04.日輪を亡くした月
覆い被さるようにベッドに上がってきたアルヴィンに、ラスヒィは横向きになっていた体を仰向けにする。「……なんですか?」
アルヴィンは何も言わず、ただゾッとするほど冷めた目でこちらを見下ろすだけ。
せめて何か言ってくれと不安になりながら相手の次の行動を待っていると、いつかと同じように唇を塞がれた。
あの時は一瞬だったが、今度はいやに長い。
彼は人に嫌がらせをする以外に時間の潰し方を知らないのだろうか?
ラスヒィは息苦しくなって相手の胸板を叩いて押し戻す。
「はぁっ……な、んなんですか……貴方は……!」
「これくらいでいちいち騒ぐなよ」
やっと返ってきた相手の声は低く、ただの冗談だと本気で思っていたラスヒィは、これがいつもの悪ふざけではないことを察して身を強張らせた。
相手は再び唇を食んで、そのまま歯の間から舌を滑り込ませてくる。
口の中で蠢くソレが気持ち悪くて、耐え切れずに歯を立てるとようやく解放された。
が、代わりに頬に平手打ちを喰らう。
パシィン!と乾いた音が静かだった部屋に響いて、何をされたのか一瞬理解できなかったラスヒィは、じんじんと痛む頬に手を添える。
「な…………」
「フッ、親にも叩かれたことないのにーってか? どこまでもお坊ちゃんだなぁ、旦那?」
いつものようなおどけた笑み。
だが、そこに穏やかさは感じない、狂気的なものだった。
不意に服に手をかけられて、襟元のボタンを外されたかと思うと、露になった首筋にアルヴィンがしゃぶりつく。
「っア、ルヴィン、やめ、何を……っ!」
かと思えば今度は強く吸われ、一度離れては更にボタンを外していく。
「何してるんですか……っ、ふざ、ふざけてるならやめて下さい!」
「なんだ、まだ自分が可愛いのか?」
外気に晒されたラスヒィの上半身を、手袋を取ったアルヴィンの手が弄る。
するすると滑るように動くそれに、ラスヒィの口から意思とは関係なく声が漏れた。
「言っただろ? 旦那の全部、俺にくれって」
「っは……なっ……あ、れは……っ」
「あれは? そういう意味じゃなかった? そんなもん、あんたが決めることじゃない」
胸板にある突起を刺激されて、甘い刺激に体が震える。
羞恥に堪えられず相手に殴りかかろうとした手は、いとも簡単に押さえられた。
「お前はもう、俺のもんなんだよ」
「そんっ……やめっ、アルヴィン!!」
相手の手は下腹部に伸び、そのまま下の衣服まで取り払いにかかる。
力の無いラスヒィの抵抗など、アルヴィンには何の意味も成さない。
「あんたの大事なもんはなくなったんじゃないのかよ。親に裏切られて、大事な人は死んで、仲間とは縁切って、もう何も残ってないんだろ? なら体一つどうされたって、大したことはねーだろ」
「…………!!」
グサリ、グサリと言葉の矢が刺さって、死んだはずの心が泣き叫ぶ。
そうだ、自分にはもう何も残ってはいない。
自分も皆も世界も、もうどうだっていい。
だけど────
思考の最中も素肌への愛撫は止むことはなく、アルヴィンの手や舌が全身を這い回り、下着の中に潜り込んだ指先が竿を撫で上げる。
「あッ!? や、やめ……そこは……離し……ッ!」
「おいおい、自分で触ったことくらいあるだろ? そんな大げさな反応すんなよ」
嘲笑され、羞恥で真っ赤になりながら、嫌だという意思表示に頭をぶんぶんと振ってみても、行為は止まない。
竿を包み込んで、上下に擦る相手の手を引き剥がそうと伸ばした手も、ろくに力が入らず相手の甲を撫でるだけ。
「あァッ……! っやだ、やめて下さ……アルヴィン……ッ!」
「ははっ、可愛いねぇ。もっと啼いてみろよ」
相手が同じ部位を曝け出して、重ね合わせてまとめて握りこむ。
熱を帯び硬くなっていくソレに、湧き上がるのは快楽と嫌悪感。
意識したくなくても、全ての神経がそこに集中してしまう。
上擦ったはしたない声が、わななく唇の隙間から溢れていく。
気持ちいいと体が悦んでも、望まぬ行為に心は蝕まれていった。
涙で滲んだ視界は、相手の表情を正確には映さない。
もうどうなってもいい?
そんなの嘘だ。本当は、こんなことされたくない。
嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だいやだ────
「……ク、レイ……ッ!!」
「────っ!」
悲鳴のように搾り出されたラスヒィの声を聞いて、一瞬だけアルヴィンの動きが止まる。
だがすぐにまた再開し、擦り上げる速度は徐々に速まっていった。
箍が外れたように何度も繰り返し同じ名前を叫ぶラスヒィを黙らせるように、アルヴィンはその口を食んで犯す。
やがて、びくん!と跳ねた体に二人分のものが吐き出され、解放されたラスヒィは荒い呼吸を繰り返しながら、この現実を締め出そうとキツく両目を閉じた。