08.風前の灯

その後。カロル達が受ける罰の内容が「休まずに目的の人探し」になったお陰で、目当てのクリティア族は早々に見つける事が出来た。
話を聞いてきてくれた凛々の明星の三人が、休んでいた残りのメンバーに説明。

「エゴソーの森ってところに手掛かりがあるみたいだぜ」

「ここから南の大陸、ヒピオニアの西の方だったと思うよ」

「その森にミョルゾってのがあるの?」

「扉があるのよ」

「はぁ? 扉? 何それ?」

「ミョルゾに通じる扉だとさ」

「その扉を開ける鍵が、ヒピオニア大陸の赤い花が咲く岸辺の洞窟に隠されてるんだって」

今一つ要領を得ない話ではあるが、とりあえず行ってみようというユーリに皆が続く。
目的の場所は上空から見ても一目瞭然だった。綺麗な赤い花が敷き詰められた場所に降り立った一行は、岩壁に囲まれた地形を見て首を傾げる。

「見た感じ何もないな……、ユーリ君、ここで合ってるんだよな?」

「聞いた話には合致してるが……」

「嘘教えられたんじゃないの?」

「待って、ここから空気が流れ込んでるわ」

ジュディスの言葉にピンと閃いたリタが、さっさと魔術を展開して岩壁を破壊する。
崩れた瓦礫の向こうは空洞になっており、奥まで道が続いているようだった。

「開きました!」

「まったく誰かね、こんな意地悪したのは」

「貴方みたいな不審者が入らないように、蓋をしてあったのかもね」

「ぐわっ、俺様狙い撃ち!? ヒドいなジュディスちゃん」

いつものようにそんな軽口を叩いているレイヴン達を他所に、パティは何やら驚いた顔でその洞窟を凝視して固まっていた。

「……パティちゃん? どうしたんだ?」

「……なんでもないのじゃ。ちょっと……暗いのが怖かったのじゃ……」

「暗いのが怖いなんて、子供だね」

「あんたが言うか」

怖いのなら待っていてもいいと言うユーリの言葉に平気だと返して、パティは暗い表情のまま瓦礫を飛び越えて行く。

暗いのが怖いって、幽霊船は平気だったのに?
そう不思議に思いつつ、アルノルドも洞窟に入る。

奥まで進んでいくと、一箇所だけ光の差し込む場所があった。
そこにはカロルの背丈ほどの楕円形の石が整然と並べられており、それを見た一行は足を止める。

「これってまさか……お……墓……!?」

「しかも……すごい数……」

「やっぱり、場所間違えたんじゃないかね」

石の表面には文字が彫られており、墓石の前に屈んだエステリーゼがその文面を読み上げる。

「ブラックホープ号事件の被害者、ここに眠る……。その死を悼み、その死者をここに葬るものなり」

ブラックホープ号と言えば、アイフリード率いる海賊ギルド海精の牙が襲ったと言われている船の名だ。
となれば必然、この墓はその時の被害者たちのものなのだろう。噂には聞いていたものの、実際に目にすると改めて酷い事件だったのだと思い知らされる。

特にアイフリードの孫らしいパティには堪えたのだろう、がっくりと膝を折りその場に蹲ってしまった。

「パティ……」

「いくらなんでも無理ないわ。この歳で、この現実を受け止めろって方が無茶だ」

「この墓……誰が建てたんだろ?」

「さあ……事件の生き残りがいた、とかな……」

「でも……なんてこと……」

この状態で連れまわすのは酷だろうと、傷心する彼女と護衛のラピードをその場に残して、他の面々で鍵を探すことにした。
暫く進むと行き止まりに当たってしまい、先と同じように隠し扉でもあるかもしれないと手分けして周囲を調べる。

「……あれ。ここ、何か違和感無いか?」

「ん? ……そうか? 別に何ともねーぞ」

ユーリはアルノルドが示した壁をコンコンと叩いてみたが、特に音が反響するような事も無い。
見た目にも周囲を囲む岩壁と何ら遜色は無く、どこがおかしいのかと問われたアルノルドも困惑して首を捻った。

「いや、なんかおかしいなと思ったんだ。うまく言えないんだけど、他の壁とここだけ違うような……」

材質か? と思って岩肌を摩るアルノルドに、近くを探っていたジュディスも気付いてやって来る。

「どうしたの?」

「ここに何かあるような気がするんですが……、調べても特に何もないので、気のせいかもしれません」

ジュディスはじっとその壁を見つめると、何かに気付いたのか僅かに目を見開いて、徐に言葉を紡ぐ。

「……解けよ、まやかし。我選ばれし民、汝が待ちわびし者なり」

すると突然、ただの壁でしかなかったその場所に扉が現れた。
周囲に散らばっていた面々もそれに気づいて、驚きつつ駆け寄って来る。

「な……何したの……!?」

「クリティア族には、物に込められた情報を読み取るナギークという古い力があるの。その力でこの扉を隠していた岩壁の幻惑を取り除く秘文を読み取ったの」

「クリティアにしか開けられない扉があるとは聞いてたが、なるほどな」

「それにしても、貴方はよく気付いたわね? クリティア族以外には分からない筈なのだけれど」

「ああ、それなら多分、父親の血のせいです。父はクリティア族だったので」

「え!?」

その場に居た全員に大袈裟なリアクションを返され、何の気なしに答えたアルノルドは困惑。

「……そ、そんなに驚く事ですか?」

「そりゃあ驚くわよ、初耳だし。そもそもクリティア族って人と滅多に関わらないんじゃなかったっけ?」

「そうね、滅多に居ないわ、結婚ともなると尚更ね。……けれど、そういう事なら貴方の体質にも少しは説明が付く」

「どういう事です?」

「クリティア族はエアルに適応した種族なの、貴方達のような普通の人と比べてエアルへの耐性が強いのよ。加えて、ナギークのお陰で大抵の武器は武醒魔導器無しで扱う事が出来る」

「確かに、特徴としては当て嵌まってるな」

「……全然知りませんでした。なら、俺のこの体質は血筋が原因って事ですか?」

「その可能性が高いとは思うけれど……、クリティアの血が流れているというだけで貴方のようにはならない筈よ。お母様はどうだったのかしら?」

「母は普通の人間……だったと思います、少なくとも見た目の上では」

「何よ、ハッキリしないわね。自分の母親の事でしょ?」

「親にわざわざ貴方の種族は何ですか≠ネんて聞かないだろ? 知らなくて困る事も無かったし」

「今困ってるじゃない」

「いや、それはそうなんだけどな……」

「騎士団に入る時に聞かれたりしなかったのか?」

「その時にはもう亡くなってたから、人魔戦争で」

「……ああ、そういやテムザに住んでたって言ってたな。悪ぃ、嫌な事思い出させて」

「大丈夫だよ、もうずっと昔の事だから」

「そうだったのね。前からどこかで見た顔だと思ってはいたけれど」

「あれ、テムザでお会いした事ありましたっけ?」

「会ってはいないわ、私が貴方を見かけた事があるだけよ」

「ちょっとちょっと、アルちゃんの話で盛り上がるのはいいけど、目的忘れてない?」

レイヴンに促されて、皆は話を中断してミョルゾへ至る鍵とやらを探しに扉の先へと向かう。
そこには、台座の上に鎮座している小さな鐘が一つ。

「もしかして、これがミョルゾへの鍵かな」

「そうね、鐘って言ってたから、きっとこれよね」

「にしても、なんで鍵の隠し場所にお墓が作られてんのかねぇ」

「偶然じゃないですか?」

「かもな。墓を作った奴は、ここが鐘の隠し場所だなんて知らなかったんだろ。何であれ、目的の鐘も手に入ったし、パティの所へ戻ろう」

鐘を手に墓所まで引き返すと、大人しくパティの傍で彼女を見守っていたラピードが、主人の姿を捉えて起き上がった。
ユーリはそれを労いつつ、墓の前に座り込んでいるパティの肩を叩く。

「パティ、立てるか? 行くぞ」

「……サイファー……」

亡くなったうちの一人だろうか、誰かの名を呟いたパティはのろのろと立ち上がって、先んじて洞窟から出ていく。
フィエルティア号に皆が乗り込んで出発してからも彼女の表情が晴れる事は無く、やがて暗い面持ちのまま口を開いた。

「うちは……この辺りで皆とバイバイしたいのじゃ。そろそろ、ユーリ達と別れる潮時なのじゃ」

「……本気か?」

「なぜ突然? わたし達と一緒に行くのが嫌になったんです?」

「そういう訳ではないのじゃ」

「もし、アイフリードの事でボクたちに気兼ねしてるんだったら……」

「これ以上、迷惑をかけるのはイヤなのじゃ。例えみんなが気にしてなくても……ウチが嫌なのじゃ」

確かに、アイフリードの世間での悪評は軽いものではない。これまでにも彼女がその関係者であるという事を知った者が、心ない罵声を浴びせてくる事すらあった程だ。
名を売り出そうとしている凛々の明星にとって、今の彼女の存在は足枷になるかもしれない――が。

「……何を今更。どいつもこいつも、迷惑なヤツばっかじゃない。あんた一人居たくらいで、この集団で何が変わるのよ」

「確かにリタの言う通りだな。周囲の目って言うなら、騎士団員の俺の方が余程悪目立ちしてるだろうし」

「本当にやるべき事を優先させるためだってなら、引き留めやしないんだけどな」

「パティちゃん居なくなったら、ちょっち寂しいわね」

「もうここまで一緒に来たら、遠慮なんかなしだよ」

「一緒に砂漠も超えたし、たくさん一緒に戦いました」

「それにその答えは、何もこんな場所で出さなくてもいいんじゃないかしら?」

口々にそう言われ、最後にユーリが「今降りられると船を動かせる奴が居なくなって困る」とダメ押しする。
それでもパティは納得がいかないようだったが、暫く考えるようにと言われて漸く頷いた。
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