05.交錯する想い

カラハ・シャールに居た時と同じ顔ぶれが、波を押し上げ突き進む船の上に並ぶ。
もっとも、同じと言えど、あの頃とは違う部分もあるのだが。

「この船ってラコルム海停行きだよな、イル・ファンに行くんじゃないの?」

「乗ってから聞く? ホント、アルヴィンってそういうのこだわらないね」

「俺が来たのは、エリーゼ姫のためだからな。どこ行くにも問題ねーんだよ」

「いやーんうれしー! アルヴィン君は友達だねー♪」

「お前じゃねーよ」

エリーゼの腕を抜け出して宙を待っていたティポは、大げさに落胆する。
それを見たエリーゼがまさに天使のような笑顔を見せた。

そんな心温まる風景に穏やかに微笑んでいた一行の中で、一人眉根を寄せるラスヒィに、ジュードが気づく。

「アルヴィンが良くても、ラスヒィさんは困るんじゃないの? いろいろ予定とかあったんじゃ……」

「そんなことねーよ、なぁ旦那?」

肩に腕を回して髪の触れ合う距離で同意を促すアルヴィンに、ジュードが「相変わらずだね」と苦笑する。

彼は知らない、カラハ・シャールでラスヒィらと別れる前と今とでは、その言動に込められる意味が、まるで違っているのだということに。

拒絶の許されぬその言葉に、ラスヒィが空笑いで「ええ」とだけ返す。

「ローエン、なぜア・ジュールへ向かうのか、理由を聞かせてもらえるか?」

「はい。端的に言うと、今のガンダラ要塞を突破するのは不可能だと思われるからです。以前、ミラさんが負傷され、脱出を試みたとき、ゴーレムの起動を確認しました」

「ゴーレム?」

「ち、ち、地の精霊を使った人間の兵器……なんですよ」

「アレと戦うには、師団規模の戦力と戦術が必要になります」

「けど、海路も無理なのにア・ジュールへってことは……」

「ア・ジュール側の陸路を経由して、イル・ファンへ向かうということか?」

「ほう、そりゃまた。でもよ、ファイザバード沼野はどうすんのよ?」

同意するジュードに、ミラは分からないのか再び怪訝な顔。

「イル・ファンの北にある広大な沼地でね。ガンダラ要塞と対を成す、ラ・シュガル最大の自然要塞って言われてるんだ」

「あそこ、霊勢がめちゃくちゃで、通り抜けられないって話じゃなかったっけ」

「いえ、変節風が吹きましたので、現在は地例小節に入りました。つまり、霊勢が火場から地場になったこの時期であれば、ファイザバード沼野も落ち着いているはずです」

ローエンとジュードの説明に、小さな少女と大精霊様は二人そろって理解不能だと言う。
エリーゼはともかく、マクスウェルを名乗るミラがそれはどうなのだろうか。

そういえば久しく日記をつけていないなと、頭に入ってくる会話をただただ聞き流しているだけのラスヒィは、せっせとミラの生態を観察していた日々を、何を感じるでもなく思い出していた。

「ま、とりあえず問題なさそうってことでいいんじゃねーの?」

「はい、いいってことです。時間もあまり残されていないようなので」

「何がー? なんでー?」

「皆さんがカラハ・シャールを去った後も、ガンダラ要塞のゴーレムは起動したままとの情報を得ました。これは、ラ・シュガルが開戦準備を始めた証と捉えてよいでしょう」

「開戦って、ア・ジュールと!?」

「戦争……ですか? 怖い……」

「戦争などに使われる前に、クルスニクの槍を破壊しなくてはな」

「う、うわああああ!」

突然響いた船員の悲鳴に、なんだなんだと皆が近づく。
船員が震えながらで指差した先には一つの樽。
その中を覗き込んだジュードが、入っていたソレを見て乾いた笑いを漏らした。






「あはは……待ちくたびれて、つい寝ちゃった」

一体どんな恐ろしいものが、と思いきや、船員を震撼させた樽の中身はといえば、そんなおどろおどろしい内容とは程遠い少女だった。
まあ、積荷の中に人が入っていれば驚くのも無理はないが。

「そんな問題? すぐに帰りなよ」

「やだよ、わたしだって一緒に行くんだから」

「遊びじゃないんだって」

「知ってる」

ね!と同意を求めて横に居る人物に呼びかけた少女は、その顔を見て「誰?」と首を傾げる。

「アルヴィン君だよー」

「よろしく、譲ちゃん」

「わたしレイア。こちらこそ宜しくね、アルヴィン君」

にこやかに手を取りぶんぶんと振る、自分より頭ひとつ分背の低い少女に言われたアルヴィンは、その敬称に苦い顔。

「ね、いいでしょミラ。わたしも一緒に」

「そうだな……、理由を聞かせてくれ」

「鉱山で思ったの、わたしもミラみたいに強くなりたいって」

「……それだけか?」

「そう来ると思った。ちょっと待ってね」

レイアはなにやらごそごそと服の中を漁って、一枚の紙を取り出しミラに渡す。

一方で、完全に状況においていかれているラスヒィは、今は何事にも無関心を決め込んでいるとはいえ、さすがに気になって問う。

「ええと……彼女は一体?」

「僕の幼馴染。僕の家によく手伝いに来るから、脚の治療の時にミラとも知り合ったんだ」

「手伝い……診療所でしたよね? 彼女が医療の手伝いを?」

「うん、看護師見習いで」

幼馴染、見た目からしてもジュードと同じ年だろうか?
あんなに若いのに、しっかりしているものだ。

そんな少女は一体ミラに何を手渡したのか、笑う彼女の前で仁王立ちしている。

「わかった、一緒に行こう。気に入ったよ、人間らしくて」

「もう……」

「さって、お許しが出たとこで……、みんな、よろしくね!」

皆の前に立ちばっと片手を挙げ、そう挨拶し笑った少女は、今のラスヒィには眩し過ぎるほどに、曇りのない笑顔を向けた。
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