます、姫様誘拐の罪で八つ裂きです」
物騒な事を口走るキュモールにため息をつく。相も変わらず馬鹿な言動が多いもんだな。
「待ってください、わたしは誘拐されたのではなくて……」
「あ〜、うるさい姫様だね!こっちに来てくださいよっ!」
「煩いのはどっちだか。エステリーゼ様、ああいう人間は相手になさらなくて大丈夫ですよ」
「そこ、聞こえましたよ!!」
ついに剣まで抜いたキュモールがこちらに迫る。
それを止めたのは新たに背後からやって来たルブランだった。
「ユーリ・ローウェルとその一味を罪人として捕縛せよ!」
「げっ……貴様ら、シュヴァーン隊……! 待ちなよ、こいつらは僕の見つけた獲物だ! むざむざ渡さんぞ!」
「獲物、ですか。任務を狩り気分でやられては困りますな」
「ぐっ……」
次々と言葉の攻撃を繰り出すルブランに、キュモールは文句を言いつつも立ち去る。
それに拍手を贈ると、アルノルドに気付いた三人は怒り出した。
「貴様! あの時はよくも人をダシにつかってくれたな!」
「大変だったのであ〜る!」
「ご苦労様でした。まあ、元同僚のよしみじゃないですか」
「なんだ、あんたあいつらの仲間だったのか?」
ユーリに問われ、「まあ昔の話だし、ちょっとの間だったけどね」と苦笑混じりに答える。
「〜っまあいい! こやつらをシュヴァーン隊長の名の下に逮捕せよ!」
「ユーリ一味! おとなしくお縄を頂戴するのであ〜る!」
「一味って何よ! なにすんのよ! 放せ! あたしを誰だと……」
「ボ、ボクだって何もやってないのに!」
次々連行される仲間にエステリーゼが「乱暴はしないで下さい!」と懇願する。その様子にユーリは笑って「心配しなくていい」と言った。
「大丈夫ですよ、シュヴァーン隊は皆紳士ですから」
「アルノルド……」
不安そうなエステリーゼの肩をそっと叩く。
が、その手をルブランに掴まれた。
「ん?」
「何をしている、早く来んか!」
「え? ……いやいや、俺は関係ありませ」
「あそこまで親しくしておきながら関係ないわけがなかろう!」
有無を言わさず引きずられ、先程までの余裕が崩れる。エステリーゼはどうしてよいかわからずあたふたするだけだ。
ちょっと待て、連れて行かれれば確実にアレクセイに会うことになる。エステリーゼを連れ帰るどころか捕まって帰るなど言い訳も何もないではないか。
「すみません勘弁して下さいませんか」
「ふん、罰が回ってきたと思え! ――シュヴァーン隊長、不届き者をヘリオードへ連行します」
ああなんだ、行き先はヘリオードかと安心したのは後になってからで。
それよりも先に気になったのは、ルブランの呼んだ名前だった。
「隊長も来てるんですか?」
ルブランは何も言わずに高台を指差す。そこには立派な鎧を着た懐かしい上司の姿。
後ろを向いているせいで顔は見えないが、それが本人だというのは分かった。
「何だ、挨拶でもしたかったのか?」
「……いえ」
「……ならさっさと歩かんか!」
こちらの心境を汲んだ、とまではいかないかもしれないが、とにかくそれ以上何も聞かずに居てくれたのは有難かった。
(……今はもう、合わせる顔がないもんなぁ)
遠ざかっていく橙の鎧を目に焼き付けるように暫く見詰めて、それからは一度も振り向くことなく歩いて行った。