05.花の下に戦士は集い
しかしそんな不安も、進むにつれ解消されていった。パティは言葉通り見事な腕前を発揮し、船は危なげなく大海原を進んでいく。
「凄いな、どこで覚えたんだ?」
「これぐらい当然なのじゃ、アルノルドも覚えておいた方がいいぞ。なんなら、うちが教えてやるのじゃ」
「また機会があればな。……それより、何か霧が深くなってきてないか?」
突然周囲が白いもやに覆われ、視界が急激に悪くなる。
数メートル先すら見えない状態のまま更に進むと、進路を確認していたカロルが何かに気付いた。
「前! 前!」
「これは……ぶつかるわね」
現れたのはフィエルティア号の倍はありそうな大きさの難破船だった。
船は大きな音を立て急停止し、皆がそれを見上げる。
マストは破れ木材はくすみ、ギィギィと嫌な音を立てていた。どうしてこの状態で浮かんでいられるのか、その不気味な雰囲気に一部メンバーの気分が降下を始める。
「古い船ね。見たことない型だわ……」
「アーセルム号……って、読むのかしら」
横に並ぶ形で止まったフィエルティア号に、アーセルム号からタラップが降ろされる。
無人の筈の船からもたらされたそれに、リタやカロルは顔を青くした。
「ま、まるで……呼んでるみたい……」
「バ、バカなこと言わないで! フィエルティア号出して!」
「むー、ダメじゃの。なぜか駆動魔導器がうんともすんとも言わないのじゃ」
「え?」
すごい勢いで駆動魔導器を調べたリタは、パティの言葉に嘘がないことを知り震え上がった。
「うひひひ、お化けの呪いってか?」
「いい歳して何言ってるんですか……」
「入ってみない? 面白そうよ。こういうの好きだわ、私」
「何言ってんの……!」
「原因わかんないしな、行くしかないだろ」
「ちょっと、フィエルティア号をほっていくつもり!?」
「んじゃ、四人が探索に出て、残りが見張りでどうだ? 行くのはオレと、ラピードは行くよな」
飼い主の誘いに一鳴きして応えたラピードに、ユーリは「後は誰だ」と面々を見る。
リタとカロルは全力で首を振り、反対にジュディスは行く気満々で船を眺め、他はユーリに任せると言った。
「んじゃ、行きたがってるみたいだしジュディと……エステルだな」
指名された2人はユーリの側に移動する。アルノルドはエステリーゼから離れる訳にはいかないからと同行する気だったのだが、
「明らかに戦力が偏るじゃない!」
と、カウフマンに掴まれ引きずり戻された。
「エステルは俺が見とくから、あんたは残っといてやってくれ。戦えるっつってもリタやカロルはあの調子だし、おっさん一人じゃ守りきれねぇだろ」
「いやでも……」
「大丈夫です、見たところ人気もないですし……リタ達をお願いしますね」
困るアルノルドを無視し、三人と一匹はアーセルム号に乗り込んでいった。
追いかけようにもカウフマンの鋭い眼光に縛られ踏み出すことが出来ない。
「災難だねぇ青年。ま、人助けだと思ってさ」
「こっちは仕事なんですよ……、何かあったら俺がどやされるんですから」
「でももう行っちゃったわよ?」
「分かってますよ……」
とは言え、気になるものは気になるもので。
落ち着きなく甲板を徘徊していると、アーセルム号から妙な音が聞こえた。
「おい、ちょっとまさか……!」
「倒れる……!」
折れたマストが木片を飛び散らせながら、船体に激突する。
フィエルティア号と衝突した時よりも大きな音と埃を上げて倒れたマストに、辺りは静まり返った。
「ッ……、何があったの? 突然マストが倒れるなんて……」
「ビックリした……、みんな大丈夫?」
「こっちはOKよ。んだども、先に行った奴らはどうだろうなぁ? ……って、ちょっと!?」
ダッシュでアーセルム号に突進したアルノルドは、道を阻む鉄格子に拳を打ち付けた。
やっぱり着いて行けば良かったと悔やんでも悔やみきれず唇を噛む。
「こらこら、単独行動は流石に不味いっての!」
「そんなことよりエステリーゼ様が……!」
「落ち着きなさいって、こっちまで取り乱してどーすんの。あっちにはユーリもジュディスちゃんも居るんだから大丈夫よ。……まぁでも、心配は心配だぁな。様子見がてら行くか?」
「ちょっとー!? 船の護衛はどうするのよ?」
「ごめんなさい。でもボクらだけじゃ、船守れないもの。レイヴンもアルノルドも行くんでしょ?」
「ああ、悪いな」
「なら、うちも着いていくのじゃ!」
ててて、とタラップを渡り隣に立ったパティに、アルノルドは止めといた方がいいんじゃないかと言う。
だが本人は聞く耳持たず。
「それしきの言葉では、激しく燃える冒険心の炎を消すことはできないのじゃ」
「つまり、船の中を探索したいと、そーいうこと?」
「あのな、俺は遊びで行くわけじゃないぞ……」
「遊びではないのじゃ、お宝を探すことがうちの使命なのじゃ」
勝手に奥へと歩き出すパティに、説得を諦めて皆は中に入った。
照明もなく、外からの微量の光だけがかろうじて船内を照らしている。
カロルはぴったりとアルノルド達に張り付くように歩き、リタもはぐれまいと歩調を合わせ、なるべく周りを見ないようにと俯きながら無言で歩いていた。
パティは平気な様で、目を凝らして価値のありそうなものを探している。
「アルちゃんは怖くないの?」
「アル……なんですって?」
「いや、アルノルドって呼びにくいじゃない」
「……何でもいいですけど、ちゃんは止めて貰えますか」
良いとは言えないあだ名で呼ばれても、アルノルドは大して気にもせず足早に先へ進む。今はレイヴンの調子に合わせる余裕は無かった。
早くエステリーゼの無事を確認しなければと焦る気持ちのままに手当たり次第ドアを開けていく。
倒れたマストの上を通り、尚も続くドアの列にうんざりしながらも順に確認していくと、ある部屋の中から魔物が飛び出してきた。
平常心を失っていたアルノルドは反応出来ず、魔物の爪が顔や腕の皮膚を抉る。
鞘から剣を抜き魔物を切り捨てて、アルノルドは膝をついた。
「焦りすぎだってば」
「……っ、これくらい問題ありません」
血を拭って痛みに軋む体を無理矢理前へと持っていく。
するとレイヴンは軽く弓を引き、こちらに向けて放った。
矢は淡い光を放ちながら体に刺さり、というか吸収されたように消えて、痛みがほんの少し和らぐ。
「……? 何ですか今の」
「一応治癒術なんだけどね……なんか効きが悪いみたい?」
「そいつ、そういう体質なのよ。回復ならグミあげた方がいいわよ」
「はっはー……、不便だねぇ」
赤色のグミを口に含んで、また借りが出来たと苦い思いをしつつもアルノルドは捜索を再開した。