05.花の下に戦士は集い

「あんなに沢山、勘弁してくれ〜!」

「金がいくらあっても足りねえよ!」

ヨーデルと別れた一行が波止場に着くと、なにやら男たちが叫びながら慌ただしく横を走り去って行った。

また厄介事かと皆がその先を見ると、赤髪の女性がなんとも乱暴な口調で男逹に怒鳴っているのが見える。

「あの人、確かデイドン砦で……」

「し、知り合いなの?」

「いや、前に一度だけ。おまえこそ知り合い?」

「知り合いって……。五大ギルドのひとつ、幸福の市場の社長だよ」

眼鏡美人の女性は仁王立ちのまま、傍に居た連れらしき男に何かを指示している。
次から次へと有名人に逢えるのは果たして幸か不幸か。カロルは「いいこと思い付いた!」と女性に近付く。

「あの人なら、海渡る船出してくれるかもしれないよ」

商業ギルドに頼むと値が張りそうな気もするが。アルノルドがそれを指摘するより、カロルの方が早かった。

「あら、あなたはユーリ・ローウェル君。いいところで会ったわ」

「手配書の効果ってすげえんだな」

「ねえ、あなたにピッタリの仕事があるんだけど」

「ってことは荒仕事か」

「察しのいい子は好きよ」

女社長、名をカウフマンというらしい彼女の依頼は、商品の運搬船の積み荷を魚人の群れに襲われて困っているので助けて欲しい、というものだった。

「ユニオンの重鎮ギルドなら、護衛ぐらいは付いているのでは?」

「あら、貴方その格好……騎士の方かしら?」

「……ええ、まあ」

しまった、自分が騎士であることを忘れていた。

自分のせいで船を断られたりしたらどうしようかとアルノルドが焦り始めると、レイヴンが「気にしないで」とその肩を持って言った。

「このお兄さんは今、ギルドの仲間だから。何か聞いたって騎士団にチクったりしないわよ。ね、少年」

「え? あ、うん!」

「あら、そう? ならいいわ」

カロルが同意するとカウフマンはあっさりと承諾し、事情を話し出した。
軽いなあと思いつつも、アルノルドは助かったと胸を撫で下ろす。

だが、チクったりしない、とは言っていたが、本当にしないのかと言われると怪しいところだ。
まあこの人が勝手に言っただけだしな……とそこまで考えて、昨晩のことを思い出した。そうだ、言わなければ。

「あの、レイヴンさん」

「ん? なになに?」

「昨日の夜は……その、有難う御座いました」

「? おっさん何かしたっけ?」

アルノルドは空になった煙草の箱を見せた。レイヴンは納得。

「どうよ、ちょっとは好感度上がった?」

「それとこれとは別ですので」

「なーによー冷たいわねぇ」

「おーい、話ついたぞ」

ユーリに呼ばれ、アルノルドはしつこいですよと言おうとした口を閉める。

船は出して貰えるようで、代わりに護衛をすることになったらしい。更には無事にノードポリカに着けば、使った船を貰えるという好条件だ。

「ボロ船だけど、破格の条件には違いないわね」

「……美味しい話には大概、それに見合った代償があるものだと思いますけどね」

「だな。魚人ってのがそれだけ厄介だって話だろ」

「そこはご想像にお任せするわ。――さ、話はまとまったんだから、仕事してもらうわよ!」

船は少し造りが古いものの立派なものだった。
こんなものをタダでくれるというのだから、やはりそれなりの危険が待ち構えているということなのだろう。

「この船があなたたちの船になるフィエルティア号。そして彼が幸福の市場傘下、海船ギルドウミネコの詩≠フトクナガよ」

この航海の間だけ船の舵を取ってくれるらしい男と皆は軽い挨拶を交わした。
エステリーゼは積まれている木箱を見ながら尋ねる。

「積荷はなんです?」

「それは、秘密よ」

「やばいもんじゃねえだろうな?」

「安心して、その辺の線引きはしてるから。さあ、ノードポリカを目指すわよ」

ゆっくりと船は動きだし、数分すると港は既に小さくなっていた。
操縦はトクナガに任せ、皆は甲板の上に集まる。

「魚人の群れに会わなければいいですね」

「でも世の中、そんなに甘くないわよ」

「それにしても助かったわ、なんとか間に合いそう」

「ええ、海凶の爪に遅れをとるところでした」

海凶の爪、といえばヘリオードで戦ったあの妙な口調の男だ。
その実態をよく知らないアルノルド達に、カウフマンが説明してくれる。

「兵装魔導器を専門に商売してるギルドよ」

「ああ、それでヘリオードで……」

「最近、うちと客の取り合いになってるのよね。もし海が渡れなかったら、また大口の取引先を奪われるところだったわ」

「それにしても、連中はどこから商品を調達してるんでしょう」

「それなのよ。兵装魔導器なんて、そう簡単に手に入れられるもんでもなし」

カウフマンの言う通り、兵装魔導器は市場などにゴロゴロと出回るものでもない。まあだからこそ商売として成り立っているのだろうが。

「来たわね」

「皆さん気をつけて!」

船が大きく揺れたことでその会話は打ち切られた。一匹の魚人が甲板にのそのそと上がってくる。

「ちょっと……船酔いしたのじゃ……」

「ま、魔物が喋った……!?」

姿に似合わない幼い少女のような声が魔物の口から発せられて皆ぎょっとしながらも、上がってきた他の魚人共々蹴散らしていく。

「さすがね、私の目に間違いはなかったわ」

「とほほ……凛々の明星はおっさんもこき使うのね。聖核探したりと色々やることがあるのに……」

「……聖核?」

「およ? 何か知ってるの?」

「いえ……どこかで聞いた覚えはありますが……」

「聖核って前にノール港で探してたアレか」

「それっておとぎ話でしょ。あたしも前に研究したけど、理論では実証されないってわかったわ」

「ま、おとぎ話だって言われてるのはおっさんも知ってるよ」

「どうしてそんなものを探すんです?」

「そりゃ……、ドンに言われたからね」

僅かな間と薄っぺらい笑みに、アルノルドはそれが嘘かもしれないと思った。そういうところが信用出来ないと言っているのに。

その時突然、倒したはずの魚人が立ち上がり蠢き出した。
まだ死んでなかったのかと構えると、口から何かが吐き出される。

べしゃっと音を立てて転がり落ちたのは、なんと少女だった。それも何度か見たことのある顔。

「パティ……!」

「快適な航海だったのじゃ……」

「魔物に飲まれてて、航海も何もないだろ」

無傷で出てきたパティは立ち上がり、ぐるっと周囲を見渡す。

「また会ったの、色男1、色男2」

「こんなところで何してたんです?」

「お宝探して歩いてたら海に落っこちて、魔物と遊んでたのじゃ」

「よかったな、そのまま栄養分にされなくて」

海のど真ん中に居るため下ろすことも出来ず、一行はパティを乗せたまま航海を続けるしかなかった。
直後、船の先頭から悲鳴が上がる。

「なんだ!?」

「ちぃっ! まだ一匹いやがったか………!」

すぐに撃退したがトクナガは負傷しており、エステリーゼが治癒術をかける。
傷は塞がったものの、操縦を続けるのは難しそうだった。

「困ったわね……あなたたちの中で誰か操船できる人……いるわけないわよね」

「うちがやれるのじゃ」

「パティが?」

「世界を旅する者、船の操縦くらいできないと笑われるのじゃ」

おそらく最年少だろう少女に舵を任せるのは些か不安だが、他に操れる者が居るわけでもなく。
皆はパティが小柄な体格とほぼ同じサイズの舵を握るのを皆はしぶしぶ黙認した。
目次へ戻る | TOPへ戻る