08.嘘吐きは誰?
明朝。教会前には、ミラとガイアス、両方の陣営が揃っていた。「空中に停泊している艦へは、どのように攻め入るつもりなのですか?」
「城に繋いであるワイバーンを使う」
「城まではどうする?」
「俺の城に向かうのに、策を弄するつもりは無い」
「大通りから突破する」
「そんな! 無茶だよ!」
「そうです。せめて二手に分かれて……」
言いかけたローエンは、相手側の意図に気付いて引き下がった。
大股で地面に屈んでいたアグリアが、煩わしそうに立ち上がる。
「てめえらの意見なんて、求めてねーんだよ!」
「ジュード。お前の為すべきこと、解っているか?」
「うん。ミラを勝たせる……それが僕の為すべきこと」
ガイアスはウィンガル達を伴って、言葉の通り正面からカン・バルクへ向かった。
「教会の脇から、市街に続いている道があるわ」
最後にプレザがそう付け足して、アルヴィンを一瞥して去っていく。
「……アルヴィン。プレザさんと、一度ちゃんと話をした方がいいですよ」
「今更何話すんだよ。あいつとは、もうとっくの昔に終わってる」
「プレザさんは、そうは思ってません。……貴方だって、本当はそうでしょう」
「……………………」
「好きで今の関係を維持しているのなら、話は別ですけど。傍から見てると、中途半端でモヤモヤしますよ」
「ん? ……旦那、それってヤキモチ?」
またそうやって茶化す。
ラスヒィはムッとした顔でアルヴィンを見たが、アルヴィンは「ごめんごめん」と言いつつ楽しそうにニヤつくだけだった。
一方、ガイアス達の素っ気ない対応に悄気げるエリーゼの隣で、ティポが吠える。
「もー! なんで仲良くしてくんないのー!」
「うふふ。どうしましょうか?」
「そうだな……」
「教会の脇を抜けて、裏道から市街へ入り、そこからは屋根伝いで城を目指しましょう。そして、空中戦艦奪取と共に、城と兵達を奪い返すのです。……彼らは陽動を買って出てくれたんですよ」
悩むミラ達に、ローエンがそう提案。
何故ガイアス達が正面突破などという無謀な方法を選んだのかを遅れて理解したレイアは、「素直じゃないなぁ」と笑う。
そうして、一行は行動を開始した。
屋根の上から大通りを見下ろすと、交戦しているガイアス達の姿が見えた。
流石と言うべきか、黒匣の兵器を操る敵を、彼らは難なく倒していく。
だが、数は向こうの方が上だ。あちこちから押し寄せてくる敵に囲まれ、ガイアス達の歩みが止まる。
「苦戦していますね」
「助けた方がいいんじゃない?」
「……私達が向かえば、彼らの陽動が無駄になる。任せるしかない」
一行が固唾を飲んで見守る中、今度は街中の兵や市民が、武器を手にその場に雪崩込んできた。
皆ガイアス達の窮地を見て加勢に来たらしい。その光景を見て、皆顔を綻ばせる。
「あんなに人望があるんだ」
「お前の役目は、ミラを勝たせることなんだろ?」
「うん。行こう」
もう心配は要らないと、皆は再び駆け出した。
ラスヒィは眼下の光景に羨望の眼差しを向ける。
「……凄い団結力ですね。カン・バルクの……ア・ジュールの民は、強制されずとも、自らの意思で王を助け、共に戦っている……」
「ええ。理想的な国家の姿です」
「……ラ・シュガルは、どうしてそうなれなかったのでしょうか」
ガイアスとナハティガル。ア・ジュールとラ・シュガル。
ここまで大きな差が出来てしまったのは何故なのだろう。
その心中を慮りながら、ローエンも今は亡き友に、過ぎ去った日々に想いを馳せる。
「……理由は無数にあるのだと思います。その内の一つは、貴方がナハティガルに言っていた言葉の通りでしょう。足りなかったのは、他者を慈しむ心……優しさです」
「……………………」
「我々は、互いを尊重することも、痛みを分け合うこともしなかった。手を取り合い、共に歩むことを放棄してしまった……その結果が今なのだと思います。私がナハティガルの傍に在り続けていれば、少しは違ったのかもしれません」
それは自分も同じことだと、ラスヒィは思った。
外の世界に目を向けるより、まず己の周りに目を凝らすべきだった。
それを過去の自分に言葉で説いても、きっと伝わりはしないのだろうが。
「ですが、その償いについて考えるのは後にしましょう。我々が今すべき事は、他にあります」
「……そうですね」
少なくとも、外からやって来た侵略者に、ラ・シュガルを、そこに生きる皆を明け渡すわけにはいかない。
彼らの明日が失くなれば、償いどころではなくなる。
(その為にはジランドを……そう言えば、アルヴィンは彼と面識があるようでしたが……)
どういう関係なのだろう。
同じアルクノアなのだから、ジランドもエレンピオスの出身ではあるのだろうが、単なる同郷の士という風には見えなかった。
気になるが、まずは目先のことに集中すべきか。
ラスヒィは先を行くミラ達に続いて屋根から飛び降り、厩舎からワイバーンを拝借して空へ飛び立つ。
そうして目的の船までは問題なく辿り着けたが、甲板に降り立って早々、敵に見つかってしまった。
ここまで来て退くわけにもいかず、一行はその場で迎え撃つことにしたが、倒せども倒せども敵は湧いてくる。
「ちょっとちょっと、流石に多くない!?」
「時間も惜しいですし、何か手を打たないと……」
「……二手に分かれよう。一方が艦橋まで辿り着いて、この船を地上に降ろすんだ」
「確かに。そうすりゃガイアス達の支援もある。ここの敵もどうにかなるな」
「問題は、誰が行くかですね」
そう話し合う間にも、敵は絶え間なく襲ってくる。
ジュードはミラに先へ行くよう促したが、
「はーっはっはっは! 俺の地獄耳で、話は聞かせて貰ったぞ!」
ミラが動くより先に、空から聞き覚えのある男の声が降って来た。
敵も味方も、皆一様に空を見上げると、声の主はワイバーンから飛び降りて、見事甲板に着地――は出来ずに、頭から艦砲に落下。
何だ何だと様子を見に集まった数人が、数秒の沈黙の後に吹き飛ばされる。
「今の声……」
「イバル!?」
「あいつ、生きてやがったか」
アルヴィンはその悪運の強さを称えるように言った。
皆の前に現れたイバルは、ぶつけた頭を腫れ上がらせながら、ジュードを指して言う。
「おい偽物! 貴様の出番など無い。ここからは、俺の独断上だ!」
「イバル! うん、お願い!」
恐らく悪気は無いのだろう。満面の笑みでそう返すジュードに、彼と張り合うつもりだったイバルが固まる。
「ぐぬぬ……なぜ貴様は、俺の活躍に嫉妬しないっ!」
「あ……なら、やっぱり僕が。イバルは見てていいから」
「はっ! お前に活躍の場など無い!」
どけぃ! と近寄って来ていた敵を蹴り飛ばして、イバルは一人艦橋へと走って行った。
ファイザバード沼野での失態を考えると、彼一人に任せるのはかなり不安が残るが、この際贅沢は言っていられない。
イバルを追いかけようとする敵はジュード達が引き受け、十数分ほど経ってから、艦橋の掌握に成功したとの報せが入る。
「イバル! この船を地上に降ろして!」
『貴様に言われなくとも分かっている! うん……これ……じゃない……あった、コレだな』
不安を煽るそんな独り言の後、甲板に配備されていた自律型の機械兵器が突如動き出した。
タイミング的に、恐らくイバルが操作を誤ったのだろう。既にヘトヘトの一行は、イバルへの恨み言を述べながら撃退する。
「なんとか倒したな……」
「もうちょっと……勘弁して欲しいですね……」
敵はまだ残っているが、流石にもうこれ以上は戦えない。
こんな事ならイバルに任せずに自分が行けば良かったと皆が思っていると、三度ワイバーンが船に近付いてくる。
降りてきたのはガイアス達だった。
カン・バルクの奪還が済んだのだろう。ウィンガルの指揮で、あっという間に残りの敵が捕らえられていく。
「ガイアス達だけで、どうにかなったのかもね……」
ジュードのそんな感想に、皆は脱力してへたり込んだ。