08.風前の灯
フェローの言葉にあった罪を受け継ぐ者達――魔導器を発明したクリティア族に会って話を聞くために、一行は次の目的地へと足を進めてた。クリティア族の一人であるジュディスの言によれば、テムザよりも古くから在るミョルゾという街は魔導器発祥の地らしく、そこの住民であれば古い伝承も知っているのではないか、との事だった。
隠されているというその街を知るクリティア族を、リタが以前にアスピオで見た覚えがあるというので、皆はその記憶を頼りに一路アスピオを目指す。
「流石に疲れたわ、とりあえず人探しは明日にしましょ」
アスピオに着くなりそう切り出したリタに疲労困憊の面々は賛成したが、カロルが待ったをかけた。
「先に話しておきたい事があるんだ」
「……私の事ね」
「ボク、ずっと考えてた。ギルドとしてどうすべきなんだろうって。で、思ったんだ。やっぱりギルドとしてやっていくためにも決めなきゃいけないって」
「どうするか決めたんだな?」
ユーリの言葉にカロルは頷き、真剣な顔でジュディスを見る。
「言ったよね。ギルドは掟を守る事が一番大事。掟を破ると厳しい処罰を受ける。例えそれが友達でも、兄弟でも。それがギルドの誇りなんだって」
「ええ」
「だから……皆で罰を受けよう」
「え?」
「ボク、ジュディスが一人で世界の為に頑張ってるの知らなかった。知らなかったからって仲間を手伝ってあげなかったのは事実でしょ。だからボクも罰を受けなきゃ」
ぽかんとしているジュディスを置いて、カロルは今度はユーリを見る。
「ユーリも自分の道だからって秘密にしてる事があった。それって仲間の為にならないでしょ」
「ま、まぁな……」
「だから、罰を受けないとね」
「もの凄いこじつけ」
黙って見ていたリタが思わずそんな感想を漏らした。
だが、カロルは至って真剣な面持ちのまま、皆に騙り続ける。
「……掟は大事だよ。でも正しい事をしてるのに、掟に反してるからって罰を与えるべきなのか……、ホント言うとまだわからない。なら、皆で罰を受けて、全部やり直そうって思ったんだ。これじゃダメ?」
「オレ、まだ秘密で何かするかもしれないぜ?」
「信頼してもらえなくてそうなっちゃうんなら、しょうがないよ。それはボクが悪いんだ」
「またギルドの必要としてる魔導器を破壊するかもしれないわよ? ギルドの為、という掟に反するわ」
「でもそれは世界の為だもん。それに掟を守る為にギルドがあるワケじゃないし、許容範囲じゃないかな」
「それって掟の意味あるの?」
「はっはっは、そんなギルド聞いたこと無いわ。面白いじゃないの」
「うむ、型に囚われることは無いのじゃ、自由がいいのじゃ」
「カロル、お前凄いな。オレは自分がどうするかってのは考えてたが、仲間としてどうしていくかって考えられてなかったかもしれない。オレには思いもつかないけじめの付け方だ」
「ボ、ボクはただ皆と旅を続けたいだけなんだ。皆の道と、凛々の明星の道を同じにしたいだけなんだよ」
「そっか、そうだな。ジュデイ、そういう事らしいぜ」
「おかしな人たちね、あなた達ホントに……。でも、そういうの嫌いじゃないわ」
ジュディスの処遇がどうなるのか心配していたエステリーゼも、事が穏便に済んでホッとした様子で微笑んだ。
その隣で、同じく微笑んでいたアルノルドは、静かに目を伏せる。
(……騎士団も、こう在ればいいのにな)
自分の頭で考えることを放棄したのはいつからだっただろう。何がきっかけだっただろう。
もう随分と長い事、自分は命令に従うだけの傀儡だった気がする。最初の頃はカロルの様に、何が正しく、何が間違っているのかに頭を悩ませていたような気もするが。
(考えてもどうしようも無かったから、自分一人の力じゃ何も変えられ無かったから、嫌になって諦めたのか)
ユーリ達と旅をしてきて、その姿に何度も苛立つ事があった。
きっとそれは、自分が諦めて手放してしまったものを、欲しくても手に入らなかったものを、彼らが持っているからなのだろう。
自分の話を聞いてくれる人、気持ちを解ってくれる人、困難な道を共に歩んでくれる人。――仲間。
共に働く同僚は数居れど、共に戦う仲間と呼べる人はアルノルドには居ない。厳密には"居なくなった"のだが。
自分に限らず、今の騎士団は皆それぞれに孤独なのではないかとアルノルドは思った。シュヴァーンもフレンも、恐らくはアレクセイも。
長く騎士団に身を置けば置くほどに、それが当たり前のように感じていたが、カロル達を見ているとどうしようもなく虚しくなる。
「ね、アルも凛々の明星に入らない? 騎士団抜けたんだよね?」
突然カロルに話を振られ、感傷に浸っていたアルノルドが顔を上げる。
「いや、まだ抜けた訳じゃないよ。まあクビになるのはほぼ確定してるだろうけど……、もしそうなったら、カロル君達が良いなら喜んで」
「ホント? やったあ! 待ってるね!」
「クビになるのを待つっていうのもどうかと思うわよ」
本当に、このまま騎士団とは縁を切って、彼らと共にギルドの人間として暮らしていけたとしたら、きっと自分が欲しかったものは手に入るのだろう。
けれどそれは、ただ逃げているだけなのではないだろうか。
(……カロル君達の仲間になるのなら、俺もきちんとケジメは付けないといけないよな)
忘れていた過去の古傷が疼くのを感じながら、アルノルドは人知れずそんな決意をした。