04.日輪を亡くした月
ジュードたちが出て行った後、ラスヒィが一人ロビーで待っていると、程なくしてアルヴィンが帰ってきた。「よっ旦那。エリーゼ達に会ったんだって?」
書置きを見たのだろうか。ラスヒィはこくりと頷いて、二人で部屋に戻る。
「用は済んだのですか?」
「ああ。──さてと、俺達も早く行こうぜ」
「えっ?」
今行ってはジュード達と鉢合わせてしまうではないか。
どういうつもりだと荷物を纏め始めるアルヴィンに抗議すると、一人分の荷物を投げ渡される。
「んじゃ、旦那とはここでお別れだな」
そう言って本当に自分を置いて出て行こうとするアルヴィンに、ラスヒィは慌ててその腕を掴む。
「どーすんだよ、一緒に来んのか?」
「ジュード君たちと一緒に行くつもりですか!?」
「ああ、そーだよ。一緒だと何か不都合でもあるわけ?」
「だって貴方は……! 貴方はミラさんたちの敵でしょう!!」
アルヴィンはそれがどうしたと鼻で笑った。
些細なことだとでもいうように。
「だったらどーする? 俺を止めるか?」
荷物を持っていた手を離して銃に持ち変えたアルヴィンが、ラスヒィの額に銃口を押し当てる。
早すぎてとてもついていけないその動きに、ラスヒィは青くなって固まった。
「やめとけ、あんたには無理だよ」
剣を掴もうとしていたラスヒィの手が押さえられる。
アルヴィンは相手が震えていることに気付くと、フッと笑って銃を下ろした。
「大人しくしてれば、何もしねーって」
離れていく相手に、殺しきれなかった恐怖心がようやく落ち着く。
行くぞ、と差し出された手を掴んだ己が、ラスヒィには誰よりも何よりも憎らしかった。
停泊所には皆が集まっており、白衣を着た見ず知らずの夫婦──恐らくはジュードの両親だろう二人も居た。
見送りに来たのだろうが、父親と思しき男性がジュードに何かを怒鳴っている。
声を掛けづらいなと尻込みするラスヒィの手を引いて、アルヴィンはずかずかと踏み込んでいった。
「ダメだ! 行かせるわけにはいかない。彼女は……お前が関わろうとしているのは……」
「おいおい、俺達どんな縁なんだよ」
「アルヴィン! ラスヒィさん!」
「旦那に聞いたぜ、おたくらも行くんだろ? せっかくだし一緒に行こうぜ」
「来てくれるんだね!」
と、喜ぶジュードとアルヴィンの顔を交互に見て、男性が呆然と呟く。
「知り合い……なのか?」
「うん、前にずっと一緒だったんだ」
「アルヴィン君ー、ぼくたち置き去りにされるー」
「かわいそうだなー、十分戦えるのにな。なあ、連れてってやろうぜ」
「しかし、アルヴィンさん……」
「いざとなりゃ、俺が守ってやるからさ。頼むよ、ローエン」
「頼むよー、ローエン君ー!」
アルヴィンの口調を真似たティポが、ローエンの頭にかぶりつく。
出発を知らせる汽笛と船員の声が上がっても外れてくれないティポに、ミラが折れた。
「ティポが取れない以上、仕方あるまい」
「OKだってよ。ほら、乗った乗った」
「やったー!」
「一本取られましたね」
船に駆けていくティポとエリーゼに続いて、ローエンも船へ歩き出す。
ジュードとミラも呼ばれて皆の元に向かうが、ジュードは父親に呼び止められて、一度振り返った。
「父さん……」
「ジュード、言うことがあるだろう」
ミラに促され、ジュードは真っ直ぐに父親の目を見て一言。
「……行ってきます」
「……忘れるな。大人になるということは、自らの行動に責任を取るということだぞ」
去っていくジュードを、不安げに見守る二人。
あの父親は、何をどこまで知っているのだろう。
「ラスヒィさん! 早くしないと、船出ちゃうよ!」
「はやくはやくー!」
ジュード達に呼ばれて、ラスヒィも重い足を前に出す。
以前の自分だったなら、ここで父親に何か一言でもかけてやれただろうか?
ジュードは自分が護るから、安心してくれていいと。
危ない奴は自分が見張っているから、不安がらなくてもいいと。
同じように考えたのか、何かを告げようとした父親が一歩前に出る。
その期待に満ちた眼差しを、目を逸らすことで拒否したラスヒィは、彼の目の前でアルヴィンの手を取ることで、その希望をも打ち砕いた。