03.影を追い影に追われ

「帝都までの道中は気をつけてな」

場所は室内から変わって宿の前。元気になったリタを含め、ユーリ達三人から見送りの言葉を受ける。

「ま、立派な護衛がついてるから大丈夫か」

「言ってくれるな青年。まあエステリーゼ様は命にかえても護るつもりだけど」

「そんな、駄目ですよ! 命にかえてもなんて……」

「大袈裟に言っただけですって」

命にかえても、というのは確かに言い過ぎかもしれないが、それぐらいの気持ちであるという事は本当だった。
なにせエステリーゼにもしものことがあれば、こちらの首も飛びかねない。

「あ、あの、ユーリたちはこのあとどうするんです?」

「そうだな、紅の絆傭兵団の足取りも途絶えちまったし……」

帰るのを承諾したと言っても、やはりまだ本心ではユーリ達と共に居たいのだろう。自然に振る舞おうとしているが、言葉からその気持ちがにじみ出ている。

「だったら、この先にあるダングレ……スト……はだめだ。今戻ったらみんなにバカに……」

「ダングレストっていうと、確かギルドの街だったよな?」

「う、うん。だから、紅の絆傭兵団の情報も見つかるかもな〜って……」

あまり乗り気ではなさそうなカロルにユーリが道順を聞く。西に行けば着くと答えたカロルに、

「なら、行くか。ギルド作るにしても、色々と参考になるだろうし」

と返した。
瞬間カロルの顔が輝き、なら行こう! と先程までとは真逆のテンションで我先にと歩き出す。

「ギルドって、いつの間にそんな話になってたんだ?」

「あんたがエステルの様子を見に行ってた時にな。まあまだ決まったわけじゃないが」

街の出口までは送ってやるよと言ってくれたユーリに、カロルの後を追うように皆も歩き出す。
アレクセイと合流しないとなと考えていると、探し人はあちらからやって来てくれた。傍らには昨日見た秘書の女性が控えている。

「怪我はもう治ったようだな」

「……ええ、まあ」

怪我した事は知ってるくせに何もしなかったのかこの上司は。
僅かに苛立つアルノルドだが、その表情はいつもの笑顔をキープしていた。

「それじゃあユーリ君、リタ、カロル君、元気で」

「いや、その前に1つ話がある」

3人に別れを告げようとしたアルノルドをアレクセイが止める。何だよという顔をしたのはユーリ達も同じだった。

「リタ・モルディオ、君には昨日の魔導器の暴走の調査を依頼したい」

「……あれ調べるのはもう無理。あの子、さっき少しみたけど結局何もわからなかったわ」

指名されたのはリタは、名残惜しそうに魔導器を見つめる。魔導器は今は静かに街にそびえ立っているだけだ。

「いや、ケーブ・モック大森林に行って貰いたい」

「……ケーブ・モック大森林か。暴走に巻き込まれた植物の感じ、あの森にそっくりだったかも」

「最近、森の木々に異常や魔物の大量発生、それに凶暴化が報告されている。帝都に使者を送ったが、優秀な魔導士の派遣にはまだまだ時間を要する」

つまり、同じような現象が起こっている場所を調べて原因をつきとめろということか。
確かに手がかりにはなるかもしれないが、リタの興味の対象は魔導器だ。植物の調査なんてやらないんじゃないかと少女を見れば、案の定管轄外だと首を振った。

「それにあたしは……エステルが戻るなら、一緒に帝都に行きたい」

「え?」

驚きと喜びの入り交じったような顔でエステリーゼがリタを見る。
それはつまり我が儘というもので、アレクセイは義務を放棄するのかと突っぱねたが、短い間とは言えリタを見てきたメンバーからすれば、それは初めてリタが魔導器以外に執着を見せた歴史的瞬間だった。

「あ、え、えっと……それじゃあ、私がその森に一緒に行けば問題ないですよね」

その我が儘に心打たれたエステリーゼがとんだ提案をする。
リタの気持ちを尊重してやりたいのは分かるが、その発言がどういう事かというのをちゃんと理解してくれているのだろうかとアルノルドは頭痛を覚えた。

「エアルが関係しているのなら、わたしの治癒術も役に立つはずです。お願いですアレクセイ! 私にも手伝わせてください」

「しかし、危険な大森林に姫様を行かせるわけには」

「それなら……」

エステリーゼは一瞬こちらを見てから、ユーリに向き直った。

「ユーリ、一緒に行きませんか?」

「え? オレが?」

「ユーリが一緒なら、かまいませんよね?」

こちらの疲労や気疲れをエステリーゼは感じ取ってくれたのか、ユーリに護衛を頼むと申し出た。
それで事が済んでくれれば自分としては異議はないが……、アレクセイはしばし考えたあと、エステリーゼの提案にある条件を付け足して応えた。

「……わかりました。ですがエステリーゼ様の護衛は騎士団の役目、アルノルドを供に連れていくというのならば、私も目を瞑りましょう」

でしょうね! こちらの意思を無視して勝手に交渉するアレクセイに、エステリーゼはどうしたものかとアレクセイとアルノルドを交互に見る。
その隣ではリタが期待の眼差しでこちらを見ていたし、カロルもリタ程ではないにしろ同様だった。

困り果ててユーリに目で助けを求めようとしたが、彼にどうこう出来る問題でもない。
アルノルドは折れるしかなかった。

「……了解しました」

「アルノルド……!」

「いいとこあるじゃない」

良心で言ったんじゃなくて無理矢理言わされたんだがなと、喜ぶ面々に対し小さく溜め息をつく。
せっかく休めると思ったのに、人使いが荒いにも程がある。給料は弾んで貰わなければ。

「でも、宜しいんですかアレクセイ閣下、姫様に城にお戻りいただかなくて」

「嫌がる姫様を無理に連れ帰っても、またいずれ抜け出すだけだろう。何、時期が来るまでは自由にさせてやっても問題はない」

「時期……? 皇帝候補争いのことですか?」

小声で交わし合ったその言葉に対しアレクセイは何も言わなかったが、その口角が少し上がったように見えた。
最近のアレクセイは何を考えているのか全く読めない。そんなアレクセイにエステリーゼは頭を下げた。

「とまあそういう訳らしいから、改めて宜しくな」

「すみません……付き合わせてしまって」

「団長閣下のご命令じゃ仕方ありません。それじゃあ、ダングレストに行きましょうか」

「ケーブ・モック大森林じゃないの?」

「どうせ通り道だからね、ユーリ君達と別れて行動するのも手だけど……」

ちら、とエステリーゼに目線を向ける。
きっとバラバラに行動するとなれば今の笑顔は無くなるだろう、効率は悪いがユーリ達が気になると魔物だらけの大森林で上の空になられるよりはマシだと目線をリタに戻す。

「俺も行ってみたいからね、騎士をやってるとギルドの街に行ける機会なんてそうそうないし」

「よし、じゃあダングレストの街経由でケーブ・モック大森林だね!」

元気よく取り仕切るカロルに、同じく元気なエステリーゼが着いていく。
ユーリに「ご苦労さん」と背を叩かれて、アルノルドもそれに続いた。
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