06.熱に魘され五里霧中

「久しぶりによく寝た〜。ふわぁあっ……」

「あんた寝すぎ」

日付が変わり、夜の涼しさから一変また蒸し暑さが戻った街の出口で、レイヴンが大きなあくびをする。

「……あれ? 騎士団が少なくなってる…?」

「ああ、フレンたちならノードポリカに戻っていったぞ」

宿を飛び出した後運良くエステリーゼと鉢合わせたおかげで余計な体力を使わずに済んだアルノルドは、礼も聞かずに出ていったらしいフレンに少し申し訳なく思った。

「一声かけてくれればお礼くらいはしたんだがな」

「何か急ぎの用事でもあったのかな?」

「前に魔物が逃げ出したりして大変だったでしょ。あれの後処理じゃないの」

「さあ、どうだろうな」

ユーリの発言に皆が何か含みがあるように感じたが、ユーリはただ昨日フレンが言っていたことが気にかかっていたらしい。というのも、

「いや、なんか、封鎖がどうとか言ってたし」

「封鎖? 何のことかしら」

「まさか例の人魔戦争の件で、ベリウスを捕まえるため……?」

「そう簡単に戦士の殿堂が、騎士団に後れを取るとは思えないけどな」

「何であれ、ゴタゴタしそうな予感はする」

ということらしい。
だがベリウスに用事がある人間がここに2人弱は居る。新月の日が近い今、ここで足止めをくらうと次までまた相当な時間がかかってしまう。

一行はなるべく騎士団と関わらずに済むように、慎重に進むということで街から出た。

「あんた方、カドスの喉笛へ?」

しかしカドスへの道中、また魔の砂漠越えに挑戦していた一行に反対側から、つまり自分たちの向かう方面からやって来た商人が声をかけられ、そこでまた面倒な話を聞いた。

「今、カドスは騎士団が封鎖してますよ。ここだけじゃない、山を越えるルート全部がね」

こんなところまで封鎖か。自分の職場の人間がそれをやっていると思うと邪険には出来なかったが、アルノルドはその指示を出している誰かを恨んだ。

「うちらもマンタイクに戻って、のんびり待つか?」

「のんびりって言ってもなぁ……まぁパティちゃんはそれでも大丈夫だろうけど」

「うーん、どうすっかねぇ」

「フレンが封鎖を指示しているのでしょうか?」

「どうだろうな。どっちにしろ、ここで足止め食うわけにゃいかねぇだろ」

「新月過ぎちゃったら、どうしようもないものね」

「でも、頼み込んで通してもらえる状況じゃなさそうだよ」

ある程度顔が利くかもしれないからとアルノルドは先頭に押し出され、皆暗い洞窟にゆっくりと踏み入る。

中に居たのは青い団服の騎士ばかり、アルノルドは一目見てそれがフレン隊と分かりがっかりした。
その騎士に混じり魔物も数匹見え、にも拘わらず交戦する素振りを見せないことから、それらが騎士団によって飼い慣らされたものではないかと推測する。

「なんか、フレンに似合わねえ部隊になってんな。まったくフレンのやつ、何やってやがんだ……」

「これだけ大掛かりな作戦なら、やっぱ人魔戦争の黒幕って話と関係あるのかもねぇ」

「この検問、どうしよっか……」

アルノルドは皆に待っているように伝えて、一番近くにいた騎士に接触した。

「ちょっと失礼」

「あなたは……アルノルド隊長? 貴方も任務でこちらに?」

「……ああ、まあな」

この隊員はきっとフレンとそれほど親しくない、彼の目が行き届いていない部分の人間だと信じて、アルノルドは事情を説明した。

「ちょっと前から指名手配されてるユーリ・ローウェルって人間が居るだろ? そいつをマンタイクで見つけて、今帝都に向かってるところなんだが……ここを通して貰えないかな」

ただしその内容は嘘八百だったが。
エステリーゼのことを話すとフレンに報告されるかもしれない、また戻れ戻らないの押し問答に付き合わされるのは御免だ。ユーリ君ならこれくらいは許してくれるだろう、多分。

「聞いたことはありますが……、しかしここは誰も通すなとのご命令で……」

「こちらは団長閣下からのご命令だが? 通さぬと言うのなら、業務執行妨害と見なして本部に通達させて貰うが」

騎士は慌てて他の騎士に聞きに行った。
フレンは既にノードポリカへ居るのだろうか、話を聞いた隊員も右往左往するだけだ。

これならいける。アルノルドは岩の陰に隠れていた仲間を手招きした。

「なるべくエステリーゼ様が周りの目に留まらないようにしてくれ」

「へいへい。にしても、どうやって話つけたんだ?」

「悲しいことに、大人になると嘘も上手くなるんだよ」

急な来訪者を遠巻きに見ながらひそひそと噂する兵を無視して、一行はあえて堂々と闊歩する。

しかし途中でそれも阻まれた。

「アルノルド隊長? なぜここに……、……! ユーリ・ローウェル!」

他の兵と同じ服装、だがその中身は明らかに他とは違った。
さっき騙した兵がお飾りのフレン隊なら、こちらは真のフレン隊。

「あ、この人……!」

カロル達もその女性騎士――ゾディアに気づき、アルノルドはエステリーゼの手を引いて騎士の脇をすり抜け走り出した。
彼女は流石に騙せない、今は逃げるが勝ちだ。

「ふ〜、追っかけてこないみたい」

洞窟の中腹まで来て、後ろに騎士の影がないのを確認すると、一行は速度を落とした。

「ソディアさんは残ってたんだな……」

「しっかし、こんな危険なとこまで封鎖してノードポリカを孤立状態にしようってんだから、連中かなりマジ気みたいねぇ」

「きっと、ロクでもない事しようとしてるのね」

「フレンがこんな事を指示するとは思えません……」

同感だが、アルノルドは昨晩感じた違和感のせいで断言はできなかった。
だからといってこれら全てがフレンの独断とは思わないが。

「下までは指示が行き届かない、上からは理不尽な指示が来る。隊がでかくなって、偉くなると色々手が回んなくなるんじゃないかね」

「レイヴンさんにしてはまともなご意見ですね。天を射る矢も色々ありますか」

「組織なんてもなぁ、どこもそんなもんでしょ」

「問題は……フレンのやつがどこまで本気かってことだ」

それを本人に確かめるためにも追っ手が来る前に早く洞窟を抜けなければいけない。
それにはエアルクレーネの調査時間を削って貰わなければならず、リタは状況が状況なだけに仕方なく了承した。
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