05.花の下に戦士は集い

西の洞窟にやってきた一行は、その近辺を調べ回ってから薄暗い道に足を踏み入れた。

「ここを進んだんでしょうか」

「これを抜けて山の向こうに逃げたってこと?」

「でも、ここはカドスの喉笛って言われてる洞窟で、プテロプスって強い魔物が棲んでて危険なとこなんだって。前にナンが言ってた」

「それを知らなくて進んでいったのかしら」

ラピードが何かに気付き、一鳴きしてから駆け出す。
物陰に体を滑り込ませると、潜んでいたラーギィを引っ張り出してきた。相変わらず優秀な犬だ。

「あわわわ……は、はなして、く、ください」

「隠れてオレたちをやり過ごすつもりだったらしいな」

「さぁて、じっくり話を聞かせてもらわないとな」

「俺たちを闘技場に立たせてどうするつもりだったんだ」

「とにかく、箱を返しなさい!」

追い詰められ捲し立てられ、窮地に立ったラーギィは、仕方ないと言って降参する素振りを見せた。
しかし赤眼の男たちが、二派の間に立ちふさがる。海凶の爪だ。

「遺構の門と海凶の爪はつながってたってところか」

「手伝うふりして、研究所のものかすめ取って横流ししてたのね……。許せない……あいつら……」

「正しいギルドで有名な遺構の門がそんな悪さするなんて……。あ、待ってジュディス! 危ないってば」

敵を退けた時には姿を消していたラーギィを1人追いかけようとするジュディスをカロルが止める。
ヤバい魔物が居るから先に進むのは考えたほうがいいだの、でも逃がすわけにはいかないだので意見の割れる一行。アルノルドはエステリーゼについていくしかないので口を挟むことはせず、下へと続く道を眺めていた。

「……で、エステリーゼ様は行くんですね?」

「はい、アルノルドはどうします?」

「勿論行きますよ」

口論の結果、皆仲良く危険を侵しにいくことで決まり、ノードポリカを離れたくはないと言っていたレイヴンも何故か隣を歩いていた。
離れられると思ったのにと小さく肩を落とすアルノルドに、レイヴンは口を尖らせる。

「眠ってるときはかわいーのに」

「はい?」

「うわあっ! ……ってパティ?」

仰々しく驚いたカロルの視線の先には、崖からよじ登ってきたパティが居た。
またこんなところで何をしているのかと聞けば、やはり飽きもせずお宝を探しているらしい。

「ねえ、そのお宝ってどんなものなの?」

「聞いて驚け、それは麗しの星なのじゃ!」

聞いたことのない単語に皆が物知りなエステリーゼを見るが、珍しく彼女は言葉を濁らせた。
エステリーゼでも知らないとなると、かなりの珍品なのだろう。

その宝についてパティが話していると、カロルが少し聞きにくそうにしながら口を開いた。

「……ねえ、ノードポリカで聞いたパティがアイフリードの孫って……本当?」

「え? なんだ、それ」

初耳だと目を丸くすると、カロル達がその話を聞いたのは自分が眠ってしまっていた時のことらしい。情けない出来事を掘り返されてアルノルドは落ち込んだ。

「盟友に孫がいたと知ったら、ドンどんな顔するかね」

「そう言えば、ドンとアイフリードはユニオン結成以来のお友達なんでしたよね」

「でもさ……嘘でしょ? アイフリードの孫なんて」

「本当、なのじゃ!……たぶん」

「多分……? どういうことです?」

「たぶんというのは推測のことなのじゃ」

そうじゃないだろう。ズレた回答をするパティに、エステリーゼの言葉をリタが丁寧に言い直す。

「エステルは、なんで自分のおじいさんのことを推測で話してるか、って聞いてるのよ」

「あう。それはうちが記憶喪失だから、なのじゃ」

「記憶……」

「喪失……?」

これまたとんでもない話だと、何でもないことのように話すパティに皆が驚く。
この歳で記憶喪失とは、一体過去に何があったのやら。

「じゃあ、アイフリードの孫ってのは、本当かどうかわからないってこと?」

「絶対、本当なのじゃ! たぶん……」

「ああっもお! 絶対なのか多分なのかどっちよ!」

「つまり、記憶を取り戻すために、じいさんかもしれないアイフリードに会いたい。そのアイフリードを探し出すために麗しの星っていうお宝を探して回っている、ってことか?」

「のじゃ、いつの日か祖父ちゃんに会えるのじゃ」

「若いのに大変だな」

「そうでもないのじゃ、大海原を自由に旅するのも、なかなかに良いものなのじゃ」

喜色満面の笑みで答えるパティ。そうして話し込んでいた皆に、ジュディスが小箱はいいのかと言った。
慌てて駆け出す皆の後ろを、何故かパティがついてくる。

「こらパティちゃん、ここから先は流石に危ないぞ」

「うちもこっちへ行くつもりだったのじゃ」

本当なのかと疑いながらもついてくるのをやめないパティに、仕方なくそのまま奥へと進む。
途中他よりもやけに明るい道を挟んで、その向こうにラーギィを見つけた。

ラピードが吠え、その声に怯んで転んだ相手に飛びかかろうとするが、何故かその光の前で止まる。

「何なのじゃ、あれは」

「エアル……?」

「ケーブ・モックのと同じだわ! ここもエアルクレーネなの?」

リタがいち早くその正体に気付き、皆に近付かないようにと促す。
確かに前に見たものと同じ、ここを通るのはエステリーゼ達には辛いだろう。だが自分なら。

「エステリーゼ様はここで待っていて下さい、あいつを連れてきます」

「そんな、危ないです!」

「でもまた逃がすことになりますよ」

「確かにあんたなら大丈夫かもしれないわね。でも、さすがに無害って訳じゃないんだから、調子乗らない方がいいわよ」

「わかってる」

皆が見守るなか、アルノルドは一歩を踏み出した。
するとそこにエアルが集まり、通ってきた道のエアルが消えていく。

「おりょ? なんかさっきより暗くなってなぁい?」

「……? なに? エアルが……」

「消えて……、ううん、吸い込まれてます……?」

「……あの人、もしかして……」

本人はそれに気づかないまま一気にラーギィのところまで走ろうとするが、途中で大きく地面が揺れた。

「っと、なんだ!?」

「こ、この揺れはいったい……」

消えかかっていたエアルは一気にその量を増し、光の色が緑から赤に変色する。
かと思えば今度は目の前に巨大な竜が現れた。

「あれがカロルの言ってた魔物か!?」

「ち、違う……あんな魔物、見たことない……」

「アル! 一度戻ってきて下さい、そこは危ないです!」

「わかりまし……?」

た、という声と共に視界が歪みバランスを崩す。
振動のせいではない、貧血のような症状が突然体を襲う。

「アル!?」

「あ、ちょっとおっさん!?」

立っていられないほどの眩みに膝を折り地面に手をつく。それと同時に聞こえる竜の咆哮。

これはちょっと、まずいかもしれない。
なんとか立ち上がろうとするアルノルドの体をレイヴンが掴んだ。

「レ、イヴンさん?」

濃度が高いと言っているのになにやってるんだと言うやいなや、二人を包んでいた赤い光は竜の口に吸い込まれていった。
また暗くなった洞窟に再び竜の咆哮が響く。

まるで金縛りにあったかのように身を凍らせた一行を一瞥すると、竜はなにをするでもなく静かに闇へ帰っていった。

「あ〜吃驚した。もう駄目かと思ったわよ。大丈夫? 立てないかね」

「……っ、大丈夫、です」

支えられている体に力を入れて、手を借りつつも立ち上がる。
まだ視界は揺れていたが、歩けない程ではないだろう。

「……どうも。それより、何で来たんですか。危ないってリタも言ってたでしょう」

「いきなりふらついて座り込む青年見たら放っておけないでしょ」

「アル! 大丈夫!?」

「ああ。……てっ、コラ、こっち来たら……!」

「大丈夫よ、このくらいの濃度なら害はないわ」

エアルの吹き出た場所を観察しながらリタが言う。
胸に飛び込んできたカロルと駆け寄ってきたエステリーゼにやたらと心配され、長らく誰かに心配などされたことのないアルノルドは対応に困った。

「カロル君、そんなに心配しなくても、いきなり死体になったりはしないから」

「そういう問題じゃないよ! 仲間が具合悪そうだったら誰だって心配するでしょ!?」

「……そういうもんか?」

「そういうもんなの!」

そんなことよりエステリーゼ様に怪我はないかと聞くと、「私の心配より自分の心配をして下さい!」と怒鳴られた。
どうしたもんかとジュディスを見るが、相手は楽しそうに微笑んでいるだけだった。
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