04.日輪を亡くした月

気絶したラスヒィを見下ろして、下りてきていた前髪を上げなおしたアルヴィンは、彼の血と自分の吐き出したものに塗れたそれを引き抜いて、彼に覆い被さるように倒れた。

振り乱された髪や、元々何の穢れもなかった白い肌についた無数の痕を見て、アルヴィンはラスヒィを抱き寄せる。

そうだ、あんたはそれでいいんだよ。
悲痛な顔のままのラスヒィに、アルヴィンは胸の内で告げる。

そうやって、あんたも俺と同じところまで堕ちて来ればいい。
二度と戻れなくなるくらい、黒く汚れてしまえばいい。

暫くは目覚めそうに無い相手を強く強く抱きしめながら、アルヴィンも目を閉じた。






それから数時間後。
まだ夜が明けていない時間に意識を取り戻したラスヒィは、自分を抱き枕か何かのようにして眠っているアルヴィンの腕から抜け出して、部屋にある浴室へと向かった。

シャワーを頭から浴びながら床に座り込んで、体内に吐き出されたアルヴィンのものを必死に掻き出す。
行為が終われば、最中の気持ち良さなど幻であったかのように、残っているのは不快感だけ。

どろどろと穴から出てくる生温かいそれが気持ち悪くて、血が混じっていても構わず、ラスヒィは指を動かし続けた。

ふと視線を上げた先にある鏡に映った自分と目が合う。
健康的だった肌には生傷が広がり、同じようにして口付けの痕が浮かんでいた。

泣き腫らした目は真っ赤で、最近過剰な運動に合わせてろくに食事を取っていなかったせいか、元々痩せていた体が更にみずぼらしいことになっている。

これが自分か? なんて醜い姿だろうか。

見ているうちに笑いが込み上げてきて、叫びすぎて枯れた喉からかすれた声が出る。
それはだんだん嗚咽混じりになって、最終的には泣き声に変わった。

どうしてこんなことになったのかわからない。

どうしてこんなことに。


どうして。


「……ッ、クレイン…………!」


ただ君と笑い合える日々が続いていればよかった。
ただ毎日つまらない日記を綴っているだけでもよかった。

自分で捨てた平穏な日々の全て。
今ではもう、手を伸ばしても届かない。

温かいお湯に打たれ続けているうちに、浮かんできたのは一人の男の顔。

「……ナハティガル…………」


そうだ、全て、あの男のせいなんだ。


クレインが死んだのも、自分がこんな目に遭っているのも、何もかも全部────


「あいつが……あいつのせいで……!!」

憎しみに震える拳の爪が、皮膚に食い込んで血を流す。
湯気で曇った鏡は、幸か不幸かその時の表情を映しはしなかった。
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