05.花の下に戦士は集い

「おいおい、お前らも来ちまったのかよ」

探し始めて数十分。やっとユーリ達と再会し、エステリーゼに怪我がないのを見て、アルノルドは大きく息を吐いた。

「しかも、何連れてきてんだよ」

「勝手についてきたんだよ〜」

「ユーリに会いに来たのじゃ。海辺のシーラカンスより度胸あること、折り紙つきなのじゃ」

「度胸があるのは知ってるよ。でなきゃ、あの業突くじじぃの屋敷に1人で乗り込まねぇだろ。船の方は大丈夫なのかよ……」

「俺達が早く戻れば問題ないんじゃないかな。リタやカロル君も早く帰りたがってるし」

「あああたしは大丈夫よ! でっでも、船が心配だから、さっさと出るわよ!」

半回転して出口に向かおうとしたリタの目の前で、ひとりでにドアが閉じる。リタはドアノブに手をかけようとした姿勢のままフリーズした。

「幽霊の仕業じゃな」

「ウ、ウソでしょ……!?」

「きっとこの船の悪霊たちが、わたしたちを仲間入りさせようと船底で相談してるんです……」

本好きだからか想像の得意なエステリーゼがどこか楽しそうに話す。お城育ちのお姫様は恐怖心より好奇心のほうが強いらしい。

仕方なく別の出口を探していると、他の部屋よりも広い空間に出た。

遺された衣類や小物から推測すると船長室だろうか。先頭を歩いていたカロルは窓際にあった立派な椅子に座る白骨を見て短い悲鳴を上げた。
その遺骨の近くにあった日誌をユーリが読み上げる。

「アスール暦232年、ブルエールの月13?」

「アスール暦もブルエールの月も、帝国ができる前の暦ですね」

「千年以上も昔、か……」

「船が漂流して四十と五日、水も食糧もとうに尽きた。船員も次々と飢えに倒れる。しかし私は逝けない、ヨームゲンの街に、澄明の刻晶を届けなくては……。魔物を退ける力を持つ澄明の刻晶があれば、街は助かる。澄明の刻晶を例の紅の小箱に収めた。ユイファンにもらった大切な箱だ。彼女にもう少しで会える、みんなも救える。=c…でも結局、この人は街に帰れず、ここで亡くなってしまわれたんですね……」

感傷に浸るエステリーゼに、千年も昔の話だとリタが言う。
アルノルドは日誌に出てきた澄明の刻晶が気になり、紅の小箱はないのかと目で探した。

「ボク、ヨームゲンなんて街、聞いたことないなあ……」

「これがほんとに千年前の記録なら、街だって残ってるかどうか」

「ま、そうだよな。……澄明の刻晶ってのは?」

「知らない」

「……魔物を退ける力ねえ」

「結界みたいなものじゃないかしら?」

白骨の膝元にそれらしきものを見つけ、アルノルドが近付く。
大事そうに抱えられたそれは記述の通りの箱で、話し合っている皆を呼んだ。

「これじゃないか?」

「確かに紅の小箱じゃの」

中身に興味はあるのだろうが、箱を取るには骨をどけなければならない。それが嫌らしいリタはレイヴンに取らせようとするが彼も拒絶。
言い争う皆を置いてあっさりと箱を取ったのはジュディスだった。

「うひゃぁ、ジュディスちゃん大胆だねぇ」

「呪われちゃうかしら」

無理にもぎ取ったせいで箱と一緒に取れてしまった腕の骨をためらいなく掴み引き剥がすと、箱だけを渡してくれた。なんとも男前な女性だ。

「……ん、あれ? 開かないな」

「どれどれ? ……ありゃ、ほんとだ」

「鍵がかかってるんでしょうか?」

千年も経っているのだから、鍵なんて錆びてしまっているのではないかと力業で開けようとすると、カロルに服を引っ張られる。

「どうした? カロル君」

「あ、あ、あ、あ、あれ……」

震える指で示した先には、全身が映るぐらいの鏡があった。だがそこに映っていたのは自分達ではなく、髑髏の騎士。
これには流石に驚いて小箱を落とした。

「逆のようね」

「なにが!?」

「魔物を引き寄せてるってこと」

あれを魔物と言っていいのだろうか。鏡から出てくるその様はホラーでしかない。

「来ます!」

もし本当に幽霊の類いなら物理攻撃は効かないかもしれないなと思いながらアルノルドが剣を振るうと、実体はあるらしく白い骨に傷が付く。

ならばこちらのものだといつもの調子で攻撃していくと、髑髏は赤い光を放ちながら鏡の中へと帰っていった。

「逃げるのじゃ」

「別にあの化け物と白黒つけなきゃいけないこともないだろ」

「勘弁してよ、もう」

「じゃあ返してあげる? あの人に」

「返した方がいいって!」

それには賛成だと、アルノルドは壊れていないことを確かめてから箱を元の場所に戻そうとするが、エステリーゼはこれをヨームゲンに届けてあげたいと言い出した。またこのパターンか。

「澄明の刻晶届けをギルドの仕事に加えてもらえないでしょうか?」

「だめだよエステル、基本的にボクたちみたいなちっちゃなギルドは、ひとつの仕事を完了するまで次の仕事は受けないんだ」

「ひとつひとつしっかり仕事していくのが、ギルドの信頼に繋がるからなぁ」

「あら? またその娘の宛てもない話で、ギルドが右往左往するの?」

ジュディスの直球な言い方にリタが怒る。
確かに言い方はきついかもしれないが、アルノルドはジュディスの言っていることは尤もではないかと思った。
ただそれを言ってリタに突っかかられるのは避けたいので、黙したまま見守るだけなのだが。

「ごめんなさいジュディス。でも、この人の思いを届けてあげたい……待っている人に」

「待ってる人っつっても、千年も前の話なんだよなあ」

「さすがに千年は待ちくたびれるのじゃ」

「そういうことじゃあないと思うんだけど……」

そもそも千年前の人間なら確実に死んでいるだろうし、今その街があったとしても、当時とは環境が変わっているかもしれない。寧ろその可能性のほうが高いだろう。皆がそう思い、エステリーゼも口をつぐんだ。

だがリタは違った。

「あたしが探す」

「リタ……」

「フェロー探しとエステルの護衛、あんたたちはあんたたちの仕事やりゃいいでしょ。あたしは勝手にやる」

「じゃ、ボクも付き合うよ!」

「暇なら、俺も付き合ってもいいぜ」

「ちょ、ちょっと、あんたたちは仕事やってりゃいいのよ!!」

最初からその気でしたといわんばかりに次々と皆が名乗り出る。

これで結局また仕事が増えたなと、アルノルドは諦め半分で箱の埃を払ってエステリーゼに渡した。自分にこの流れを止めることが出来ないのはこの数日の間で学んでいる。

「すみません、アルノルド」

「……まあ、もう慣れましたから」

「若人は元気があって良いねぇ」

「みんな仲がよいのじゃ、リタ姐いいのう」

「あ、あたしは喜んでないわよ」

ちょうどその時、フィエルティア号から駆動魔導器が直ったことを知らせる発煙筒が使われたのが部屋の窓から見えた。

また閉じ込められていないかと不安を抱きながら外へ続く扉を引くと、音を立てながらもすんなりと開く。

「あれ? さっきボクがここ調べた時、鍵かかってたのに……?」

「え、そうなのか?」

「……ははあ、呪いが解けたな」

「そ、そんなわけないでしょ!? バカ言ってないで行くわよ!」

怯えるリタに笑いながら二階の甲板に出る。
ここから降りられれば直ぐに戻れるが、足場も何もない。

仕方なく迂回しようとした一行に、ジュディスはどこからか梯子を取り出した。

「そ、それどうしたの?」

「たぶんこんなこともあるかと思って、この船の中から持ってきたの」

用意周到もそこまでいくと怖いが、アルノルドは感謝して渡された梯子を降ろす。
そして我先にと足をかけ落ちそうになるカロルを抱えて着地し、エステリーゼ達が降りてくるのを待った。

「船の駆動魔導器が直ったわよ」

「みたいですね、お疲れさまです。何が原因だったんですか?」

「それが、急に動き出したのよね。訳がわからないわ」

「やっぱり、呪いってやつ?」

「……まだそんなこと言ってるんですか?」

「だってこんなに偶然が重なることってないでしょ。アルちゃんも見たじゃない、数々の奇怪な現象を」

だからその呼び方はやめて下さいよと睨むと、エステリーゼ達が話に食いついてきた。

言いやすくていいだの親しみがあるだので、皆がレイヴンにならってアルと呼び始めたところで、アルノルドは反対するのをやめて「好きにして下さい」と肩を落とした。
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