04.黄昏に光る少女の泪

新興都市ヘリオード。前に来たときはルブラン達に連行されてだったなあと苦い思い出を振り返りながら、一行は薄暗い街の入り口を跨ぐ。

「なんだか……以前より閑散としてません?」

「ああ、なんか人が少なくなった気がするな」

「そう言えば、あれかなぁ……」

「あら? どうしたの?」

「ダングレストで聞いたんだけど、街の建設の仕事がキツくて逃げ出す人が増えてるんだって」

「ふーん、そんなことが。……ほっとけない」

「え?」

「って顔してるわね」

ユーリとジュディスはエステリーゼの顔を見ていた。

またそれか、とアルノルドはうんざりする。
エステリーゼにではなくて、そんなエステリーゼの気持ちをわざわざ代弁し、その通りに行動させようとするユーリに。

「だって、ほっとけないじゃないですか」

「わかってるって」

ほっとけばいいじゃないか、関係のない事なのだから。
まずは街の様子を見て回ろうと張り切る皆に、アルノルドは辟易しながらついて行く。

「あれ、あいつらノール港で会った……」

「あの時のお姉ちゃん!」

ユーリが見つけたのは、ラゴウの館に捕えられていたポリーと、その母親ケラスだった。
嬉しそうに走ってくるポリーをエステリーゼが迎える。

「お元気でしたか?」

「あのときは、本当にありがとうございました」

「お父さんは一緒じゃないの?」

喜色満面だったポリーは、そう聞かれて視線を落とした。その理由を母親が語る。

「それが、ティグルの……夫の行方は三日前からわからなくて……」

皆はさっきカロルから聞いた噂と関係しているのではないかと思い、ケラスに心当たりは無いかと問うた。だがケラスは首を横に振る。

「いなくなる前の晩も、貴族になるため頑張ろうと……」

「貴族にってどういうことです?」

「この街が完成すれば、私たち、貴族としてここに住めるんです」

嬉しそうに言うケラスに、エステリーゼとアルノルドは顔を見合せ首を捻った。

「そんな筈はありませんが」

「え?」

「貴族の位は帝国に対する功績を挙げ、皇帝陛下の信認を得ることの出来た者に与えられるものである、です」

「で、ですが、キュモール様は約束してくださいました! 貴族として迎えると!」

キュモール、その名にカルボクラムでの暴挙暴言を思い出してアルノルドは失笑する。よくぞまあ、あんな残念な人間の話を信じる気になるもんだ。

「キュモールとあなた方はどういったご関係で?」

「キュモール様は、この街の現執政官代行です」

「キュモールがねえ……」

「けどさ、今皇帝の椅子は空っぽなんだし、やっぱりおかしいよ」

「そんな……じゃあ、私たちの努力はいったい……それにティグルは……」

「お父さん、帰ってこないの……?」

不幸続きの親子二人が嘆く。エステリーゼはそれをギルドで、凛々の明星で引き受けられないかと言い出した。

報酬はあとで自分が払うと言っているが、働いているわけでもないエステリーゼが言う自身のお金というのはつまり帝国の所有物である。
帝国のお金というのは大半が徴収した税金なのだから、大きく言えば結局金を払っているのはケラス達ということになるのだが……、アルノルドはカロルがその仕事を引き受けたところで考えるのをやめた。

「次の仕事は人探しね」

「ま、キュモールがバカやってんなら、一発殴って止めねえとな」

「はい、騎士団は民衆を守るためにいるんですから。ね、アルノルド」

「……ええ、そうですね」

ただ今の騎士団にそういう人間は少ないのが実状で、キュモールのように私欲にまみれた人間ばかりが蔓延っているのだが。そしてそれは自分も例外ではないというのは自覚しているところだった。

「そういうわけだ、引き受けたよ」

「ありがとう、ありがとうございます!」

「んじゃ、さくっと探ってみるか」

「あそこの先なんてとても怪しいわよ」

それは結界魔導器の正面にある昇降機だった。
脇に見張りの騎士が立っており、部外者は立ち入り禁止となっている。

「なんとか入れないでしょうか……」

「アルノルドだったら大丈夫なんじゃない?」

「俺は行けても、カロル君たちが来れないだろ」

「あんたが父親を助けてきてくれれば問題ないんだがな」

「仕事を引き受けたのは騎士団じゃなくて凛々の明星じゃなかったか?」

「仰る通りで」

ユーリはひとりで進み出て、見張りの騎士と交渉してみる。
だがやはり上手くいかず、すぐに帰ってきた。

「よかった……ユーリのことだから、強行突破しちゃうかと思った……」

「でも、どうやって通ります?」

「やはり強行突破が単純で効果が高いと思うけれど」

どこまでも好戦的なジュディスをカロルが諌める。行動は慎重でないと騎士団に睨まれて潰される、というまともな意見だった。

「とにかく見張りを連れ出せればいいんだよ。例えばアルノルドが呼び出すとか」

「却下。悪事の片棒を担ぐ気は無いぞ」

「じゃあ、色仕掛けとか?」

「それなら……エステ」

「リーゼ様は駄目ですよ」

「……どうしてです?」

ユーリの目線から指名されそうな人物を先読みしてアルノルドが阻止する。エステリーゼは本気でわかっていない様子だ。

「ご自分の立場をよくお考えになって下さいね」

「しゃーねえ。じゃあジュディ、頼めるか?」

「ええ、勿論。じゃ、行きましょ」

「どこ行くんです?」

「ドレスを買いに行くのよ。この服装じゃ色仕掛けなんてできないもの」

それで駄目って、どんな服ならいいんだ。
男なら確実に一度は振り向くであろう衣装に皆が十分だと言うが、ジュディスはプライドが許さないからと店へ向かった。

「男の人を悩殺するドレスを探しているのだけれど」

「悩殺って……誰かデートでもするのかい? じゃあこんなのどうかな?」

「地味ね」

「うーん。じゃ、こっちがいいかな」

「趣味じゃないわ」

カウンターに色とりどりのドレスが並べられていく。
どれも綺麗で申し分ない品なのだが、ジュディスはなかなか納得しない。

「じゃあお姉さん、どんなのがいいんだい?」

「例えば……」

店主から渡された紙にサラサラとデザイン画を描いていくジュディス。
完成したそのデザインを見て、店主は顔をひきつらせた。

「わ、悪いけど、そんなのないから……」

「じゃあ作ってくれないかしら?」

「そうねぇ……柔らかい尻尾とバジリスクのうろこと小型鳥の羽毛がありゃお手のものだけどさ。どれも街の周囲にいる魔物が持っているよ」

一体どんなデザインを渡したのか。余程派手なものか、もしくは高価な材料を組み合わせて作ったものか。
案外ノリノリなジュディスを止めることも出来ず、アルノルド達は材料の調達を大人しく手伝うことにした。
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