05.花の下に戦士は集い

幽霊船とおさらばし、また通常運転に戻った船はデズエール大陸の近くまで来ていた。目的地であるノードポリカの姿が次第にはっきりと見えてくる。

「あれがノードポリカね」

「うん、別名闘技場都市!」

「かつては罪人同士を戦わせ、貴族たちの熱狂と狂乱を呼んだ。現在はギルド、戦士の殿堂が闘技場の運営権を持ち、市民の娯楽の場となっている、です」

「戦士の殿堂はね、ドンのギルド、天を射る矢にも匹敵する大きなギルドで……」

カロルの説明の途中で、ノードポリカから花火が上がった。
暗い夜空に浮かび上がる色とりどりの炎に皆が見とれる。

「あら、綺麗」

「毎日がお祭り騒ぎってとこか、こりゃいいわ」

「花火にお祭りにおでん、とってもマッチなのじゃ」

実物を見たことが無かったアルノルドは、そんな周りの話し声も右から左になるほどにその光景に魅入って、

「おーい聞いてる? そんなに花火珍しかったのね」

「いっ!?」

すぐ横から声をかけてきたレイヴンに心底吃驚してしまい、そのリアクションを隠そうと咄嗟に相手を引っ叩いてしまった。






「ご苦労様、どうもね」

「ううん、こちらこそ。大助かりだよ」

長旅を終えノードポリカに入港した一行は、カウフマン達と別れの挨拶をしていた。
レイヴンは叩かれた頬をさすっており、アルノルドは数回目の謝罪を小声で伝える。

「何も叩かなくてもいいじゃない……」

「だから悪気は無かったんですって……」

「あ、こ、これはカウフマンさん。い、いつも、お、お世話になって、い、います」

波止場にやってきた挙動不審の男に話しかけられ、皆の視線がそちらを向く。

「またどこかの遺跡発掘? 首領自ら赴くなんて、いつもながら感心するわ」

「い、遺跡発掘は、わ、わたしの生き甲斐、ですから」

「あれ、誰……?」

「遺構の門の首領、ラーギィよ」

「遺構の門? 何か覚えがある……」

「そりゃあ、帝国魔導士の遺跡発掘をお手伝いしてるギルドだし」

レイヴンの説明にリタは通りで、と納得する。
首領にしては頼りない男は仲間を待たせてあるからとすぐに去っていった。リタが訝しげかにその背を見つめる。

「ねぇ、前に兵装魔導器を売ってるギルドの話をしてたわよね」

「海凶の爪か?」

「そこに魔導器の横流ししてんのあいつらじゃない?」

「遺構の門は完全に白よ」

「なんでそう言いきれるんだ?」

「温厚で、まじめに、こつこつと。それが売りのギルドだからなぁ」

それだけでは疑いが晴れないのか、カウフマンやレイヴンの言葉を聞いてもリタは表情が険しいままだった。
それはアルノルドも同じで、どれだけ無害そうに見えようが可能性はない訳ではないと二人で考える。

だがアルノルドとしては、ここ数日の騒動のせいもあり、今一番疑わしきは騎士団だった。
帝都に戻ったら調べてみようかと計画をたてて、そこで気づく。

(……ユーリ君じゃないんだから……)

そんな不利益なことをしてどうするつもりだと、すぐにそのプランを廃棄した。
騎士団の動きが怪しいのは今に始まったことじゃないじゃないか。帝都に居た頃だって、綺麗な面ばかりを見てきた訳じゃない。

「じゃ、もう行くわね。フィエルティア号、大事に使ってあげて。駆動魔導器の交換とトクナガの移送は手配しておくわ。凛々の明星、がんばってね」

「はい!」

カロルは威勢良く返事をし、カウフマンは夜の街へ消えていく。
パティも次の宝を探しに行くからと別れを宣言した。夜中に子供1人で危ないとはもう言わなくても大丈夫だろう。

「んじゃ、こっちはこっちの仕事してきますかね」

「手紙、届けるのよね? ベリウスに」

「ボクたちも行ってみようよ」

「そうだな。フェローの事、なんか知ってそうだしな。挨拶がてらおっさんをダシに会ってみようぜ」

「だだ漏れで聞こえてるんだが……」

ユーリの可愛いげのない発言にレイヴンが突っ込む。話はそのままベリウスに会いに行くことになったようで、どこに行けば会えるだのをカロルが説明。

自分は関わらない方が良さそうだと離脱しようとしたアルノルドは、レイヴンに腕を捕まれた。

「どこ行くの」

「……皆さんはベリウスさんに会いに行くんでしょう、俺は無理です」

なんで? と聞きたそうな相手に騎士団服を指す。
ドンの時は特例としても、騎士がそう易々とギルドの前に現れるのはまずいだろう。

「んなことなら、服着替えればいいじゃない」

「そこまでして会いに行きたいとも思いませんよ……」

「嬢ちゃんにもしものことがあっても知らないよ? それに此所はギルドの治める街なんだから、その格好で彷徨くのはやめといた方がいーんでないの」

それは、まあ、一理あるかもしれないが。
だがしかし何故自分をギルドの人間と関わらせようとするのか。本当にただの親切か、それとも。

「……帝国にギルドの情報が漏洩しても知りませんよ」

「アルちゃんはそんな人じゃないでしょ」

よくぞここまで胸糞悪い台詞を的確に喋れるな。
アルノルドは「後で呼びにいくからねー」というレイヴンを無視して、着替える為に宿へと向かった。






どうせ今日はここに泊まることになるだろうからと人数分の部屋を確保して、アルノルドはそのうちの一室に少ない荷物を下ろした。堅苦しい団服を脱ぎ捨てて、適当な服に身を包む。

何がそんな人じゃない≠セ、ふざけるなよ。
エステリーゼやフレンにも似たようなことは言われたが、あれはただ純粋に無知なだけだ。

あの男はそうじゃない。きっと自分がエステリーゼ達とは違うと分かっていながら、ああ言ったのだ。
どうせ信頼などしていない癖に。あれで釘でも刺したつもりか? 裏切る訳がないと言えば、俺がその通り動くとでも思っているのか。

アルノルドは衝動のままに通信機を掴み、騎士団本部に繋げようとして――現段階では大して報告するようなこともないと気付き、そのまま荷物の中に放り投げた。

ああ、もう、なんだってんだ。
胸のもやつきだけが残って、それをどうすることも出来ずベッドに伏せる。

あのおっさん、早く何処かへ消えてくれないだろうか。
目的はベリウスに手紙を届けることだったのだし、運が良ければここで離れられるかもしれないな。

そう期待して、過去こういう期待をした時は大抵裏切られたなぁと思いだし、どうせ無理だろうなと期待を打ち消した。
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