05.花の下に戦士は集い

「ユーリ! がんばってくださーい!」

「ユーリならきっと大丈夫だよ」

「ケガしないように、ほどほどに〜」

「出たかったわ、私も」

「まだ言ってるし」

人々の声援で空気が震える。舞台を囲むように広がる座席は人で埋まり、皆今か今かと戦いが始まるのを待っている。

「そう言えばユーリ君、指名手配はまだ解けてないんですけどね……、こんなに目立って大丈夫かな」

「大丈夫大丈夫、こんなとこで取っ捕まえようとする人間はおらんよ。何か問題起こしたならともかくね」

「あいつに限ってそんなヘマしないでしょ」

「さあ、本日の一回戦! 闘技場のニューフェイス! フレッシュギルド、凛々の明星のユ〜〜リ・ロ〜ウェ〜〜ル!」

司会のアナウンスで会場は一気に沸き立ち、お互いの声がかき消される。
対戦相手は百戦錬磨の男、とのことだったが、ユーリは容易くそれを退かせた。会場は大番狂わせだと更に盛り上がる。

「心配するまでもなかったね……」

「ま、予想はついてたわ」

「それでも大したもんだよ」

そのまま順調に二回戦、三回戦と勝ち進み、あっという間に決勝へと駒を進めたユーリに、客席から歓声が上がる。

そして決勝戦の対戦相手が、ユーリの正面の入り口から入ってきた。

街を乗っ取ろうとしている悪の頂点、その男を見て、ラピードが吠えた。

「まだまだ盛り上がっていくぜぃ! そう! 次こそメインイベント! 紹介しよう、大会史上、無敵の現闘技場チャンピオン!」

「え……!?」

「ど、どういうこと?」

場にそぐわない騎士の鎧、風に靡く金色の髪。
アルノルド達は唖然とした。

「甘いマスクに鋭い眼光! フレ〜〜ン・シ〜〜〜フォ!」

「……なにやってんだアイツ?」

ヘリオードでの後始末を押し付けてきた騎士団仲間の青年が、青いマントをはためかせユーリと相対していた。

「あいつ、ユーリの知り合いじゃない」

「あのフレン……ですよね? あれ? でもチャンピオンは闘技場を……あれ?」

「あら、面白いことになってきたわね」

「……ハメられましたかね?」

「みたいね」

ということは。
アルノルドは目を凝らしてひしめき合う客の中からラーギィを探す。だがこの人数から1人を見つけるのは簡単なことではない。

何が目的かはわからないが、流石に勘違いというわけでも無い筈だ。
舞台を見るとユーリとフレンが刃を交わしながら何かを話している。

どうする、このまま二人が戦っていても埒があかない。かと言って何千もの客の前で試合を放棄するわけにもいかない。彼らだって金を払ってこの試合を見ているのだ。

その時、上空から赤髪の男が舞台に降り立った。

「あっ、あれは……!?」

「ユーリ! オレに殺されるために生き延びた男よ! 感激するぜ!」

いつか船の上でも会った、ユーリがしつこく付きまとわれているという男が、異様な形をした左手を掲げている。

「うわっ、あれ何!?」

「魔導器よ! あんな使い方するなんて……!」

「なんか気持ち悪くて、動悸がするわ」

「あの魔導器……!」

どうしようかと困惑していると、ジュディスは席を離れ舞台へと駆け出した。
こうなっては試合も何も無いと、仕方なくアルノルドたちも舞台へ降りる。

「どうだ、この腕は? お前のせいだ、お前のためだ! くくくく! さぁ、この腕をぶちこんでやるぜ! ユーリ!」

「しつこいと嫌われるぜ!」

暴れるように襲いかかってきた男を全員で迎撃する。
だがそれで終わりではなく、両膝をついた男の左腕が怪しい光を帯び始めた。

「むっ……ぐゎぁっ!!」

「制御しきれてない! あんな無茶な使い方するから!」

「魔導器風情がオレに逆らう気か!」

魔導器から光の弾が放たれ、地面に跳弾して爆発する。そのせいで状況は更に悪化し、舞台が土煙に覆われ、どこからか魔物がなだれ込んできた。

それがデモンストレーションではないことを察した客は次々と逃げ出し、歓声は悲鳴に変わる。

「ま、魔物!」

「どうしてこんなところに!?」

「見世物のために捕まえてあった魔物だ! 多分、今ので魔物を閉じ込めていた結界魔導器が壊れたんだ!」

「フレン、腕試しもいいが、お前仕事はどうした?」

「……? アルノルド隊長、ですか?」

「? 他に誰に見える?」

「いえ、その、団服以外の姿を見たことが無かったので」

ああそういえば着替えたんだったと、今の自分の姿を確認する。
前にカロルにも言われたが、服が違うだけでそれほど雰囲気が違うのだろうか。自分では分からないが。

男は混乱の中、腕を押さえつつ撤退する。
ジュディスはそれを追おうとするが、魔物に吹き飛ばされたエステリーゼがその道を阻んだ。

「エステリーゼ様!」

「ちっ、魔物の掃除が先だな」

アルノルドはエステリーゼを舞台の端に避難させ、それを目でこまめに確認しながら敵を斬り倒す。

敵の数はなかなか減らず、隣にいたリタが詠唱を開始すると、彼女の体が先ほどの男の左腕と同様に光りだし、突然魔術が暴発した。
本人も訳がわからないといった様子で皆を見る。

「ちょっと……どういうこと!?」

「この箱のせい……?」

幽霊船から持ち帰った赤い小箱をエステリーゼが取り出す。
すると煙の中から飛び出してきたラーギィがそれを俊足で奪い去った。

「あいつ!」

「狙いはあれか!?」

逃がすまいと走りかけて、すぐにエステリーゼのことと今の自分の責務を思い出して踏み止まる。
ジュディスとラピードがそんなアルノルドを横をすり抜けラーギィを追いかけた。

「どったの? アルちゃん」

「……いえ、エステリーゼ様は……」

「嬢ちゃんはあっち。この場はユーリのお友達に任せて大丈夫みたいよ」

レイヴンがユーリとリタの間で戦うエステリーゼを、司会のマイクを借りて部下に指示を出すフレンを順に指差す。

「隊長らしくなったもんだな」

「さっさと行かないと見失っちゃうわよー」

逃げ惑う観客の合間を縫って闘技場の出口まで行くと、ジュディスが戻ってきた。ラピードはまだ追いかけてくれているらしい。

「それにしても、どうなってるの? なんでラーギィさんが」

「フレンの任務を妨害するために、俺達をけしかけたんだろ」

「その任務の内容について、フレンは何か言ってたか?」

「さあな。でもラーギィの思惑を邪魔するものだったってのは間違いなさそうだ」

「でも、あの温厚そうなラーギィさんが……」

「箱を奪ってった時のあいつは温厚なんてもんじゃなかったわよ」

遺構の門は表向きの顔なんじゃないかだの、そうまでして奪う澄明の刻晶とは一体なんなのかだの、それぞれが思った事を言い合う。
これではリタが言っていたように、海凶の爪に武器を流しているのは奴なのかもしれない。

ともかく仮定の話をするよりも先ずは捕まえるのが先決だと、一行はまた走り出す。
街の出口に着くとタイミングよくラピードが戻ってきた。その口にはラーギィの服の切れ端。

「こいつがあれば、匂いで追えるな」

「ワン!」

「あの箱を取り返さなきゃ!」

「それもあるけどな」

「ギルドは裏切りを許さない」

なんにせよ一発くらい殴らせていただきたいものだと、賃金も出ないのに無駄に仕事を増やされたアルノルドは服についた埃を払う。
西の山脈は旅支度のないまま通り抜けるのが困難らしく、今なら追いつける、とのことだった。

エステリーゼは闘技場が気になるようだったが、結局は皆についていくことに決めたため、必然的にアルノルドもラーギィの後を追うこととなった。
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