03.影を追い影に追われ

外に出ると、辺りは薄暗くなっていた。
さてエステリーゼは何処だろうかと聞き回っていると、金色の髪をした頭が2つ並んでいるのを見つけた。

「フレン、それにヨーデル殿下」

呼び掛ければ2人同時に振り向く。遠目に見れば兄弟のようだなと身長差のある2人を見て思った。

「アルノルド隊長、お疲れ様です」

「そっちもな。エステリーゼ様は?」

「彼女なら宿で休んでいると思いますよ」

よほど疲れが溜まっていたのか、ならば見張る必要もないなと肩の力を抜く。
あちこち出歩かれるよりはかえって気が楽だし、自然に起きるまで待つことにした。

「そういえば、ユーリ君達はどうした?」

「さっきまでは此所に居たんですが……、今頃は宿に向かっているかもしれません。何かご用でしたか?」

「いや、色々迷惑もかけたし、俺からも一言礼をと思ったんだが……、休んでるならそっとしておいた方がいいな」

まああの性格なら、礼は必要ないと言われそうだが。
彼らとももう会うことは無いのだろうなと思うと少し勿体ない気もした。あれほど愉快な連中もなかなか居ないだろう、特に騎士団なんて格式ばった世界には。

「なら俺ももう今日は休ませて貰うかな。フレンは明日からどうするんだ、一緒に帝都に戻るのか?」

「いえ、俺はまた別の仕事がありますので……」

「相変わらす忙しいな」

頑張れよ、と肩を叩けば足を揃えて敬礼するその動作に固い固いと笑う。
きっとフレンは民や部下に好かれる立派な騎士になるだろう、ただその優しさが騎士団では錘になるかもしれないが。

「殿下は?」

「もう少し散策したいところですが、流石にそうもいきませんからね。一度帝都に戻ります」

冗談だというように笑うヨーデル。
その言葉に少なからず本音が混ざっていることは分かっていたが、皇族という身分が彼を縛り付けてる今、それはアルノルドにはどうにも出来ないことだった。

エステリーゼもヨーデルも、若いのに苦労してるもんだ。

「それでは、また明日」

「はい、貴方もゆっくり休んでくださいね」

気遣いを忘れないしっかり者の皇帝候補に礼をして、また明日に備えて体力を回復すべく宿へ向かった。






次の日の朝、気持ち良く眠っていたアルノルドを起こしたのは小鳥のさえずりでも太陽の光でも目覚まし時計の音でもなく、正体不明の地響きだった。

そんなものに起こされて目覚めが良い訳はなく、朝からテンションを下げられつつも仕方なく布団から這い出る。

窓から外を覗けば、なにやら人だかりが出来ているのが見えた。しかしそれがどこに向かっているのかは此所からでは確認出来ない。

何か事件でも起こったのかと掛けてあった騎士団服を羽織り、最低限身形を整えて外に出る。そこでようやく人だかりの理由を知ることが出来た。

ヘリオードを護る結界魔導器、それが異常なほどに煌々と光を放っている。

「ちょっと離して! この子、ほっとけないのよ!」

と、人混みの一番奥、つまり魔導器に一番近い場所から、聞き覚えのある少女の声がした。
まさかと思い確認すると、やはりそれはリタだった。

皆がある程度の距離を取っている中で、一人魔導器の操作板で指を滑らせている。
その近くにはユーリの姿も見えて、リタを魔導器から引き離そうとしているらしい事だけは分かった。

「おいお前ら、何やってる!?」

人の壁を割くように進んでなんとか最前列まで来たアルノルドはある事に気付いた。

魔導器の近くに居る人々が気分が悪そうに口元を抑えている、中には座り込んでいる者も数人居た。
その光景に、アルノルドは先日廃墟の街で同じようなものを見たことを思い出した。

(成る程、この光はエアルか……!)

つまりあの魔導器は廃墟のものと同様に、濃度の高いエアルを周囲に撒き散らしているらしい。リタはそれを何とかしようとしているのだろう。

だが事態は先日のそれよりも悪かったようで、突然魔導器が閃光を放ったかと思えば、近くにいた二人が吹き飛ばされた。

だがリタは直ぐに起き上がり、また魔導器に近寄る。
どこまで魔導器一筋なんだと呆れながら自らも前に出た。

「こら、一回痛い目遭ったら懲りなさい」

「あんた……! 今真剣なのよ、邪魔しないで!」

聞く耳持たない、といった様子で手を動かすリタ。だが光は益々強くなる一方だ。

「そんな! この子の容量を越えたエアルが流れ込んでる。このままじゃエアルが街を飲み込むか、下手すりゃ爆発……」

「な、ば、爆発だって! 冗談じゃないぞ!」

解析を終えたリタの言葉を聞いた住民の1人が叫ぶ。それは波紋のように周囲に広がり、街は一気にパニック状態に陥った。

いよいよまずい状況になり始めた空気に、アルノルドは仕方ないと魔導器に手を伸ばす。

「ちょっと、余計なことしないでって……」

「いいからお前は離れてろ!」

言うことを聞かないリタを怒声で黙らせて、意識を魔導器に集中させる。
すると暫くして、徐々に魔導器の光が収まり始めた。

「あ……あんた、何やってんのよ……?」

驚き目を見開くリタ。だがこれなら何とかなりそうだと皆が安心したのも束の間、新たに人混みから出てきた人物が一人。

「リタ! 大丈夫!?」

「っ、エステリーゼ様!?」

声でそれだと分かったアルノルドが一瞬そちらに気を取られ魔導器から手を離す。
だがそれがいけなかったのか、収まりかけていた光は途端に明るさを取り戻し――

「……ッ!?」

「きゃああああああっ!!」


街を閃光で包み、大爆発を起こした。


「……っ! リタ! アルノルド! しっかりしてぇ!!」

至近距離で爆発を受けた二人は吹き飛ばされ、魔動器と共鳴するように体から光を放っていたエステリーゼは急いで二人に駆け寄る。

ピクリともしないリタにエステリーゼが必死に治癒を施す。アルノルドにも同じように治癒をかけたのだが、途中でその手を止めてしまった。

「そんな……どうして……!?」

エステリーゼは何度も何度も同じことを繰り返す、だが結果は変わらなかった。
治癒をかけているのに、なかなか体の傷が癒えないのだ。

「いや……っ、アルノルド! しっかりして下さい!!」

リタには効いたのに何故。
パニックを起こすエステリーゼの手を、アルノルドが掴んだ。

「……大丈夫、です……。すみません、ちょっと……厄介な体質で……」

痛む体を起こして、少しでも不安を取り除いてやろうと笑う。だがエステリーゼの表情は良くならなかった。
それどころか、治癒術の使いすぎで疲弊してきている。

「エステリーゼ様……俺の事は、いいですから……それ以上治癒術は……」

「私は……大丈夫です! それよりも貴方が……!」

「おい、大丈夫か!?」

ふらつくエステリーゼの肩を、飛び出してきたユーリが掴む。
そして怪我を負ったアルノルドを見て表情を険しくした。

「治癒を……かけたんですが、ほとんど効かなくて……!」

「効かない?」

「とにかく二人を……休ませる部屋を……準備して下さい……!」

ぜぇはぁと息を乱すエステリーゼに、おまえもぼろぼろじゃねえかとユーリが肩を支える。
そして懐からグミを取り出して、こちらの口に押し込んだ。

「とにかくそれ食ってろ。――おいフレン! 手ぇ貸せ!」

「扱いが雑だな……」

「アルノルド隊長! すぐに救護の準備を……!」

バタバタと慌ただしく走り回る皆を見ながら、地面に体を預け力を抜く。
先程のグミのおかげで少しは痛みが和らいだが、まだ起き上がれそうには無かった。

もう少しで上手くいくとこだったんだがな、と数瞬前のことを思い出す。いきなり爆発されては流石に防御も何もない、全く酷い様だと苦笑した。

(にしても、さっきのエステリーゼ様は……)

エステリーゼが飛び込んで来た時、彼女の体は何故か光っていた。それも見間違いではなくハッキリと。

今は何ともなっていないようだが、あれは一体何だったのか。
爆発したのと何か関係があるのか? エアルの異常発生もエステリーゼ様のこともわからないことだらけで嫌になる。

ただ不幸中の幸いと言えば、エステリーゼ様に怪我が無かったことぐらいだった。せっかく解雇処分を免れたのにそれを取り消されては堪ったものではない。

そういえば、うちの上司は何処に行ったのだろうかと、これだけの騒ぎの中姿を見せないアレクセイをアルノルドは密かに非難した。
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