04.日輪を亡くした月
翌朝。相変わらずうまく眠れなかったせいで、上手く持ち上がらない目蓋を擦りながら支度を整えていると、昨夜はしゃいで疲れたのか、少し遅れてエリーゼも起きてきた。
ローエンは先に起きているようで、姿の見えない彼を探しにラスヒィが下に降りると、最悪のタイミングで外からジュード達がやって来る。
「ラスヒィさん!?」
「ジュード君……お久しぶりです」
「来てたんだ! いつから!?」
「昨日着いたところですが……ミラさん、もう歩けるのですか?」
「ああ、ジュードたちのおかげでな」
そうは言うものの、彼女の足には未だ包帯が巻かれており、松葉杖も持っていた。
動くようになったとは言え、まだ本調子では無いのだろう。
ローエンが皆をテーブルに招いて、それぞれ朝の挨拶を交わす。
ラスヒィはそれとなく辺りを見回してみたが、アルヴィンの姿は無かった。
まだ帰っていないのか、それとも部屋で寝ているのだろうか。
「でも、また会えてよかったよ。前別れるとき、挨拶もできなかったから……そういえば、アルヴィンは一緒じゃないの?」
「一緒には来たんですが……昨夜は用があると言って何処かへ行ってしまって」
「そっか……」
「ミラさん、本当に行くのですか?」
「ああ、私には使命を果たす責任がある」
「責任、ですか……あなたは強く気高い。しかし、それが私の古い傷跡をえぐるようです」
「ローエン?」
「クレイン様にこの国を救ってほしいと託され、私は悩んでしまった。今の私にできることがあるのだろうか、ナハティガルを止められるだろうかと……」
悲痛な顔で視線を下げるローエンに、ジュードがその所以を考えながら問う。
「ガンダラ要塞の様子だと、二人は知り合いみたいだったけど」
「友人です、とても古くからの」
「そうだったんですか? 知りませんでした」
「友と戦えるのか……それがお前の悩みか」
「えー! 友達とケンカしなきゃいけないのー?」
「決断に必要なのは時間や状況ではない、お前の意思だ。……私たちと共に行かないか? ローエン」
他者を自分の道に引き入れることを好まない筈のミラの誘いに、ローエンが顔を上げる。
「悩むのもいい。だが人間の一生は短い。
時間は貴重なものだろう。なら悩みながらでも、進んでみてはどうだ。人とはそういうものなのだろう?」
「ローエン、そうしてみたら? 僕も心強いし」
二人の言葉に、ローエンが嬉しそうに笑いを溢した。
「確かにジジイの時間はとても貴重。立ち止まってはもったいないですね」
「じゃあ……」
「はい、是非同行させて下さい」
「わ、わたしも一緒に行く……です!」
「ダメだよ。エリーゼは、ドロッセルさんのところへ帰るんだ」
「エリーゼさん、お嬢様にお伝え下さい。ローエンはイル・ファンに向かいますと」
「で、でも……」
エリーゼは救いを求めるようにミラを見上げたが、ミラは小首を傾げるだけ。
人の感情の機微に疎いのは相変わらずの様だ。
「サマンガン海停に知り合いの者がいます。すぐに呼び寄せましょう」
「カラハ・シャールでしょ? 一緒に行かないの?」
「私に考えがあります。任せてもらえませんか?」
「そっか。それじゃあ船に乗るまでだけど、一緒にいようね」
「ひどいぞージュード君ー!」
ティポに泣きつかれたジュードにも、エリーゼの気持ちは理解できていない様子。
置いていかれるのが嫌なのだろう。ジュード達はエリーゼの身を案じて言っているのだろうが。
「ラスヒィ、君はどうする?」
「……私も、ナハティガルのところへ向かいます」
「なら、一緒に……!」
「ですが、今はアルヴィンと行動していますので。彼を置いて、ミラさんたちと共に行く訳には行きません」
戦力的には、ジュードたちについて行くのも、アルヴィンについて行くのも、そう差はないだろう。
けれど今の精神状態で、ジュードたちと共に居るのは辛かった。
「……そうか、分かった」
「すみません、誘っていただいたのに」
「でも、行く先が同じなら、きっとまた会えるよね。アルヴィンによろしく」
出来ればもう、君たちには会わずに済ませたいのだが。
綺麗なままの一行の中で変わってしまった自分が、ラスヒィは嫌で嫌でたまらなかった。