07.取捨選択の定義

「遂に見つけたぞ、始祖の隷長! 魔物を率いる悪の根源め!」

「ティソン! 首領!」

それはいつだったか見たことのある、カロルが前に属していたというギルドの人間達だった。

「これはカロル君ご一行、化け物と仲良くお話するとは変わった趣味だな」

「闘技場で凶暴な魔物どもを飼い慣らす、人間の大敵! 覚悟せよ、我が刃の餌となれ!」

「カロルの知り合いにしては、ガラが悪いのじゃな」

パティが暢気にそんな感想を零すが、事態はそんな悠長なものではない。
攻撃の色を示す二人に皆も剣を抜く。

「やる気か? 若造」

「やる気はありませんが、こちらに危害を加えるつもりであれば、それなりの対応は取らせて頂きますよ。……あとそれほど若くもありません」

「ナ、ナンは……?」

「お? 気になるか? 今頃闘技場で魔物狩りを指揮してる頃だろうよ。魔狩りの剣の制裁を邪魔する奴ぁ、人間だって容赦しねえぜ」

「かかってこないなら俺から行く! さあ相手になれ、化け物!」

男が振り下ろした刃を片手で受け止め、ベリウスがここはいいから自分の部下の加勢に行って欲しいと頼む。
見る限りすぐにやられてしまうこともないだろうと判断したユーリは、敵の間を縫って外に出た。

闘技場までの道中に倒れ伏す血塗れた人々の群れを見て、カロルが絶句する。

「ひどい……これをナンが……?」

「大丈夫か?」

「……ナッツ様が……闘技場の方を護るために……魔狩りの剣と戦って……、お願いします……助けて……」

「い、今私が……」

慌てて治癒術をかけようとしたエステルの手を取って、ユーリが首を横に振る。
伏していた男はその言葉を最期に動かなくなった。

「……もう少し、早ければ……」

「お悔やみになる気持ちも分かりますが、まだ助けられる方々もいらっしゃいます。弔いは後に、今は急ぎましょう」

死体で出来た通行帯を走って闘技場まで駆け上がる。ライトもついていない広い空間にも何人もの人が倒れていた。
そして空間の隅にはベリウスの部下であるナッツが多勢に圧倒され追いやられている。

「闘技場は現在、魔狩りの剣が制圧した! 速やかに退去せよ!」

「ナン! もうやめてよ!」

「カロル? なんでここに……」

「ギルド同士の抗争はユニオンじゃ厳禁でしょ!」

「何言ってんの! これはユニオンから直々に依頼された仕事なんだから!」

「何だと?」

そんな話は知らないとばかりに訝しむレイヴンの視界に、見知った顔が映った。

「お前……ハリー!?」

「お知り合いですか?」

「ドンの孫のハリーだ。ちょっと、何がどうなってるのよ?」

「お前もドンに命令されたろ? 聖核を探せって」

「ああ。でも聖核とこの騒ぎ、何の関係があるってんだ?」

その会話の横で、ジュディスはナッツを助け出すために動き出す。
ユーリもそれに倣い、話の途中でレイヴンも同じく駆り出される。

「シュ……レイヴンさん、あちらはいいんですか?」

「よかないけど、今はこっちを何とかせにゃならんでしょ。さっさと片付けりゃいい話よ、ほれ手伝って」

ナッツを取り囲んでいた魔狩りの剣の面々達を蹴散らし、ひと段落つくとエステリーゼがすぐに治療を始める。
傷は深かったが、早急な対応のおかげでなんとか命は助けられた様だ。

「あんた治癒術師だったんだな、おかげで命拾いしたよ」

「ベリウスの方は大丈夫なのかの……?」

パティの言葉に応えるように、闘技場のガラスが割れてベリウスとティソン、首領のクリントが落ちてくる。

「うわっ!」

「ベリウス様!」

「ナッツ、無事なようだの。――まだやるか人間ども!」

立ってはいるものの双方とも深手のようで、クリントは忌々しげにベリウスを睨む。

「……この……悪の根源……め……」

「あいつが悪の根源? んなわけねぇだろ、よく見てみやがれ!」

「魔物は悪と決まっている……! 故に、狩る……! 魔狩りの剣が、我々が……!」

「この石頭ども!」

「この……魔物風情がぁ……!」

尚もベリウスに襲いかかろうとする男達を、ジュディスが制する。そのうちに皆がベリウスの傍に駆け寄った。

「すぐに治します!」

「ならぬ、そなたの力は……」

「駄目!!」

先ほどと同じく治療を始めるエステリーゼに、剣を受け止めていたジュディスが叫ぶ。

言われたエステリーゼは咄嗟に手を離したが、もう遅かった。
エステリーゼの手から溢れた光を吸収していくように、ベリウスの体が光りだす。

「こ、これは……いったい……」

「エステルの術式に反応した……? でも、これは……」

「ぐぁああああああああっっっ!!」

突如咆哮を上げ苦しそうに暴れ狂うベリウスに、慌ててアルノルドがエステリーゼを庇う。
さっきまでの様子が嘘のように、あちこちを破壊し始める様はもはや巨大な魔物でしかなかった。

「私のせい……?」

「あのまま暴れられると闘技場が崩れっちまうぜ!」

「ベリウス様! お気を確かに! ベリウス様!!」

「戦って止めるしかないのか!?」

真っ青になっているエステリーゼと暴れるベリウスを交互に見て、なんとか出来ないかとアルノルドは思考を巡らせる。
戦う以外に術があるとしたら……

「……リタ、あれがエアルの暴走って可能性はないのか?」

「なんとも言えないわよ! エステルの治癒術が関係してるとしか……」

「なら、治癒に使われたエアルを抑えることが出来れば……」

「ちょっとあんた、何する気よ!? まさか……」

アルノルドはエステリーゼをユーリの方に軽く突き飛ばして、剣を握りベリウスに突進する。
無駄かもしれないが、ギルドの統領を手にかけるくらいなら僅かな可能性でも試す価値はあるはずだ。

「アル! 駄目です! 戻って!」

「一人で突っ込むな!」

「大丈夫だ、手さえ届けば……っ」

唸る手足をジャンプで飛び越え、体に飛びついて目を閉じる。
量の調節といっても自分の加減でできるものではない、自分が出来るのはただエアルの量を抑えることだけ。

これでなんとか治まってくれと願いながら、アルノルドは掌に神経を集中させた。

「! 今度はアルまで光りだしたのじゃ!」

「あれ、ヘリオードの時と同じ……!」

周りからそんな声が聞こえて、とりあえず抑えることには成功しているのだろうかと思っていると、手から脳へ伝わるように声が響いた。
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