04.日輪を亡くした月

「今日一晩くらい、あいつらと一緒に居てやれよ。別れの挨拶もしときたいだろ?」

そうアルヴィンに促され、足取りは重いまま、ラスヒィは一人シャール家の玄関へと足を踏み入れる。

中にはジュード以外の仲間が皆顔を揃えていて、入ってきたラスヒィを見るなりエリーゼが駆け寄る。

「ラスヒィ、もう大丈夫なんですか……?」

「……ええ、大丈夫ですよ。ご心配おかけしました」

「そう……ですか、よかったです……」

「本当に、すっごく心配したんだぞ〜!」

眼下で微笑むエリーゼにも、相変わらず直球なティポにも、ラスヒィは必死に取り繕った笑顔と言葉を向ける。

今の自分は上手く笑えているだろうか?
こんなにも本音とは裏腹な言葉を吐いたのは初めてだったが。

「……ミラさんの容態はどうですか?」

「それが……」

暗い顔で言い淀むエリーゼ。
不意に二階のドアが開き、誰かが駆け下りてきた。

ジュードだ。だが彼は皆に見向きもせず、外に飛び出していく。

「……何かあったんですね」

確信を持ってラスヒィがそう言うと、彼女を治療していた医師が説明をしてくれた。
三度もの爆発によって傷つけられた彼女の足が、全く動かなくなってしまったということを。

「治すことは出来ないんですか?」

「私の力では、これ以上はどうにも……」

当然といえば当然の結果だった。
あれだけ酷い損傷を受ければ、その後どうなるかなど誰にでも分かることだろう。きっとミラも理解していた筈。

それでも彼女は、自らの使命のために動いた。
その決意と覚悟は、どれほどのものだったのだろう。

「……エリーゼちゃん、ローエンさん。お話があります」

せめてこの二人にだけでも、別れは告げておこうと、ラスヒィは口を開く。

今の自分は、彼女に合わせる顔がない。
自らの使命を投げ出して、楽になろうとしているこんな自分では。






夜。街の宿屋に戻ったラスヒィを、ロビーに居たアルヴィンが意外そうな顔で出迎えた。

「おかえり。今日くらい屋敷に泊まってくりゃ良かったのに」

「……あそこには、今は長居したくありませんから」

どこを見ても、何に触れても、クレインのことを思い出してしまう。
そんな場所にこれ以上居るなんて堪えられない。

「で、お別れはちゃんとしてきたのか?」

「……エリーゼちゃんとローエンさんには」

「ミラとジュードには?」

「…………」

「……ま、旦那がそれでいいならいーけど。ミラ、目を覚ましたんだってな」

「はい。ですが……足はもう動かないそうです」

「へぇ、そりゃ大変だな」

どこか他人事のように、冷たく言ったアルヴィンは、カウンターで受け取った部屋の鍵をラスヒィに渡した。

「出発は明日な。今日はゆっくり休んどけよ」

ラスヒィは手の中にある鍵に視線を落として、今までのことを振り返る。

どうしてこんなことに。
家を出たときは、こんなことになるなんて思いもしなかった。
特に何か目的があったわけでもないし、ただ退屈凌ぎに──そう、退屈凌ぎにやっただけに過ぎなかったのだ。

これは勝手なことをした自分への罰なのだろうか。
かつて世界中のどこよりも温かく感じた街は、今はただただ心を冷やしていくばかりだった。






「……そういえば、ラスヒィさんは?」

同刻。
少しは落ち着いて屋敷に戻ってきたジュードは、ここに居ない人物のことを話題に上げた。

すると途端に、エリーゼが泣き出しそうな顔になる。

「ラスヒィは、ラスヒィは……」

「……ここでお別れだそうです」

上手くその先の言葉を紡げないエリーゼに代わって、こちらも悲哀に満ちた顔のローエンが答える。

「やっぱり、そうなんだね」

「知っていたのですか?」

「アルヴィンから聞いたんだ。ラスヒィさんと一緒に行くって」

仲良くなってくれたのなら、ジュードにとっては喜ばしいことなのだが。
それをあまり嬉しく感じないのは、今の状況が悪いからだろうか。

「クレインさんが居なくなって、あんなに落ち込んでたのに……大丈夫なのかな」

「……分かりません。ですが、彼を止めることも出来ませんから……」

「そう……だよね」

「みんなバラバラになっちゃうのー?」

ティポのその言葉には、誰も言葉を返せず。
重苦しい沈黙だけが、静かな屋敷を支配していた。
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